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【転生】辺境伯家の長男 《千客万来》スキルに今日も振り回される  作者: jadeit
幼少期編

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第10話 え、俺、誘拐された?

※一部に暴力表現や戦闘描写が含まれます。

苦手な方はご注意ください。

「……うん、知らない天井だ」


 思わず懐かしいセリフを口にしてみた。

――ってそうじゃない! 本当どこだここ!?


 もしかして俺、また死んで転生した? 体は……ちゃんと動く。っていうか――動くけど、縛られてる!? 赤ん坊じゃないってことは転生はしてない。よし、セーフ。

……いやセーフじゃない!


 混乱の中、とりあえず状況を整理してみる。俺は確か、城下町に視察に出かけていたはずだ。


 冒険者ギルド、市場、孤児院――どこに行こうか? なんて行き先をアンナたちと話していた。その時ふと、商店の窓ガラスに映った自分たちの姿を見て気づいたんだ。

……うん、どう見ても怪しい。


 身なりのいい幼児(俺)、メイド(アンナ)、兵士ザックス、そして知的そうな紳士(アレクシス先生)。


「……まさに貴族ご一行様って感じだ」

――視察っていったら、“どっかの遊び人さん”みたくお忍びで行くべきだよね。


 よし、最初の行先が決まったぞ。


「アンナ、よく行く洋服屋さんに連れてって」

――ということで、まずは変装作戦開始である。


 アンナは町娘スタイル。普段の清楚な雰囲気から一転、素朴な服装がよく似合う。「似合ってるよ」って褒めたら、頬をほんのり赤くして「ありがとうございます」って……うん、よいね。


 次にザックス。双剣を外すわけにはいかないので、無難に冒険者スタイルに。元々傭兵だけあって、見た目の違和感ゼロ。店員のお姉さんにも「素敵ですね」とか言われてた。

(……この人、どこ行ってもモテそうだな)


 アレクシス先生は今のままで問題なし。


 問題は俺だ。子供服が無い。店員さんに聞いてみたら「最近できた店にある」と教えてくれたので、そこへ直行。


 アンナがやけに張り切って選び始め、「こちらの方が可愛いです!」「いえ、こちらも!」とファッションショー状態。

……時間かかりそうだなぁ~。


 ようやく一着に決まり、試着室に入ったところで――気づけばこの天井。そして、後頭部がズキズキ痛い。

……つまり、試着中に襲われて誘拐されたわけだ。


 今回《千客万来》さんが呼び寄せたのは、“絆”じゃなくて“厄介事”の方だったみたいだな。


「はぁ……まったく、何呼び寄せてんだよ」


 ひとまず、冷静に周囲を確認してみよう。手足はしっかり縛られているけど、魔法でどうにかできるな。


 部屋は薄暗く、壁は粗い石造り。上の方に小さな窓――いや、小窓? がある、さすがに小さいな。窓からは石畳が見えているってことは、……なるほど、ここは地下。


 これじゃ壁を壊しても地上に出られないな。正面には扉もあるが外に何人いるかわからないし、下手に騒げば即アウト。


 さて、どうしたもんかと困ったふりをしてみたが、ふっふっふ。俺には《アクア・パピリオ》があるのだ。


 水の蝶を生み出すだけの地味魔法。でも、あの小窓を通して外に出すことができる。小窓から外を見やると、石畳の向こうに街灯の柔らかい光が揺れているのが見えた。


 アンナはこの魔法を見たことがあるし、もし空を飛ぶ水の蝶を見たら――きっと気づいてくれるはずだ。


 そんな淡い期待を胸に、壁の方を向き魔力を込める。《アクア・パピリオ》――発動。


 俺の指先からふわり、と水の蝶が羽ばたき、小窓を抜けて外へ。一羽、二羽、三羽……羽ばたくたびに水滴が微かに弾け、夜風に揺れる光が、宙に浮かぶ小さなランタンの群れのようにきらめく。


 よし、とりあえず二十羽くらい飛ばしておけば誰か気づくかな。集中して魔力を送り込む。

祈るような気持ちで、蝶たちを見送っていると――


――バンッ!!

デカい音を立てて扉が勢いよく開いた。


「おいガキ! なにやってやがる!!」


 突然の怒鳴り声に、振り向いた俺は一瞬固まってしまった。次の瞬間、お腹に衝撃が走り壁に叩きつけられていた。痛みで思わず呻く。


「っぐはぁ!」

――くそぉ、一瞬息が止まったぞ!!


「てめぇ、なめたことしてんじゃねぇぞ!」


 入ってきたのは筋骨隆々の大男。腕には入れ墨、片目には傷跡。顔も声も、いかにも悪党。その男は近づいてくると、さらに蹴り続けた。


「くそぉ、魔法なんざ使えるとはな。余計な事しやがって! 自分の立場、わからせてやる!」


 そのまま何度も蹴りを入れてきた。


「そ、その辺でやめときましょうよ! 本当に死んじまいますって!」


 部下の若い男が必死に止める。


「うるせぇ、奴隷の分際で俺に口出すんじゃねぇ!」


 ドゴッ、と殴られる奴隷の男。だが、その目には、恐怖の奥に諦めきれない意志がわずかに光っているように感じた。


「おい、魔封じの腕輪を持ってこい!」


 部下が持ってきた金属の腕輪を俺に嵌めながら、大男はいやらしく笑った。


「今度余計な真似したら、腕の一本や二本、容赦なく折るからな。ま、顔はいいから変態貴族に高く売れるだろうよ。きっと“可愛がって”もらえるぜ、がっはっはっは!」


……鼻につく笑い声だ。


「おいお前。ガキが余計なことしないよう見張ってろ」


 そう言い残して、大男は出ていった。


――はぁー、失敗したな~。《アクア・パピリオ》が外に出たってことは、誘拐犯にも見つかるってことじゃんか。

……そして魔法も封じられたようだ。これは、ひじょ~に不味い。


(どうしよう……このままじゃ、“【転生】辺境伯家の長男、奴隷になってどん底人生”って話に方向転換してしまうよ……)


 いや、落ち着け俺。混乱してるな。体は……大丈夫。最初の一撃はモロに食らったが、後の蹴りは父上との修練のおかげで何とか受け流せた。


――にしてもあの野郎、ぜってー後で顔面に一発やり返してやる。


 そんなことを考えていた時だった。


「坊や、大丈夫かい?」


 さっき殴られていた“奴隷”の男が優しく声をかけてきた。優しいその声に、胸の奥で微かな希望が生まれたような……生まれないような。


――さて、この人は敵かな? それとも……。


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