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「我こそは!と思うものは申し出よ!」
私とロレッタは、魔女の頼みを聞いて──聞かずに通り過ぎてもよかったのであるが、あまりにも憐れに思えたのである──近隣の村々を練り歩き、魔女の伴侶となりたいというものを募ることにする。
「魔女っていうのは──眠れる森の魔女のことかい?」
そう問いかける村人に、私は魔女の使いらしく、重々しく頷く。
魔女は、森の外に知り合いなどいないと言っていたのであるが、実際には彼女を知るものは多かった。もちろん、男にとっては、魔女は街道を使えない原因なのであるからして、忌むべき存在なのであるが──女にとっては、森で迷っているところを助けられたもの、山菜の生えているところを教えてもらったもの、さらには赤子のための薬を処方してもらったものなどもいて、意外に評判がよいのである。とはいえ、求めるは男──いくら女の評判がよかろうと、それは解呪の役には立たない。
「意外に集まったもんだねえ」
ロレッタの言に、うむ、と頷く。
森の外周をぐるりとまわり、村々をめぐった結果──意外にも、数十人が名乗りをあげたのである。あれだけ魔女に怨嗟の声をあげていた男どもが、これほど集まろうとは思ってもみなかったのであるが──彼らからもれ聞こえる話からするに、魔女の財を目当てにするものがほとんどのようで──そこに真実の愛があろうとは、到底思えない。
「それでは──今から魔女の城に出発する!」
ロレッタは、魔女の使いらしく、威勢よく宣言して。
「眠りについたものも、森の外までは連れ帰るから、安心して」
私は彼らの不安を払拭するように続ける。
私たちは、森に足を踏み入れる。
「のろのろ歩かないで! 駆け足で!」
ロレッタの命に従って、彼らは駆け足でついてくる。呪いの効果に打ち勝つ可能性を少しでもあげるために、最短の距離を走破するつもりなのである。
しかし──それでも、森の奥に進むにつれて、彼らは眠りに落ちていく。そのたびに、ロレッタの魔法で羽のごとく軽くして、糸を結んで引きずっているのであるが──もはや数が多すぎて、ほんの少し進むにも、たびたび木々に引っかかる始末で、走りにくいこと、この上ない。
「やっぱり、魔女の呪いに勝てる男なんて、いないんじゃないかなあ」
木々にぶつかる男どもを引きずりながら、ロレッタは悲観的につぶやく。
「でも、まだ走ってる人、いるみたいだよ」
私は後ろを、ちらと振り向いて、ロレッタに返す。
「一人でも残ってくれるといいけど」
それでも、ロレッタの悲観を払拭するには至らない。
私たちは、森を抜けて、茨の城にたどりつく。私とロレッタの背後は、死屍累々──もはや何人を引きずっているやら、数えるのもあきらめている。
私たちは、眠りこける男どもを庭園の隅に放り出して、城の門に向かう。
「ただいまあ」
ロレッタの声が届いたのであろう──魔女は茨を操って、門を開ける。
「どうであった!?」
勢い込んで出迎える魔女に。
「全滅」
ロレッタは首を振って応える。
「──やっぱりのう」
魔女自身、期待はあったものの、同時にあきらめもあったのであろう──そうつぶやいて、がっくりと肩を落とす。
しかし──そのときである。
集団から遅れて、ようやく城にたどりついたものか──男が、肩で息をしながら、ゆっくりと門まで歩いてくる。その足取りは、決して軽くはないのであるが、それはあくまで疲れによるものであって、呪いの眠気によるものではないように思える。
「あの──私は眠ってはおりませんよ」