第307話「マホエン王国の南端」
貧しい女の子のために行動する話じゃ。
色々と旅しながら色んな人に出会ったのじゃ。ワシのマホエン王国の旅は少しずつ終わろうとしていたのじゃ。
次の街がマホエン王国の最後だというルナじゃ。次の国は小さな国なのだそうなので、次の街で買い込んでおくと言うのじゃ。
買い物をしていると子供が後ろからついてくるのじゃ。
貧しそうな格好をしているので、貧困層の子じゃろう。
ルナが気づいて、パンをあげるのじゃ。こういう行為は褒められるものでもないかもなのじゃが、してあげたくなるよのう。
子供は嬉しそうにお辞儀をして去っていくのじゃ。
「念の為尾行しようなのじゃ」
あの子が魔王になる可能性を捨てきれないワシじゃ。
尾行していくと、大きな男にパンを奪われていたのじゃ。
ワシが行こうとした時、ジーナが止めるのじゃ。
「私が行くよ」
ルナに姿を見えるようにしてもらったジーナは大きな男に白主を当てて聞くのじゃ。
「あなたは何をしているの?」
大きな男はひっくり返り、土下座して謝るのじゃ。
「すいません! 娘がパンを盗んでいたようで、返しに行こうと……」
「私たちはその子にパンをあげたんだよ」
すると男は驚いて礼を言うのじゃ。そして娘さんにパンを返したのじゃった。
「悪かった、疑ってしまったな」
頭を撫でられた女の子は嬉しそうに半分、父の男に渡したのじゃった。
「お前が貰ったんだ、お前が食べなさい」
すると女の子は首を横に振るのじゃ。ジーナはこう言うのじゃ。
「女の子にあげたパンは女の子が好きにしていいはずだよ。お父さんのあなたにも食べて欲しいなら、それが正解なんだよ?」
ジーナが言うと、頭を下げた男はパンの半分を受け取り、女の子と一緒に食べ始めたのじゃった。
「失礼な話をしていいかな? 仕事はしてるの?」
男はパンを齧りながら頷いて、土木関連の仕事に就いている事を言うのじゃ。
それじゃと恐らく給与は安いじゃろう。妻は病気で家の中にいるそうじゃ。ジーナが案内するように言うと、寝室で眠る女性がおったのじゃ。
「私なら治せるかもしれない」
ジーナは水の加護を使うのじゃ。じゃが少し楽になっただけで、完全に治せないのじゃ。
「お心遣いだけで嬉しいです。ありがとうございます」
すると女の子がもう半分のパンを女性に渡したのじゃ。
「こんなにも食べられないわ。一緒にこの半分を食べましょう」
パンを更に半分にした女性が娘さんと一緒に食べ始めるのじゃ。
男はこの光景に涙を流して礼を言うのじゃ。
「俺の稼ぎがもっとよければ……」
何とかなればいいんじゃが、こればかりはのう。
「オイラが何とかしてあげよう」
久しぶりのジドリのジド男じゃ。
「正しい使い方をしてくれるなら、少しだけ大地の加護をあげるよ。この力を仕事に活かせばいい」
ジト男が男に力を与えてあげるのじゃ。
「凄い……大地の脈動が見える!」
「どういう使い方をするかはあなた次第さ。あなたならきっといい事に使えるだろう?」
更に娘にスイチョウのスイ子が力を与えるのじゃ。
「お母さんに毎日水の力を与えるといいわ。もしかすると病気が治るかもね」
笑顔になる女の子はお辞儀をするのじゃ。ワシは見えるようにしてもらっている間に尋ねるのじゃ。
「この子は喋れんのかのう?」
その話をすると両親は悲しそうな顔をするのじゃ。話によると、この子は失語症という病を患っているそうじゃ。
父親は自分のせいだというのじゃが、母親は違う私のせいだというのじゃ。
二人の様子に困った女の子が、二人の手を繋ぎ笑顔になるのじゃ。
失語症……ワシは詳しくないのじゃが、本当にそういう病気なのじゃろうか?
「声は聞こえておるのじゃよのう?」
女の子は頷くのじゃ。うーむ、ワシは詳しくないので何もできんのじゃ。
ジーナの水の加護でも何ともならんのじゃ。ワシが頭をこねてみたのじゃがとても柔らかいのじゃ。
じゃがワシはここで少しだけ思ったのじゃ。かなりの柔らかさの魂が、この失語症という病を引き起こしてしまったのではないかとのう。
頭が柔らかいということはとてもいい事じゃが、争い事の間に入ると病んでしまうのではないかと思ったわけじゃ。
「今は治してやれないが、いつか治せる力をつけて治してやるからのう」
すると女の子はポロポロと涙を零しながら、大泣きし始めたのじゃ……ワシは理解したのじゃ。
「怖いんじゃな。また声が出せるようになることがのう」
きっとそれ程までにトラウマなのじゃろう。色んな場所で声を上げるのが怖いのじゃろう。
ワシは女の子の頭を撫でてやるのじゃ。そして抱きしめたのじゃ。
「いつかきっとワシが、お主が声を出しても怖くない世界にしてみせるわい」
すると女の子は涙を流しながらワシを強く抱きしめたのじゃ。
ワシは根拠のないことを言ってしまったことを謝ったのじゃが、女の子は首を横に振るのじゃ。
そうして別れた後、後ろから声をかけられたのじゃった。
「理不尽だと思いませんか? この世界は」
それは間違いなく、あの鼠女の声じゃった。
どうやら様子を見られていたようじゃな?
ここまで読んでくださりありがとうなのじゃ!続きを読んでくださるとありがたいのじゃ!




