5
俺たちは三日目の朝に街を発つ。
街を出て、街道沿いに歩けば、緩やかなのぼり坂になる。やがて、高台にたどりついて──俺は足を止める。
「どうしたの?」
前を行くマリオンは、俺が足を止めたことに気づいて、声をあげる。
「──知り合いのお墓?」
俺の視線の先──花の飾られぬ無縁の墓を見て、マリオンは問いかける。
「まあ──ちょっとな」
俺は、ロレッタの手前、曖昧に濁して答える。
「なあ、ロレッタ──花を咲かせる魔法、使えたよな?」
街を発つ前に、花くらい買ってくるべきであった、という後悔が、俺に、らしくない提案をさせる。
「昔の女の墓とかじゃないよね?」
「──違えよ」
ロレッタの鋭い勘に、平静を装って返す。
「この墓だけ、花が飾られてないのは──不憫だろ」
言いながら、俺は名前も知らない女のえくぼを思い出す。
ロレッタは、それでもなお怪訝そうに俺の顔をみつめて──ようやく納得したものか、力ある言葉を唱える。
『花よ、咲き誇れ!』
ロレッタの力ある言葉とともに、墓石のまわりに──白い椿の花が咲く。
しかし──その花の量ときたら! ちょっとした花畑のようで、まるで街一番の果報ものの墓のように飾られているのである。まったく、ロレッタは加減というものを知らぬ、と俺は一人苦笑する。
マリオンと黒鉄は、縁もゆかりもない女の墓であるというに、当然のように墓前で祈りを捧げる。まったくもって、自らを顧みて恥ずかしくなるほどの善人である。だから──というわけでもあるまいが、俺も柄にもなく、女に祈りを捧げる。
「さあ、行こうか」
やがて、祈り終えたマリオンがそう言って、皆が歩き出しても──俺はまだ祈っている。
安らかには眠れないかもしれないが、お前が一緒に足抜けしたいと思うほどの情を抱いていた医者も、あの世に送ってやった。そっちで仲よくするなり、復讐するなり、好きにしてくれい。
そんな節操のない祈りに応えるように、俺の脳裏で女が笑う。えくぼのかわいらしい彼女の──その豊かな乳房を思い起こして、やっぱり抱いておけばよかったなあ、と後悔しながら──俺は皆の後を追うのであった。
「絶影武芸帖」完/次話「ロレッタの小さな冒険(仮)」




