第5話「やる気の問題」
やる気の問題、現実でもそうじゃよのう?
宿に着いたワシとルナはそれぞれのベッドに転がり、そのまま寝たのじゃ。
そして次の日の朝、シャワー室の灯りが付いとったのじゃ。恐らくルナがシャワーを浴びとるんじゃろう。ワシは覗きなんぞせん。
そもそもルナも十分に幼子じゃ。欲情なんぞせんからのう。そう思ってシャワーから戻ったルナを見たのじゃ。
「……」
豊満な胸にくびれのある腰、プリっとしてそうなお尻。うむ、欲情なんぞせんからのう?
さて、ワシは朝食も食べられんのでルナの朝食が終わるのを待っとると、ルナが残した目玉焼きをワシに差し出してきたのじゃ。
「コン様はこれを食べてください」
「ワシは卵には触れられるのかのう?」
「普通なら触れられません。ですが私の魔力の通った物なら食べられます。この世界に来てから一回も食事してないでしょう? 昨日の件のご褒美だと思って食べてください」
「……ありがとうなのじゃ」
ワシは感謝を述べて目玉焼きを美味しく頂いたのじゃ。卵の旨味がぎゅっと凝縮されとるのかと思ったのじゃが、これはきっとルナのエネルギーも加わっとるのじゃ。
「どうですか?」
「美味しいのじゃ!」
朝食の後、宿を出て再びスラムへと行ったのじゃ。通りはそんなに怪しいヤツはおらんのじゃが、路地裏は怪しいのじゃ。
「行きますよ」
「大丈夫かのう? お主に危険はないのかのう?」
路地裏に向かうルナに声をかける。ワシは誰にも触れられんから大丈夫じゃが、ルナは女の子じゃ。危険が伴うとワシは助けられんのじゃ。
「私は聖なる巫女なので大丈夫です!」
何の自慢にもなっとらんのじゃ。悪漢に襲われたらどうするつもりじゃ?
「おやぁ? シスターさんこんなところへなんの御用ですかぁ?」
考えとったら悪漢が現れたのじゃ! やばいのじゃ! ルナを逃がそうとしたのじゃが。
「ぎゃあ!」
聖なる光が差して悪漢が倒れたのじゃ。一体何が起きたのじゃ?
「あ、ああ、あああああ! ル、ルナ様でしたか!」
何じゃ、顔見知りか?
「私は有名なんですよ、聖なる魔法が使えることで」
なるほど、悪漢が来ても一発KOという訳じゃな。
じゃが乱発はできんじゃろ?
「皆、出てきなさい!」
ルナの掛け声と共に悪漢が集まってきたのじゃ。
「何だ、久々の金蔓だと思ったらルナちゃんだったのか」
めちゃくちゃ顔見知りじゃ。何なのじゃこの娘。
「今日は神様を連れてきました」
悪漢共がざわつき始めたのじゃ。当たり前じゃのう、神様なんて信じられんのじゃ。
「うおおおお! ついに降臨なされたのか!」
と思っとったら予想外の反応じゃ。ワシに期待しとるようじゃのう。
「だから皆さんの悩みを解決します!」
凄まじい雄叫びがあがったのじゃ。どうやらワシの出番らしいのう。
「で、ワシは何をしたらいいのじゃ?」
ワシはルナに尋ねたのじゃ。
「多分頭をこねって背中を叩いたらいいと思います」
「それだけでよいのかのう?」
男たちは整列して並んでおるのじゃ。軍隊かのう?
「ここにおられるコン様に悩みを話して力を貰ってください」
男たちにワシのおる場所を示して祈りを捧げるルナは先頭の男に促したのじゃ。
「あなたの悩みを言ってください」
一体こやつの悩みは何じゃ?
「俺、働きたくないんです!」
ワシ、ズッコケたのじゃ。何じゃ、もっと大層な悩みを抱えとるんかと思ったら……つまらぬ悩みじゃ。
何故働きたくないかというものなんてどうでもよいのじゃ。要はこやつらに働くやる気を出させればよいのじゃろう?
ワシは男の頭を掴みこね回したのじゃ。こねる度に柔らかくなっていく。そしてある程度柔らかくなったら背中を叩いたのじゃ。
ボヨヨンと跳ねる魂。ワシは思いっきり叩いたのじゃ。
「働くのじゃ! 働く人がおらねば世界は動かんのじゃ!」
男は震える拳を抑え、ワシの方に向かって礼をして走っていったのじゃ。
それから男たちの頭をこね回し、背中を叩いてやる気を出させたのじゃ。硬い頭で考えた結果なんて、どれもこれもマイナス思考なのじゃ。
イヤイヤも程々にせい! ちゃんと働くことで世界の役に立っとるのじゃ。誇りを持つとよいのじゃ。
全員の背中を叩いてやった後、ワシはどっと疲れて倒れ込んだのじゃ。じゃが初日と比べて、頭を柔らかくする人数が増えとるのじゃ。
「お疲れ様でした、コン様。私がコン様を背負って宿に行きますね」
ワシは大人しくルナに背負われて宿に着いたのじゃ。
ワシの方が背が高いのに背負われる感覚がおかしくて、いつかルナをちゃんと背負ってあげられたらいいのに思うワシじゃった。
男のワシが女の子のルナに背負われるのは中々辛いものがあるなと思いつつ、ルナの方がこの世界では先輩じゃ。
まだこの世界に来たばかりのワシは赤子のような存在なのかもしれないと思ったのじゃった。
担がれて行くのじゃ。
ここまで読んでくださりありがとうなのじゃ!続きを読んでくださるとありがたいのじゃ!