第320話「狼の神」
イレドさんは慎重なのじゃ。
ワシらがワイロード大陸に着いた後の港町で、イレドさん達は物陰に隠れながら移動するのじゃ。
「何をしているの? 隠れんぼ?」
ハフが首を傾げると、イレドさんは困った顔をするのじゃ。
「もうここは敵地だ。警戒するに越したことはないだろう?」
じゃがワシは堂々としていたらいいと言うのじゃ。念の為、スナイパーライフルのような物はこの世界にあるのか、聞くのじゃ。
「なんだそれは? そんな物があれば暗殺し放題ではないか」
ないならば精々ジーナのような中距離じゃろう。それならば対策のしようはあるわい。
「ハフよ、スライムの壁を作るのじゃ」
「なるほどー! 了解だよ、コン様」
全員をスライムの上に乗せて、更に周りに配置したスライムを合体させた後、大きな移動する壁にしたのじゃ。
「あたしは周りを警戒するよ。情報収集は任せて」
テンカの鳥の情報集めは有力じゃ。
「まさかここまですごい集団だとはな」
イレドさんも安心してワシらに任せてくれるのじゃ。
しばらく港町を進んだ後出ると、テンカが言うのじゃ。
「南西から馬に乗った人が数人来るよ」
「恐らく奴隷引渡しに来た奴らだろう」
イレドさんはそう言うのじゃが、ワシは何か引っかかったのじゃ。
「そやつらは武装しておるのかのう?」
「いや、狼から逃げている様子だけど」
ワシらが肉眼でそやつらを確認できるまで進むと、どうやら追われているようじゃった。
「助けてくれー!」
ワシらは敵は魔物かと思って戦うのじゃ。じゃがアオがカジキ鮫で向かっても負けるのじゃ。
「これは神力ですよ」
「何じゃと? じゃが普通の人にも見えておるぞい? 巫女か禰宜かのう?」
すると後ろから狼の神が現れるのじゃ。
「お前たちも奴隷商か?」
「違うぞい! ワシらは……」
「じゃあその首輪をつけた子供たちはなんだ? 邪神か!」
話を聞かない神じゃな。ワシに向かってくるので、ワシが相手をするのじゃ。
「ウルフクロー!」
「狐依パンチじゃ!」
ぶつかり合った神力でワシは吹き飛ばされるのじゃ。
「なんじゃと?」
「コン様!」
ワシに近づこうとする皆を止めるのじゃ。
「ふん、分体の実体化もできない邪神め。ここで死ね!」
「待つのじゃ! ワシは白主のある普通の神じゃぞ?」
ワシは白主を見せるのじゃ。
「はぁ? じゃあ何か? 普通の神なのに奴隷商に手を貸してるのか? 許せん!」
ええい、頭の固いやつじゃ!
「ワシの話を聞けよのう! 奴隷商人を説得して足を洗わせて保護したのじゃ。この子らも含めてオオカミ国まで連れていくのがワシの任務じゃ」
「そんな都合のいい話を誰が信じるんだ!」
もう駄目じゃ。ワシはライア刀を抜くのじゃ。
『まさか殺すのか?』
「いや、ライア様にはあの力を受け止めて欲しいんじゃ。ワシでは止められんレベルのようなのでのう」
「武器を抜いたな? 絶対に子供たちを救う!」
再び狼の爪が襲い来るのじゃが、ワシはライア刀で受け止めるのじゃ。そしてその隙に展開した白主で狼の神の頭を柔らかくするのじゃ。
「よく聞くのじゃ。ワシと共に来てもよいからワシらを殺そうとするのをやめるんじゃ! ワシらは善神チームじゃ!」
「一緒に行ってもいいのか?」
ようやく聞く気になったようじゃ。やれやれじゃ。ワシはライア刀を納めて、手を差し出すのじゃ。
「いくらでも調べてよい。先程の男たちはワシが説得するわい」
アナが蛇の力で縛りあげている男たちを見て、勘違いだった事に気づいた狼の神は、頭を掻きながら謝ってきたのじゃ。
「すまん、よくよく考えたらおかしな話だよな。頭に血が上っていたようだ。名を聞かせてもらっていいか?」
「狐依コンじゃ」
「狼依ウルだ。よろしく、コン様」
ワシの手をしっかり握ったウル様は笑ったのじゃった。
ワシらは逃げていた男たちを説得して、奴隷商から足を洗わせるのじゃ。
「甘いな、コン様は。こんなのでは無駄だよ。こいつらは繰り返すぞ?」
「じゃからオオカミ国なのではないのかのう?」
ワシはルナに見えるようにしてもらいイレドさんに聞くのじゃ。
「その通りです。オオカミ国では我々のような者もしっかり正してくれるとの噂ですから」
それを聞いてウル様は苦笑するのじゃ。
「そんな都合のいい国ではないよ、オオカミ国は」
その言葉はイレドさんには届かんのじゃ。
「お主、巫女はおらんのかのう?」
「俺が助けた子供たちを守ってるよ。それよりこのスライムは便利だな」
夜になり皆、スライムの上で眠るのじゃ。ウル様は様子が気になるからと先に街に向かうと言い、別れるのじゃ。
次の街で再び会える事を約束して、ワシは夜空を見上げたのじゃ。すると、ある綺麗な星が大きく光った後、消えていったのじゃ。
ウル様は別れる前に、五段階目になると分体が実体化させてもらえると言っていたのじゃ。
じゃからウル様は五段階目以上なのじゃろう。
心配ないはずじゃと、ワシはそう言い聞かせてスライムの上に寝転がったのじゃ。
この不安が当たるなんて、この時は思ってもいなかったのじゃ。
ウル様に何かあったのじゃろうか?
ここまで読んでくださりありがとうなのじゃ!続きを読んでくださるとありがたいのじゃ!




