第416話「ルーザの問いかけ」
ルーザの声が届くのじゃ。
ルーザはある話をするのじゃ。
「神様たちは別の世界で普通の人間をやっていたと聞いた。俺は父から神様たちは皆、その世界の理不尽と戦ったり虐げられたりしてきた者たちだと」
白主を当てたお陰で話を聞く体勢に入っている邪神たちじゃ。
「そんな理不尽と戦ってきた神様たちだからこそ、俺たちの痛みがわかると言っていた父は、必死になってあなた達に従ってきたはずだ。俺もあなた達が正しかったら従っていたと思う」
ルーザは気づいたのじゃ。父アーザが気づきつつあった、おかしな点にのう。
「この世界は力こそ絶対だ。だがあなた達の前の世界もあらゆる意味で力が絶対だったのではないか?」
たとえば腕力、脚力、精神力、財力、権力などじゃ。
抗っていた人たちは皆そういう、力こそ正義に抗っていたはずなのじゃ。
「力は確かに必要だ。だが大切なのはそこではなかったのではないか? そう俺は思うんだ」
たとえば絆、友愛、親愛などじゃ。本当に大切なものはそこにあったはずなのじゃ。
「俺たちのこの場所に愛はあっただろうか? 思いやりはあっただろうか? それに気づかされたんだ」
邪神たちは次々に頭を抱えて涙を流し始めるのじゃ。
「俺はもう父を殺された身だ。本来なら狐依コンに恨みをぶつけなければいけないところだ。だが、亡き父の本当に夢見ていた世界の事を思うと腕が上がらないんだ」
アーザが夢見ていたのは、魔王たちも普通に暮らせることだったのじゃろう。理不尽な現状に抗って、戦い続けることだったのじゃろう。
それを導いて欲しかったはずじゃ。じゃが邪神はそれを許さなかったのじゃろう。
「本当に戦わなければならないんだろうか? 殺し合わなければならないんだろうか? 俺たちは分かり合えない生き物なのだろうか? いくら問いかけても応えてくれない人達の言うことまで聞くつもりはない。
ただ、それでも話が通じる人達ならば分かり合えると思うんだ」
ルーザの声は澄んでいて響くのじゃ。綺麗な声じゃった。心から浄化されたように感じるのじゃ。
「だが、俺たちはもう止まれないはずだろう?」
邪神たちが言うのじゃ。確かにもう止まれないじゃろう。
「コン様が止めてくれる。そうだろう?」
「当然じゃ。じゃが一つ言わせてもらうのなら、もう止まろうとしておるじゃろう。ブレーキが壊れておるだけじゃ」
邪神たちは涙を拭い、一斉に力を込め纏うのじゃ。
「殺せ。俺たちは道を違えた。せめて最後くらいは華麗に足掻いてみせよう」
ワシとジーナにルナが言うのじゃ。
(もう十分です。ですが本当に殺してはいけませんよ)
わかっているのじゃ。そう易々とダイダラに力を与えても敵わんからのう。
ワシとジーナは全力で倒しに行くのじゃ。バッタバッタとなぎ倒し、邪神を無力化していくのじゃ。
「俺の声は無駄だったか……」
「そんな事はないぞい! ちゃんと届いていたのじゃ!」
ワシは大声でルーザを励ますのじゃ。ルーザの言葉は邪神だけでなくワシらにも響いたのじゃ。
やがて拡声器を置いてこちらへやってくるルーザ達じゃ。
「殺さなくていいのか?」
「どちらにせよ、マダラとダイダラを倒してからじゃ」
邪神の種を強制的に抜いて殺して、力にする方法もあるじゃろうしのう。
「はぁ……役に立たない奴らだ」
そこに現れたのはマダラじゃった。一緒に潜っていたモグラの邪神の種を抜いて殺し力に変えたマダラはワシらの前に立つのじゃ。
「いい加減にしてくれ! どれだけ俺たちを弄べば気が済むんだ!」
ルーザが怒るのじゃが、マダラは何処吹く風じゃ。全く響いておらんのじゃ。
「お前たちも私たちを搾取しようと企んでいただろう? 同じことさ。支配されるかされないかだ」
マダラの言いたいことはわかるのじゃが、それだけではないはずじゃ。じゃがそんな物はマダラに関係ないのじゃろう。
マダラもまたブレーキが壊れているのじゃ。それどころか制御不能じゃ。
「マダラよ、お主の信じる邪神教は滅びそうじゃぞ?」
ワシがそう言うと大笑いして嘲笑するマダラじゃ。
「邪神教なんてどうでもいいんだよ。私とダイダラ様がいれば最強なんだから」
「一度負けた癖に大口を叩くのう」
眉間に皺を寄せたマダラは唾を吐いてほくそ笑むのじゃ。
「あの時とは違う。それに今お前は力を使い切っている状態じゃないのか?」
確かにワシの力はかなり減ってしまっているのじゃ。九段階目の邪神を相手するためにかなり無茶をしてしまったのじゃ。
ルナとゲールに何か考えがあるようじゃが、それが上手くいかなかったらライア様を振るうしかない状態じゃ。
「ライオンの刀を振るのもいいだろう。そうして力を使っていったら、たとえ私を殺せてもダイダラ様には負けてしまうだろうな」
マダラの言うことは的を得ていたのじゃ。このままではマズイのじゃ。連戦できる状態ではないのじゃ。恐らくダイダラもまた、モグラの邪神によって潜っているのじゃろう。
隙あらば襲ってくるに違いないのじゃ。
「マダラよ、そう言えばお主の禰宜はどうしたのじゃ?」
話題を変えて探ってみるのじゃ。すると更に大笑いするマダラじゃ。
「殺したよ? 役に立たない奴は皆、私の栄養分さ」
堕ちるところまで堕ちてしまったマダラに怒りを覚えるワシじゃった。
マダラは堕ちるところまで堕ちてしまったのじゃ。
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