第1話 転生
初めての投稿になります。
(知らない天井だ)
まぶしい光の中で、俺は目を覚ました。身体が……動かない。手も足も小さい。え、なにこれ怖! どうなってるの? とか思ってたら泣き声が聞こえてきた。泣いてるのは……俺か。
「おぎゃー、おぎゃー」
うーん、どうも感情がコントロールできない。どうやったら泣き止むんだ? うん? 誰かが来たようだ。てかデカ。あぁ、俺が小さくなってるのか。
「はいはい、坊ちゃま、どうしました? 怖い夢でも夢でも見ましたか?」
そこには10代半ば位のかわいい女の子がいた。これはもしやメイドさんと言うやつではないかな。
「怖くないですからね、大丈夫ですよ」
と言いながら彼女は俺を抱っこして背中をポンポンとしてくれた。
――あー、なんだろう、めっちゃ落ち着く。
その声は、不思議と胸の奥まで届くように温かかった。
(……あ、これはやばい)
「おぎゃー、おぎゃー、……スヤー」
* * * * * * *
(何となく知ってる天井だ)
俺は目を覚ました。身体は……ちょっとだけ動かせる。良かった。さて、冷静になったところで考えてみよう。
俺は地球という星で、普通に暮らしていたはずだ。ただ名前や年齢、そこそこの一般常識や知識があるから社会人として働いていたんだろうけど、どんな仕事をしていたのかは思い出せない。
おそらく死んだんだろうけれど、その理由もわからない。そして現在、俺は赤ん坊になっている。
つまりこれは――よくある異世界転生ってやつだ。好きでこの手の小説をよく読んでいたけど、実際に転生するとはちょっと感動だ。
てかこういうのって、転生前に何か白い空間で神様とか天使様っぽい存在に会ってチートなスキルや魔法なんかを授けてもらうのがお約束では?
もしかして、忘れてるだけでそんな能力が既に身についていたりするのか? よし、ここは定番のあれだな。
「あー、あぅー、あぁー(ステータス)」
はい、赤ちゃんなのでしゃべれませんでした。そもそもそんな能力ないのかな? え、ちょっと待って、チートな能力もなく転生ってハード過ぎませんか。これはもうやり直しを要求します。詫び石プリーズ。
「おぎゃー、おぎゃー」
しまった、変なこと考えてたらまた泣き出してしまった。まだ感情のコントロールがうまく出来ないんだよね。どうしよう、早く泣き止まねば。
「あらあらレオンちゃん、どうしました~」
おや、今度は前回のメイドさんじゃなくて違う美人さんが来たぞ。ってそうじゃない、この流れはまずい、早く泣き止まなければ。
「おぎゃー、おぎゃー、……スヤー」
* * * * * * *
「うん、知ってる天井だ」
あれから3年の月日が流れた。ちょっとずつ調べて、ようやくこの世界や家族の事が何となく理解できた。いや、めっちゃ大変だった。
メイドさんや使用人のうわさ話を盗み聞ぎし、喋れるようになれば可愛らしく
「このご本が読みたいです。」
とおねだりして、書斎にある小難しいこの国に関する本を読んで情報を集めた。もちろん大人達は本当に読めてるとは思っていない。
「まぁ、旦那様の真似をして可愛らしいですね」
なんて言っていたけど、実際はちゃんと読めていた。そう、言葉もそうだけど、この国の文字も理解できたのである。
『もしかしてこれがチート能力かな、だとしたらショボいな~』
とか思ったけど、まあ役に立ったので良しとしよう。そうして3年かけて調べた結果俺が生まれたのは、アルトリウス王国の南方、〈バルトル領〉。
そして俺は、この領地を治める辺境伯家の長男 “レオン・フォン・バルトル”として生まれたようだ。
数百年前には“魔王”がいたが、勇者によって討伐され今は平和。とはいえ森には魔物が出るし、辺境はまだまだ危険地帯。
しかも昔、勇者召喚を繰り返した影響で地球と世界の境が薄いのか、地球からの“転移者”がちょくちょく現れるらしい。そのせいで、地球の文化や便利道具がすでに魔道具化されて広まっている。実際に屋敷の廊下を移動すると、壁に埋め込まれた魔石ランプが淡く灯っていた。
(ん、電球か。いや、魔石で光ってるのか。これ、地球文化浸透しすぎでは? つまり、知識チートは使えない。俺の出番、いきなり無いじゃん。)
初めて見たときは愕然としたものだ。そして“転移者”は世界を移動する際、超人的な肉体や魔法の才、特別なスキルを授かってやって来る。いわゆるチートである。
この事実を知った時は
「なんて羨ましい、贔屓だ贔屓だ」
なんて思わず叫んでしまいそうになったが、ではこの世界の住人にはスキルや魔法は授かれないのかといえばそうではない。
この世界の人は5歳になると、教会で加護を受けてスキルを授かる。調べた資料に平民について記載がなかったが、貴族は全員受けるらしい。戦闘向き、生活向き、何が出るかは神のみぞ知る。
そして俺は少し期待していた。転生者だし、もしかして勇者スキルとか来たりして、
『お~、あなたは伝説の勇者様の生まれ変わりです』
何て言われたらどうしようー、とか思ってニマニマしてしまったよ。
次に魔法だけど、これも5歳になったらスキルを授かるときに自分の適性属性や魔力量なんかを調べてくれる。んだけども実は俺は既に知ってる。
ちなみに赤ん坊の頃にやったステータス鑑定は、喋れるようになってから改めて試したけどやっぱり出来なかった。
『ステータスオープン』とか大声で叫んでも何も起きなかったときは、ものすごく恥ずかしかったけど、今となっては良い思い出です。
俺の使える属性は“風”と“水”の二つ。何で知ってるかというと……
『赤ん坊の頃から魔力を空になるまで使って魔力量を増やす修行は定番だよね』
とか思って実践してる過程で使えたのが“風”と“水”だった。そしてこの修行、この世界でも有効だったようで恐らく魔力量は上がってると思う。
他の子も同じようなことをしてるのかと思っていたけどそうではなかった。どうやら魔力を扱うのはとても難しく危険で、過去には魔力の暴発や魔力枯渇で怪我や死亡する子供もいたようで、この世界では5歳になってから魔法の勉強を始めるようになったらしい。
(確かに魔力使い切ったら普通に気絶してたし危険だよね。……やめないけど)
あ~、早く5歳にならないかな。俺のスキル、一体どんなすごいやつなんだろう。
――まさか、あんな毎日になるとは、このときの俺はまだ知らなかった。




