第455話「ボーン大陸の秩序《三人称一元視点》」
秩序の問題じゃ。
細かいルールは後から追加するにしても、内大陸の多くの国で採用されていたルールを基準にしたアーシェはルーザと共に徹夜で見直していた。
欠伸をしながら見直すアーシェにルーザは一度寝るように言うのだが、首を横に振る彼女はしっかりと頭に叩き込んでいた。
「兄さん、大体の事は決まったと思いますが、このボーン大陸を一つの国として作るにあたり何か問題はないでしょうか?」
「問題? 沢山あるだろうさ」
アーシェはそれを聞いて目を細める。
「どういう事ですか?」
「そもそも完璧な法などない。常に穴があり、どこかしらに欠陥がある。常に時代に合わせて変えていく必要がある。デス大陸の法だって本来の使われ方をするなら問題ないだろう?
だけど、これから先のボーン大陸には通用しない。そういう事だ」
アーシェはルーザの言葉をかみ締めて、自分の立場を理解した。
まずは自分の意思を立ち上げること、その後に民の声を聞くこと、しっかり照らし合わせて、多くの人を救えるようにする。
溢れた人々の救済も必要で、格差は縮まらないだろうことは念頭に置く。
その上でボーン大陸をより良いものに変えていくために、最低限のルールを制定した。
人々はルールを守ることを約束したが、破る者が現れるだろうことは予測ができた。
そこで法を破ったものを捕まえるのにドラゴンの魔王の内、赤と青と緑と紫と黄のドラゴンの魔王に任せた。
「俺は信用できないってか?」
「違います。黒と白にはその上にいて欲しいんです」
あくまで役割として黒と白のドラゴンの魔王に犯罪者捕縛隊の上司を任せるアーシェ。
「私としてはもう引退したい所だ。老体に鞭打たないで欲しい。灰のドラゴンに任せたい」
「お爺様にはまだ現役でいて欲しいのですが……まぁ仕方ありませんね。最低限の監査くらいはして貰えないでしょうか?」
「我儘な孫娘だ。ルーザがいるんだ、問題なかろう?」
いつまでもお爺さんに甘えたいアーシェだが諦めがついたようで、最高責任者をルーザとする事で落ち着いたのだった。
しばらく様子見をしようとしていた所で、人間側から意見が出た。
「俺たちにも役目をくれないだろうか? そうでないと不平等だろう?」
確かにその通りだ。騎士たちもここに来ている。人間側には人間側の秩序が必要だ。
いつもドラゴンの魔王に脅かされるのでは今までと変わらない。ルールを守ってもらうのは当然だが、脅して守ってもらう形では何も進歩しない。
そのためのまとめ役だ。人間達のまとめ役に騎士たちや冒険者を選定してもらい、対等な意見を言える形にする。
こうして人と、魔王や魔族との共存プロジェクトが大きく始まった。
最初は上手くいかないことの方が多かった。結局、下位の魔王は劣等感が強く、上位の魔王は傲慢さが目立ち、人々はそれに合わせて彼らを見たからだ。
下位の魔王には同情が向けられるのに、上位の魔王には侮蔑の目が向けられる。面白く思わないのは今まで優越感に浸っていた魔王たちだ。
結果として争いは生まれたが、ドラゴンの魔王には敵わない。
魔王も魔族も含めて人々のフラストレーションは溜まっていくばかりだった。
これを見ぬふりしてしまうと再び大きな争いになると思ったアーシェは、ルーザと共に意見を集めた。
どの意見も偏った目線で語るものばかりで、どうしようもないのかと思った時、ある意見が目に止まった。
「兄さん、これ……」
「ああ、これ自体はただの訴えだが、これに答えがある」
そこに書かれていたのは、魔王も魔族も全員、ただの力に差がある『人間』ではないのか? という問いだった。彼らを『人間』扱いしてないのは、魔王や魔族自身であるのではという問いかけだ。
例えば普通の人間社会でも、腕力や武力や財力など、それぞれに力がある。それと同じで、魔族や魔王は力の差があるただの人間だ。
下位の神であっても、元は人間だ。力の差でわけるからいけないのだ、という文章が書かれていた。
では何で分ければいいのだろう? 正に種族の違う人間同士が入り交じるこのボーン大陸で、的確に住み分けるには、どうしたらいいか?
人間社会は縦か横かだ。今すぐに横にはできない。アーシェは自分が秩序となる覚悟を決めた。
それについていく意志をルーザは示した。見守ったドラゴンの魔王と共に、アーシェは一つのルールを決めた。
「皆さん聞いてください。これから一つのルールを追加します」
その内容は、簡潔に言うとアーシェが最高首長でかつ最高裁判官であるということ。
ボーン大陸にいる限り、アーシェが生きている限り彼女の決定は絶対。
アーシェに意見を言うのはいいが、却下したら従うこと。
独裁者とも言えるその決定に、誰も文句を言わなかったのは、沢山の人に触れ合い意見を聞き、何とか組み込もうと努力していた姿が実を結んだのかもしれない。
「もし私が暴走したら……きっといつかコン様が怒りに来るでしょうね」
笑いながらアーシェは人々と交流していた。
アーシェがボーン大陸の絶対的存在じゃ。
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