第53話「幸せだったよありがとう、さようなら」
章などではわけとらんのじゃが、この話の最後が一つの大きな区切りとなっておるのじゃ。お読みいただければ幸いじゃ!
ワシは目の前で黒い炎に巻き込まれるジーナをスローモーションで見ておったのじゃ。
ワシは地面に転がり急いでジーナの元に駆け寄ったのじゃ。
「良かった……コン様無事で……」
「何故じゃ! 何故スライムでワシを押さんかった!」
ジーナの左半身はなくなっておったのじゃ……これではもう……。
「あはは……コン様が死ぬかもと思ったら体が勝手に動いてた……」
ワシはギリギリ維持している白コンと黒コンをジーナに入れてみるのじゃ。
じゃが何も起きん。ワシは項垂れたのじゃ。
「すまんのじゃ……ワシのせいで……」
「ううん……コン様の役に立ててよかった……」
ワシはせめてもと、ルナとグーシャとテンカを集めたのじゃ。ゴブリンと魔鳥にドラゴンの相手をさせ、ジーナの周りに集まったのじゃ。
「グーシャ、これ……」
ジーナは右手でネックレスを無理やり外しグーシャに渡したのじゃ。
「旅の役に立てて欲しいの……」
「ジーナぁ! ジーナぁ……!」
グーシャは大泣きしておったのじゃ。当然じゃ、長い旅をしてきた仲間じゃ。
「ジーナ、私からあなたにせめてもの祈りを捧げます。いつか輪廻転生してコン様と同じ狐の神様に生まれ変わることを上位の神に祈りましょう……」
ルナは涙しながら祈りを捧げるのじゃ。
もう時間がない。ワシはジーナに覆いかぶさり右手でジーナの頬を撫でたのじゃ。
「最期にジーナに聞きたいのじゃ。ワシはお主を幸せにできたかのう?」
ワシの言葉を聞いてジーナは右手を上げてワシの頬を撫で、言うのじゃよ。
「当たり前だよ……今も幸せ。悲しい家から出してくれて、楽しい旅をさせてくれて、私はコン様に幸せを貰ったよ。ありがとうコン様。さようなら……」
ジーナから光の粒が消えていって一粒の涙と共に手が落ち死んでしまったのじゃ……。
「ジーナ……! ジーナぁぁぁぁぁぁ……!!」
ワシは涙が止まらんかったのじゃ。じゃが切り替えねばならん。まだドラゴンは暴れておるのじゃ。
逃げる方法もある、じゃが今ワシには力が溢れておったのじゃ! ジーナがくれた命の神力じゃ。これを無駄にするようなやつは男ではないじゃろ?
「ジーナの弔い合戦じゃ!」
「あのクソドラゴン許さない! ぶっ殺してやる!」
グーシャはゴブリンとスライムを出したのじゃ。どちらの色も変わっておって赤いゴブリンと赤いスライムじゃ。
グーシャもジーナから受け継いでおるのじゃ。じゃからこそ全力で突撃したのじゃ。
ルナがワシに寄ってきてワシの背に手を乗せるのじゃ。
「コン様自身の神力は回復していません。私の力を渡します。それで決めてください」
ワシは完全に力が漲っておったのじゃ。ドラゴンに急接近して一撃をお見舞しに行ったのじゃ!
「これで最後じゃ! 狐依パンチ!」
ワシはグーシャのスライムを足蹴に思いっきりドラゴンを叩き、吹き飛ばしたのじゃ!
最大の神力を乗せたパンチはドラゴンの心臓に響き壊したのじゃ。ドラゴンは血を吐き倒れたのじゃった。
「凄いわ! あの人たちあの黒いドラゴンを倒したわ!」
ワシらの活躍は逃げつつあった人々に見られておったのじゃ。
やがて逃げていた人々は戻ってきて、町の修繕と、ドラゴンの素材集めを始めたのじゃ。
ワシらに鱗と爪を多くくれた町長は、このままダブリュー街を目指してはと言ってきたのじゃ。
この町はよく人が死ぬらしく火葬場があるそうじゃ。ジーナの遺体は火葬し、墓を建てたのじゃ。ワシらはジーナの墓に花を添えたのじゃ。
グーシャはジーナが残したネックレスを握りしめてまた泣いておったのじゃ。
「泣き虫じゃなぁ、グーシャはのう」
そんなワシの鼻声にくしゃくしゃの顔で笑ったグーシャはワシに抱きついてきたのじゃ。
「ジーナの分も抱きつくよ、あたし」
それでよい。ワシは背中をポンポンと叩いてやって、涙を拭いたのじゃ。
町長から一日休んでいくことを勧められ、宿用テントに入るワシらは、なかなか眠れんかったのじゃ。
じゃがやがてルナもグーシャも眠りこけ、ワシは一人かがり火を見ておったのじゃ。
「眠らないの?」
テンカが飲み物を持ってきて飲み始めたのじゃ。
「ワシは眠らんでも大丈夫じゃ。神力は時間が経てば回復するそうじゃしな」
「そっか、眠りたくないんだね」
その通りじゃ。もし夢を見てジーナが出てきたら堪えきれんからのう。
ワシはまだ、ジーナが死んでしもうたのを受け入れられんのかもしれんのう。
「男って意地っ張りだよね。そこはコン様も同じかも。女の前でカッコつけてさ」
テンカの言う通りじゃな。何も言い返せんわい。
「あたしさ、あなた達と出会って浅いけど、ジーナがいい子なのは凄くわかるよ。だからこうなっちゃったんだろね」
「そうじゃな。じゃがジーナは後悔しとらんじゃろうな」
テンカはワシの言葉に頷いて飲み物を啜ったのじゃ。
「あたしも寝るよ。どうかゆっくりされて」
ワシは頷いて明かりを見つめ続けたのじゃ。
夜が明けて、朝ごはんを食べた皆は支度をして町の入口に立ったのじゃ。
「コン様置いていきますよ?」
ルナが先頭に立ち進むのじゃ。ワシは最後尾でゆっくり歩いておるのじゃ。
ジーナ……ワシは……。
「コン様」
その声に驚いたのじゃ。聞こえないはずの声じゃった。
「コン様なら大丈夫だよ!」
その後ろから響いた明るい声にワシは振り返るのじゃ。後ろには誰もおらんのじゃ。
「どうしたんですか? コン様」
ルナが前から声をかけてくるのじゃ。誰にも聞こえとらんその声は、ワシの幻聴だったのかもしれん。
じゃが頭に響いた彼女の声にワシは前を向き、未来へ進むのじゃった。
ジーナ、さよならバイバイなのじゃ!
この話は後書きを書くのじゃ。ワシ、死を扱うのは素人中の素人じゃ。ジーナというキャラを愛されるキャラに出来たかはわからんのじゃが、この死で心が動かされたら嬉しいのう。ここまでお読み頂きありがとうなのじゃ!ここから先も読んでくださると嬉しいのじゃ!




