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婚約破棄されて追放されましたが、精霊と妹がいれば幸せです

作者: 月瀬ゆい

「ミーナ=セレスタ!今日限りで、貴様との婚約を破棄する。貴様の義理の妹である聖女メアリに対する愚行、忘れたとは言わせぬぞ! 嫉妬に狂い義妹を虐めるなど……正気の沙汰とは思えん。我が国唯一の聖女を亡きものにしようとした罪で、このアガント王国から永久追放とする!」


 わたしの婚約者である、第二王子フェルド=アガント殿下の誕生日パーティー。

 年に一度のめでたい場で、わたしは身に覚えのない罪で、その殿下に糾弾されていた。

 

 微塵も心当たりのない罪状を大勢の人々の目の前で叫ばれ、婚約破棄と永久国外追放を言い渡されたわたしは、大きく目を見開き、弁明のために口を開く。


「お、お待ちください、殿下。わたしがメアリを虐めたなど……一体、何をおっしゃっているのですか?」

「とぼけても無駄だ、この魔女! 証拠はあるのだよ、山ほどな」


 ニヤリと笑った殿下は、証拠とされる紙束を取り出し、その一部を読み上げた。


「セレスタ家のメイドや、様々な貴族の子息・令嬢から証言があったのだよ。『ミーナがメアリを虐めている』とな。ここではとても言えないような内容もたくさんだ。肝心のメアリは現在教会にいるため、まだ話を聞けていないが……俺が尋ねれば、すぐに貴様から受けた仕打ちの数々を教えてくれるだろう!」


 正気、なの?


 被害者である、わたしの大切な義理の妹メアリ=セレスタ本人から事情を聴いていないのに、他人の証言だけでわたしを断罪?

 それに、聖女の殺害未遂は重罪だけれど、本人の証言もないまま、一方的な婚約破棄と永久国外追放なんて……。


(わたしは、はめられたのね。わたしをよく思っていなかった人たちに)


 確かに、自分が好かれていると感じたことはほとんどなかった。


 生まれつき精霊が見えて話せる、精霊の愛し子。見えない存在と話すわたしを、家族も使用人も、不気味がっていた。

 わたしにやさしくしてくれたのは、精霊さんたちと、六年前に家族になった義妹のメアリだけ。

 

 そんなメアリをわたしが虐めるなんてこと、あるわけがない。


 だけど、あれだけの証言を前に、わたしが無実を訴えても信じてもらえるはずがない。

 肝心のメアリは聖女研修で教会へ行っていて不在。国王陛下は病に臥せっており、王妃様も半年前に亡くなっている。証言の中には両親も含まれているのだろう。


 この場には、わたしの味方なんていない。


(精霊さんに頼めば、こんな人たちくらい……でも、そんなこと、わたしは望まない。あの子たちに、手を汚させたくない)


 侮蔑と好奇、悪意の視線がわたしに集中する中、わたしは唇を強く噛みしめた。


「……婚約破棄と永久国外追放、承知いたしました。ですが、わたしがメアリを虐めたという事実は、一切ございません」

「ふんっ、どこまでも醜い女だな。ああ、貴様はセレスタ家からも勘当だそうだ。……衛兵、この罪人を牢へ!」


(……そうか、わたしはもう、ミーナ=セレスタじゃない。ただの、ミーナになったんだ)


 衛兵に腕をつかまれ、わたしは抵抗することなく、大人しく捕まった。


 


◇ ◇ ◇



 

「おい、魔女。今から貴様を国境沿いにある森へ送り届ける。……仕事なんだ、悪く思うなよ」


 どれくらい時間が経っただろうか。

 無実の罪で牢に監禁されていたわたしは、扉の鍵が開く音で顔を上げた。


 国境沿いにある森、というと、魔の森のことだろう。

 ここアガント王国と、隣国ルカラ国との間にあるアルロ森林。

 騎士団ですら手に負えないほど凶悪な魔物が棲む、恐ろしい場所だった。


(そんなところに送られるなんて……。わたしに死ねって言いたいのね)


 口元に布が当てられ、ツンと鼻を突く匂いがした。


(これ、ゴガイソウ……?)


 そう思った次の瞬間、意識がふっと途切れた。



 

◇ ◇ ◇


 


『ねえミーナ。起きて、起きてー!』

「んん……」


 精霊さん特有の、子どものような口調で呼びかけられ、わたしは目を覚ました。


(ここが魔の森……? でも、精霊さんたちの結界のおかげで、普通の森と変わらない)


 永久追放という、王子の言葉を思い出す。ここはもうアガント王国ではない。ルカラ国の領土だ。


 両親も、婚約者も、もうわたしの人生に関わってくることはない。

 ……その「会えない人たち」の中に、メアリが含まれていることが、唯一の悲しいことだった。


 でも。


「おはよう、精霊さん。あの、地の精霊さんはいる?」

『いるよー! なに? どうしたのー?』

「家を建てたいの。魔法を使わせて」

『もちのろん! まかせてっ!』


 地の精霊さんが張り切って応じると、森の空間が揺らぎ、立派な木造の家が現れた。


 これが、わたしと精霊さんたちの新しい拠点。


(ここでなら、穏やかに暮らしていけそう)


 家の中にはベッドやキッチンにお風呂も完備されていて、精霊さんの気遣いに心があたたかくなる。

 身体も心も疲れていたわたしは、お風呂に入って、すぐにベッドに潜り込んだ。


「精霊さんたち、おやすみなさい」


 ふよふよと漂う精霊さんたちに微笑んで、目を閉じる。

 あっという間に、意識が夢の中に溶けていった。


 


 ◇ ◇ ◇


 


 森で暮らし始めて、一週間が経った。

 毎日をやさしい精霊さんたちとともに過ごす生活は、今までの人生とは比べ物にならないほど平穏で、あたたかい。


 朝食にココベリーのジャムを塗ったトーストを頬張っていたときのことだった。

 コンコン、と、扉を叩く音がした。


『誰だろー?』

「さあ……わたし、出てみるね」


 立ち上がり、声をかけながら扉を開く。

 そこには——。


「えっ、メアリ!? どうしてここに?」


 大好きな聖女の義妹、メアリが、満面の笑みを浮かべて立っていた。


 思わず、自分の目を疑ってしまう。だって、ここは魔の森。アガント王国の領土ですらない場所に、あの子が一人で来るなんて。


「ふふっ、やっぱり驚いてる」


 メアリは楽しそうに微笑んで、わたしの目の前に立っていた。変わらず美しく、でもどこか少しだけ、疲れたような顔。


「……どうして……ここに?」


 わたしの声は震えていた。


「お姉さまが追放されたって聞いた時、頭の中が真っ白になった。協会に申請して、私は『アガント王国の聖女』から『ルカラ国の聖女』になって、ここまで来たの」


 そこまで話して、メアリは小さく息を吐いた。


「お姉さまのいない国に、わたしの居場所なんてないよ。わたしが本当に守りたいのは、国でも神でもなくて……お姉さまだから」

「メアリ……」


 胸の奥が、ぎゅうっと苦しくなる。


 わたしはこの子のために身を引いたつもりだった。わたしがいなくなれば、メアリはきっと幸せになれる。王族や聖女として、大切にされて、穏やかに生きていけると信じていた。


 なのに。


「ずっと、会いたかったよ。いろんな人に聞いたりして、ようやくここまで来られたの。ねえ、お願い。わたしとルカラ国で一緒に暮らそう?」


 わたしの手を、メアリが両手でぎゅっと包み込んだ。


 ……そんなの、断れるわけないじゃない。


「うん。もちろんだよ、メアリ」


 そう答えた瞬間、メアリの顔がぱあっと明るくなった。


「ありがとう、お姉さまっ!」


 次の瞬間、メアリは勢いよく飛びついてきて、わたしの胸に顔をうずめた。


「来るの、大変だったんだから……。馬車乗り継いで、山道歩いて……あの厳しい聖女修行やっててよかったって、初めて思ったもの」

「ごめんね、メアリ。つらい思いをさせちゃって……でも、来てくれて嬉しい」

 

 ぽんぽんと背中を撫でてあげると、メアリは子どもみたいに頬をすり寄せてきた。


「私、今日からずっとお姉さまと一緒だよ。絶対に離さないからね」

「ふふっ……じゃあ、早速ここを出る準備をしなくちゃね」

『お引越し?ボクも手伝うよー!』


 どこからか現れた風の精霊さんが、ひゅるんと回りながら元気よく返事をした。


 


◇ ◇ ◇


 


 積もる話もあるだろうということで、二人でソファに腰かけた。


「聖女修行から帰ってきたら、あの馬鹿王子、『君を虐めていた憎きミーナは魔の森に捨てた。今頃どこかで死んでいるだろう。メアリ、俺と婚約しよう』なんて言いやがるのよ?お母様もお父様も使用人も、虚偽の証言をしたことを揃って自慢してきたんだから!本当に腹立つ!許せない!私からお姉さまを奪おうだなんて、万死に値するわ……!」


 どうやらメアリは、フェルド殿下と嘘の証言をした人たちに怒り心頭のようだ。

 メアリは昔から、わたしのことが大好きだもんなあ。わたしのために怒ってくれる、すごくいい子だ。……ちょっと重い気がしなくもないけど、そこはご愛嬌ってことで。


「それにね、私が抗議したら、王子は『君のために厄介者を追放してやったのに、なぜ感謝しない?』って、信じられないことを言ったのよ!本当、あの馬鹿さ加減にはほとほと呆れるわ!」


 メアリの怒りは収まらないようで、握りしめた拳がぷるぷると震えている。


「教会に戻って報告するふりをして、その足で国外移動の申請を出したの。教会の人たちは最初、驚いてたけど……私の本気を見て、すぐに認めてくれたわ。ルカラ国の枢機卿様なんて、『どうかうちの国に来てください』って土下座しそうな勢いだったんだから!」


 メアリの語る状況を想像して、思わず小さく笑ってしまう。


「メアリ……本当に、一人で来てくれたんだよね。わたし、ずっと一人で……でも、今こうして会えて、嬉しいよ」

「わたしも……。ずっと会いたかったんだよ、お姉さま。お姉さまのいない人生なんて、意味がないもん」


 ふいに、メアリはわたしの手をそっと握った。


「これからは、もう離さないから。お姉さまのことは、私が守るの。たとえ世界を敵に回しても、何度でも迎えに来るよ」


 その真っ直ぐな瞳に射抜かれて、胸の奥が熱くなる。


「ありがとう、メアリ……。そんな風に思ってくれて、嬉しいよ」

「ふふっ。じゃあ、今日はゆっくり休んで、明日からの準備を始めようね。お姉さまと私の、新しい生活のために!」


 笑顔を交わしながら、わたしたちはソファの上でそっと寄り添った。


(わたしはもう、一人じゃない。精霊さんたちも、メアリもいる。きっとこれからは、あたたかくて、幸せな日々が待っているんだ)


 話題は自然と、これからの暮らしのことに移っていった。


「お姉さまは、無理に働かなくていいんだよ?私がちゃんと稼ぐし、王国からの支援金もあるし。のんびり過ごしてくれたら、私はそれでいいから」

「うーん、それはちょっと申し訳ないかな……。それに、実はわたし、やってみたいことがあるの」

「やってみたいこと?」


 メアリが首をかしげる。わたしはそっと笑って、うなずいた。


「アクセサリーのお店を開きたいの。普通のものじゃなくて、精霊魔法を込めた特別なアクセサリー。防御魔法とか治癒の力を込めて、誰かの助けになるようなものを作ってみたいんだ」

「そんなことができるの!?」


 メアリの目がぱあっと輝いた。


「うん。精霊魔法は、普通の魔法と違って、魔力を石に込めることができるの。たとえば、防御魔法を仕込んだ石をアクセサリーにして身につけていれば、危険が迫ったときに自動で守ってくれるんだって。精霊さんたちも興味津々で、手伝ってくれるって言ってるの」

『楽しいよー!魔法を石に入れると、キラキラって光ったり、ふわふわって浮かんだりするんだよー!』


 ふよふよと舞いながら、精霊さんたちが嬉しそうに弾んだ声で語る。


 魔法を自在に使えるのは貴族だけ。平民には魔法の素養がない人も多く、そうした人たちは冒険や警護の現場で命を落とすことも少なくない。


(精霊さんたちの力で、少しでも助かる命が増えるなら……)


 そんな思いが胸に湧いてきて、自然と笑みがこぼれる。


「わあ……そんなことができたら、たくさんの人が救われるわ。精霊魔法ってすごいのね!さすがお姉さま!」

「ふふっ、大げさだよ、メアリ。でも、精霊さんたちも、誰かの役に立てることを喜んでくれるから」

『うんっ!ボクたち、がんばるー!』


 わいわいと元気に飛び回る精霊さんたちに、メアリも笑みを浮かべた。


 そしてわたしたちは、明日の朝にはルカラ国に向けて出発することを決めた。荷物は多くないけれど、新しい生活に胸が弾む。


 その夜。


「おやすみなさい、お姉さま。大好きだよ」

「メアリ、おやすみ。わたしも、大好き」


 ふたり並んで大きなベッドに入ると、自然と手が触れ合った。どこか懐かしい、あたたかい気持ちに包まれて、子どものころのようにぐっすりと眠ることができた。


 


◇ ◇ ◇



 

 王都に足を踏み入れた瞬間、耳に飛び込んできたのは、人々の話し声や馬車の音だった。活気にあふれたにぎやかな音が、鼓膜を心地よく揺らす。


 目に映るのは、色とりどりの屋台や石畳の道、忙しそうに行き交う人々。初めて見る景色に、わたしはきょろきょろと周囲を見渡した。


「ここが、ルカラ国の王都……!すごく活気があって、なんだかワクワクするね」

「いいところって聞いてたけど、私も実は来るのは初めてなんだ。……あ、あれが私たちの新居だよ、お姉さま。手ごろな空き家だったらしくてね。二階建てで、なんと一階は店舗付き。お姉さまのお店にぴったりでしょ?」


 メアリが指さした先にあったのは、温かみのあるレンガ造りの立派な建物だった。玄関の木扉はしっかりしていて、二階には小さなバルコニーもついている。


 ふたり(と精霊さんたち)で暮らすには、もったいないくらい広くて、ゆったりとした造り。家具も最低限必要なものはすでに揃っていて、すぐにでも生活が始められそうだった。


「うん……とっても素敵なお家だね。ありがとう、メアリ」

「ふふっ、お姉さまが喜んでくれて、何よりだよ。……じゃあ私は、教会に聖女のお勤めに行ってくるね。お姉さまは外出しても大丈夫だけど、人気のない場所や路地裏には行かないようにしてね?もし危ないことがあったら、すぐに助けを呼ぶんだよ?それじゃ、行ってきまーす!」


 心配性なメアリが笑顔で手を振って出かけていくのを見送りながら、わたしは玄関の扉を閉め、室内に戻った。


 ……でも、何もすることがないと、なんだかそわそわしてしまう。

 セレスタ家では、朝から晩までメイドのようにこき使われていたから、こんなふうにのんびりすることなんて滅多になかった。


「うーん……せっかくだし、アクセサリー作りに使う石を探しに行ってみようかな。ちょうどいい宝石が見つかるかもしれないし」

『さんせーいっ!でもボクたちが気に入った石じゃないと、魔法込めてあげないからねー!』


 元気いっぱいの風の精霊さんが、くるくると空中を回転しながら声を上げる。


「ふふっ、わかってますよー。精霊さんたちが『これだ!』って思える石を探しに行こうね」


 わたしは、メアリから「好きに使っていいよ」と預けられた財布を手に取り、身支度を整えて玄関へ向かった。扉の取っ手に手をかけて、深呼吸。


(さあ、ルカラでの新しい毎日を、ここから始めよう)


 わたしは思い切って扉を開けて、晴れやかな笑顔を浮かべた。


 


◇ ◇ ◇


 


「そういえばさ、アガント王国の国王陛下、ご病気が快復されたんだって。お姉さまと私を手放すような真似をしたあの馬鹿王子は、見事に廃嫡されたらしいよ。それに、虚偽の証言をした人たちにはちゃんと処罰が下って、セレスタ家は完全に没落。ちなみに私はとっくにセレスタ家とは縁切ってるから、被害ゼロ。ってことで、安心してねー」


 さらりとした口調で爆弾を落としたメアリに、わたしは苦笑いを浮かべた。


 ルカラ国に移ってきてから、もう三か月が経つ。


 メアリは王都の教会で聖女としての務めを果たしながら、毎日忙しく駆け回っている。口では「めっちゃ大変だよー」なんて愚痴をこぼしているけれど、アガント王国にいた頃よりもずっと楽しそうで、なにより生き生きしている。


 そしてわたしは、精霊さんたちと一緒に、精霊魔法を込めたアクセサリーを製作・販売する小さなお店を始めた。『魔力を持たない人でも、精霊の加護を受けられる』という評判が広がり、今ではおかげさまで注文がひっきりなし。

 暇を持て余していた精霊さんたちも、今では魔法を石に込める作業が楽しくて仕方がないらしく、毎日わいわいと賑やかに働いてくれている。


「もう、メアリったら、あっさり言っちゃって。メアリが王様の病気の特効薬の開発に尽力していたの、知ってるんだから。町の人も教えてくれたのよ」

「えへへ、バレちゃってたかあ。……でも、嬉しいな。お姉さまが町の人と仲良くしてくれてるの、なんだか誇らしい。アガント王国にいたときは、どうしてあんなに誤解されてたんだろうね?お姉さまは、こんなに素敵な人なのに」


 メアリは、わたしの手作りシチューをすくいながら、心から嬉しそうに笑う。


 彼女がわたしの料理を「おいしい」って幸せそうに食べてくれるから、わたしも料理の腕を磨くのがどんどん楽しくなっている。


「……お姉さまを傷つけた人たちへの罰、正直まだ全然足りないって思ってる。でも、こうしてお姉さまが幸せに笑ってくれてるなら、それが一番大事なことだよね」

「メアリ……ありがとう。こんなにわたしを想ってくれる妹がいてくれるなんて……わたし、世界一の幸せ者だよ」

「もう、それは私のセリフ! お姉さまが天使すぎて、ほんと心配になるんだから。変な人に騙されたりしそうで、私は心配だよ!お姉さまのことは私がちゃーんと守るから、安心してね!」


 メアリがいたずらっぽく笑いながら、頼もしい言葉をくれる。


 ……本当に、ここまで来るのは簡単な道のりじゃなかった。

 でも、たとえどんなに辛い過去があっても。

 それを乗り越えた先に、こんなふうに優しくて、まっすぐに自分を想ってくれる妹と、心強い精霊さんたちがいてくれる生活があるなら——。


(あの時、がんばってよかったって思える。だって今のわたしは、それまでの努力を全部足しても、余るくらい……本当に幸せだから)


 満面の笑みで向かいの席に座るメアリ。そして、わたしの頭上をふわふわ漂いながら戯れる精霊さんたち。


 わたしにとっての『幸せ』は、もうちゃんと、ここにある。


(この温かくて穏やかな日々が、どうかずっと、続いていきますように)


 ふと黙り込んだわたしを、メアリが心配そうに覗き込んできた。


 それに気づいて、わたしはぱっと笑顔を向ける。


「メアリ。わたし、今、とっても幸せだよ!」

<用語解説>


魔物…世界各地に発生する淀んだ空気、魔障から生まれる異形。意思はなく、目についた生き物を無差別に殺す。種類によって強さがある程度定まっており、危険度によって三段階のランクに分けられている。動物のような形をしたものから人に似た姿をしたものまで様々。剣や魔法などの通常攻撃でも倒すことができる。


魔障…世界各地に発生する淀んだ空気。人の悪意が具現化したものなど、これがどのようなものかは諸説あるが、詳しいことはわかっていない。聖女の祈りによってのみ浄化することができる。


聖女…聖なる女神に愛されし乙女。二十年に一人現れるかどうかという貴重な存在。バラのような聖紋が胸元にあり、聖なる術が使える。


魔法…体内を流れる魔力を消費して行使する術。基本的に強さは魔力量に比例するので、強さは才能によって決まる。


精霊姫…精霊王に愛されし少女。百年に一度現れるかどうかという非常にまれな存在。その特性故に迫害されることもしばしば。魔力がないため魔法を使えない。別名精霊の愛し子。


精霊…万物に宿りし自然の魔力が意志を持った存在。精霊と精霊王、精霊姫しかその存在を確認できない。


精霊魔法…精霊の行使する術。研究がほとんど進んでおらず、詳しいことはわかっていない。通常の魔法と違って、作り出したものに実体がある。石の中に閉じ込めることもできる。




<キャラ設定>


ミーナ=セレスタ

…精霊姫。ふんわりとした雰囲気の心優しい美少女。メアリと精霊さんのことが大好き。好物はメアリが焼いてくれるクッキーと精霊さんと選んだ果物で作ったジャム。


メアリ=セレスタ

…聖女。元平民で、六年前、その素質を見出したセレスタ家当主とその妻に引き取られた。お披露目パーティーの際、同世代の子どもたちに虐められていたところをミーナに救われ、以来ミーナを異常なまでに信奉している。

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