第376話「ある魔族の魔王」
魔族の魔王登場じゃ!
ある程度進んだ時、テンカが手で制してワシらを止めるのじゃ。
「この先は慎重に」
テンカの言う通りに進むと、森を抜けた先に真っ直ぐ並列して、魔族が立っておるのじゃ。
奥には魔族の魔王らしき人が立っておる、黒い羽織を着ておるのじゃ。
「汝らに問う! 我らが主、黒竜の魔王を殺したのは汝らで間違いないか?」
「確かにその通りじゃ。じゃが話を聞いて欲しいのじゃ……」
「確認を取っただけだ、話し合いにここで応じる気はない。後は任せたぞ? あの狐共を殺れ!」
ワシは歯を食いしばりながら、彼女が「ここで応じる気はない」と言った意味を噛み締めるのじゃ。
もう戦争のような物じゃ。じゃがいつだって戦争してきたワシらじゃ。このまま負ける気はないわい。
「ハフ! ありったけのスライムで壁を作っておくれ! 漏れ出たのをワシとジーナの白主で処理するのでのう! アオとザアメはハフの援護じゃ! アカミは兵器で真ん中を吹き飛ばしておくれ! テンカとチューは情報を共有しておくれ。
特にチューは森に紛れた魔族に注意するようにのう。レーゴナはハフの援護をしながらじゃが守りが硬すぎると漏れでないので、適度に攻撃に加わっておくれ!」
「私はどうしたらいいのでしょう?」
「アーシェ、お主を今使うと相手に隙だと思われて厄介じゃ。もうちょっと待っておくれ」
「私とゲールはどうするんですか?」
「当然ワシとジーナの支援じゃ、ワシとジーナが倒れたら終いじゃぞ? 両脇を崩しつつ数を減らすしかないのじゃからのう」
そう言ってる間にもウードが後ろからツンツンつつくのでワシはこっそり言うのじゃ。
「今ではないんじゃろ? なら隠れておれよのう」
それぞれ配置について、ハフがスライムの壁を作るのじゃ。その後ろからゴーレムの壁を作りつつレーゴナは進軍するのじゃ。漏れ出たのをワシとジーナで、心を抑えてやりながらこちら側に促すのじゃ。
丁寧さが鍵じゃが早く捌くことも大切じゃ。味方になってくれた魔族が戦ってくれるなら戦わせるのじゃ。それだけこちらの勢いが相手をひっくり返していくからのう。
もちろん保護する魔族は皆、後ろにじゃ。ワシらが敵も大切に扱うものと気付いた魔族たちはおらんのじゃ。じゃが支配から離してしまえば、こちら側に容易につく、そんな関係性じゃったということじゃ。
魔王がその事に気づくかどうかはともかく、ワシらは基本的には味方も敵も大切に扱うので、それを理解した瞬間の勢いは強いものじゃ。
押し込むようになだれ込んでいたのが、波をひっくり返すように、あちら側へと流れていくのじゃ。
「敵を殺してはならんぞい! 全員こちら側に引き込むわい!」
ワシは味方になった魔族たちにも、そう指示をするのじゃ。そうしてまずは第一陣の敵陣を崩したのじゃった。
「アーシェ、さっきの黒い羽織の魔族の魔王に見覚えはないかのう?」
「あの人は私の母の妹です。今の魔族の里のリーダーです」
「この魔族たちはその人の支配下でしょうか?」
ルナの問いに首を横に振るアーシェは俯くのじゃ。
「私はあの人の魔族を見た事がありません。ですので、どんな魔族の魔王なのかを知らないのです」
「じゃあこの魔族たちは何なのでしょう?」
ゲールが問うと、それにはウードが答えるのじゃ。
「この人たちは大体下の層の魔族の魔王、つまり弱いと認定された魔族の魔王の支配下の人達だろうね」
自分の手の内は見せず、配下にぶつけさせてワシらの実力を測ったわけじゃな。これはもう一波乱ありそうじゃ。
「ちなみに、その魔王たちは見つからんのかのう?」
「この辺にはいないねぇ」
テンカがそう言うと、レーゴナが笑うのじゃ。
「弱いもの程、支配範囲が広いでしゅ」
するとチューが俯くのじゃ。
「レーゴナ様は強くて範囲も広いじゃないか……」
するとレーゴナはゴーレムに乗ってチューの頭を撫でるのじゃ。
「チューはこれからでしゅよ、わちを守って欲しいでしゅ」
チューは顔を赤らめて、より俯くのでレーゴナはキャッキャと笑い彼の背中を叩くのじゃった。
「とにかく整理をしたいです。一旦ここでキャンプしましょう」
風呂敷を広げ、薪をくべ、火を起こして食事にするのじゃ。
ルナとゲールが情報を整理している中、ジーナとハフがスイートマジィタをしているのを見て、のほほんと見ていると、お母さん(ルナ)が怒ってくるのじゃ。
「たまにはコン様にもお父さんして貰わないと困ります!」
「いや、すまんのじゃ。こういう時の娘への対応に慣れてなくてのう……」
今時の若い者への注意の仕方なんて学んでこなかったのじゃ。勿論それは言い訳じゃがのう。
「ジーナ、ハフ、皆が真剣なんじゃ。ゲームは後にしようなのじゃ」
ワシがそう言うとジーナは従うのじゃが、ハフはゲームを続けるのじゃ。
「だって私、頭脳派じゃないもーん。話し合いには役に立たないから暇なんだもん。ゲームくらいさせてよ!」
これには怒り心頭になりそうなルナじゃったが、ジーナを連れて話し合いに戻るのじゃった。
孤立したハフにワシは寄り添い言うのじゃ。
「大丈夫じゃよ。ワシはお主にもちゃんと寄り添うからのう」
ハフはちょっとだけ涙目になって、そのまま目を擦り、ゲームを続けるのじゃった。
別に一人でも良いという人にも仲間は必要なのじゃ。
ここまで読んでくださりありがとうなのじゃ!続きを読んでくださるとありがたいのじゃ!




