第3話「スラムの問題」
礼儀についても大切じゃ!
ワシはルナの後ろをついて行くのじゃ。今日もまたスラムへと行くのじゃ。すると昨日の少年がおったのじゃ。
また蹲っておったのじゃが、ルナの顔を見ると少しだけ明るくなったのじゃ。
「こんにちは」
ルナは少年に挨拶をするのじゃ。少年は頷くだけじゃ、礼儀がなっとらんのじゃ!
「こら! 挨拶せんか、少年よ」
ワシの声は聞こえとらん。ルナは苦笑いしてワシの方を見とるのじゃ。
「ルナお姉ちゃん、神様はなんて言ってるの?」
ワシの方を見て苦笑いしとったルナに気づいたのか、少年が尋ねるのじゃ。
「あ、ごめんね。神様はあなたが挨拶しないのを叱ってただけだから……」
「あ……ごめんなさい。こんにちわ!」
少年の挨拶が聞けて満足じゃ。じゃがその声色から察するに空元気と言ったところじゃ。
「何か悩みがあるのかのう? 察するに家庭内の問題かのう?」
「わかるんですか?」
ルナは少しだけ驚いたのじゃ。じゃがワシは別に予想しただけじゃ。
「これくらいの少年の悩みじゃろ? 家庭内か友人関係くらいじゃろ。ワシはこの世界の仕組みについては知らんしのう」
「あ、勘でしたか。能力でわかるのかと……」
ルナは少しがっかりする。じゃが気を取り直して、少年に声をかけたのじゃ。
「お名前は?」
「タケトだよ」
「何じゃ? 知り合いじゃなかったのかのう?」
ワシはルナの事を知っとる少年とルナは知り合いなのかと思っとったのじゃ。じゃがルナが有名なだけだったようじゃ。
「タケト君、悩みがあるんじゃないの? 私と神様に教えてくれない?」
「……本当に神様はいるの?」
タケトはまだワシの存在を信じとらんのじゃ。当然じゃな。
信用されるためにもう一度こねる必要があるかのう? ワシはルナの方を見たのじゃ。
「仕方ありません、彼の背中を叩いてあげてください」
「元気出すのじゃー!」
ワシは思いっきりタケトの背中を叩いたのじゃ。
「うわっ!」
タケトが前によろける。どうやらワシは触れられたようじゃ。そもそも昨日も、硬かったとはいえ触れられとるのじゃ。
「え……? 凄い! 元気が奥から湧いてくるような……!」
タケトはビンビンに元気が湧いとるのじゃ。飛んだり跳ねたりして元気になったのじゃ。
「どう? 信じた?」
ルナは笑うのじゃ。タケトは頷いて目を輝かせているのじゃ。
「神様! 助けてください!」
おお……タケトはワシに助けを求めてくれたのじゃ。じゃがワシはどうすればいいのじゃ?
それに今この状態は少しまずいのじゃ。体調が思わしくないのじゃ。
「タケト君落ち着いて。実は神様もまだ生まれたばかりで出来ることが少ないの。まずは話を聞かせて」
申し訳ないのじゃ。ルナに気を遣わせてしまっとるのじゃ。じゃがなるほど、昨日ルナはレベルアップと言うておったのう?
ワシはここから神様として段階を踏まねばならぬようじゃ。それにはタケトの願いを聞くのが良さそうじゃのう。
「よし! 話を聞かせるのじゃ、タケト!」
ワシは聞こえとらん相手に叫んだのじゃ。タケトは悩みを話すのじゃ。それは父親への悩みじゃった。
酒を飲み散らかし暴力を振るう無職の父親……何じゃかありきたりじゃのう。
「無職ですか……」
「そもそもそんなに仕事は余っとらんのかのう?」
「いえ、選ばなければ職はたくさんありますし、人手も足りないくらいです。『選ばなければ』ですけどね」
「なるほどのう。ワシの元おった世界によく似とるわい」
この世界は不思議な力でできておるのじゃ。それくらいは今のワシでもわかるのじゃ。
それよりも解決法の模索じゃ。タケトの父親も固くなっとるのかもしれんのじゃ。
「よし、タケトの父親の元へ行くぞい」
「え? 今からですか?」
ワシは今から行こうとしたのじゃが、ルナに止められたのじゃ。
「コン様、今日は休んで明日万全の状態で臨んだ方が良くないですか?」
「何故じゃ? 苦しみは早く解放した方が良いのじゃ!」
「コン様がそれで良いのならそれでいいですが……」
ルナは歯切れの悪い言い方をするのじゃ。じゃが善は急げじゃ!
ルナはタケトの案内で家まで案内してもらい、ドアの前で立ち止まったのじゃ。
「ここから先はコン様に任せます」
「何じゃ? 入らんのか?」
「状況を考えるに飲んだくれたおじさんがいるでしょう。そこに私が入っていっても何も解決しません」
なるほどなのじゃ。確かにその通りじゃ。ワシはあとは任せろと言ってタケトの家の中に、すり抜けて入っていったのじゃ。
この状況に慣れつつあるワシ自身は郷に入っては郷に従えの気持ちでいるのじゃ。
ワシも自分の元いた世界で色んなことを経験してきたからのう。それなりに解決する術を持っているつもりじゃったが、それが全く敵わない状態になるとはこの時は思わなかったのじゃった。
中に入ると…?
ここまで読んでくださりありがとうなのじゃ!続きを読んでくださるとありがたいのじゃ!