第308話「ダイダラの誘い」
邪神の親玉ダイダラに尾けられておったようじゃ。
「まさかこんな所に潜り込んでおるとはのう?」
ワシは後ろにいた鼠依ダイダラに話しかけるのじゃ。するとダイダラは可笑しそうに笑うのじゃ。
「そもそも神の私はどんな所にも潜り込める。ずっとつけてたんですよ? あなたは気付かなくとも、刀の方は気付いていたようですが」
ワシはライア刀を手にし少しだけ抜くのじゃ。
「まぁ、今日は戦う気はありません。話をしにきたんです」
「ワシが聞く気はないと言ったらどうするのかのう?」
「その時は勿論逃げますよ。こちらの準備が整ってないのでね。それでも私がここで出てきたのは、本当に雑談をする為だけなんです」
ダイダラはこの世界は理不尽だと思わないか聞いてきたのじゃよのう。ワシはそれに答えるのじゃ。
「確かに理不尽じゃ、じゃがそれが世の道理じゃと思うぞい」
「この世界には明確な神様がいるのにですか?」
「お主の前の世界ではおらんかったのじゃな?」
「あなたもそうでしょう?」
確かにダイダラの言う通り、ワシの前世では神はおるのかおらんのかわからなかったし、不明確じゃった。
ダイダラの前の世界でもそうだったようじゃな。
「明確な神様がいることは珍しいのかのう?」
ワシは異世界が初めてじゃし、特に他の神とそういう話をせんからよくわからんのじゃ。するとダイダラは首を横に振るのじゃ。
「珍しくはないそうだよ。私も聞いた範囲だけどね。とはいえ、ここまで神が多く力を持つパターンは少ないらしい。
そして私レベルになると上位の神と同等の力を得つつある。それはそこの刀も同じはずだ」
いちいちライア様と比べるのう。何が言いたいのかさっぱりわからんのじゃ。
「おかしいと思わないか? 私レベルになる神がもし沢山いたら、世界は必ず救われるだろう? それなのに、ゴッドは力を段階に分けて力を与えている。
もっと言おうか、邪神の私に対抗するためにもっと多くの神に多く力を与えたらいいだろう? それをせずやられ回しているのは何故だ?」
「……そういう仕組みなんじゃろう?」
「そうかもしれない。だがもっと簡単にする事は不可能ではないはずだ。力があれば救える人が増えるのに、それをしない上位の神は傲慢だと思わないか?」
力があれば救える、ワシは笑うのじゃ。確かにその通りじゃ。ジーナに水の加護がもっとあれば先程の母親も娘も治せたかもしれんしのう。
「お主はワシに何をさせたいんじゃ?」
「こちら側に来て、その刀を奮って欲しい」
「ワシに闇に染まれというのかのう? そうすればこの大太刀は扱えなくなると思うぞい。光と闇あっての刀じゃ」
じゃがダイダラは首を横に振るのじゃ。それは違うのじゃと言うのじゃ。
「光の心を持ったまま、こちら側にきてほしいんだ」
ダイダラは説明するのじゃ。彼女には力があるからワールド様の領域で世界の仕組みを変えるように説得するというのじゃ。
彼女に寄られればワールド様やゴッド様はきっと方針を変えるはずと言うのじゃ。
なるほどのう。つまり……ワールド様の領域に行くためにワシとライア様の協力が必要なのじゃな。
「ふふふじゃ。面白い提案じゃな」
「コン様!?」
ジーナが慌てるのじゃが、ワシは笑みを崩さず構えたまま走りライア刀を抜いたのじゃ。居合切りじゃ。
ダイダラは邪神の力で受けて吹き飛ぶのじゃ。じゃがやはり浅いのじゃ。
「これがワシの答えじゃ」
「理由を聞いてもいいですかね?」
ダイダラも笑っておるのじゃ。
「まずお主が信用ならんのじゃ。もし世界を本気で変えたいなら、順番に力をつけてワシ自身の力で世界を変えられないかワールド様に聞いてみるわい。
ワシが焦る必要ないのに、お主に頼る意味はないわい!」
「あの親子をここで救えるとしても?」
「そんな不確定なことに、あの家族を巻き込みたくないのじゃ。それこそ理不尽じゃよ」
大笑いした鼠女は、やれやれと言った風に手を上げるのじゃ。
「とんだ正義の味方だ。人々を救わないとは」
「コン様を馬鹿にしないで!」
実力差から前に出られないジーナと皆じゃ。じゃがワシは焦らずに答えるのじゃ。
「邪神になったお主に言われたくないのじゃ。それにのう、ワシはもう救っておるのじゃ」
その言葉に首を傾げる彼女は疑問を言うのじゃ。
「だがあの子や親は悲しんでいて……」
「悲しみも人間じゃ、苦しみも人間じゃ。そしてそれを乗り越える種は植えたのじゃ。それは希望じゃ。じゃから、あの家族は救えておるはずじゃ」
「詭弁だね」
「そうかもしれんのう。じゃが苦しみや悲しみから逃げたお主は、もう神ではなくただの化け物じゃ」
ワシがそう言うとダイダラは驚き、凄く怒りの形相になっていくのじゃ。
「お前に何がわかる! お前に何が……」
余裕がなくなったのはダイダラの方じゃった。ワシが笑うと彼女は苦虫を噛み潰したような顔になり、舌打ちして背中を向けたのじゃ。
「無駄な時間を過ごした。次会うときはお前を殺しに来てその刀を奪い、扱える者を探すとしよう。その時には勿論強くなったマダラがお前を襲うぞ女狐よ。いくら殺気を向けても無駄だ、死の恐怖に怯えるといいわ。じゃあね」
走り去る鼠女にあっかんべーをするジーナじゃ。
ワシはライア様に尋ねるのじゃ。
「何故教えてくれんかったのじゃ? ワシを試したのかのう?」
『当然襲われたら知らせたが、話し合いなら相手の出方を見た方がいいと判断した』
「次は教えてくれよのう。対策を練って闇討ちしてでも倒すわい」
『うむ、まぁ次があったら正面からぶつかるだろうさ』
ワシは頷いてライア刀を納めたのじゃった。
ダイダラにしっかり言い返して…もし次会うときは正面からぶつかるじゃろうな。
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