第265話「地下の実験室」
何やら思惑があるのじゃろうな。
ヘーゼルと呼ばれた副学園長の男について行くと、異様な光景が目に入ったのじゃ。
多くの魔物たちが解剖され研究されておったのじゃ。
「こちらの椅子にお掛けになってお待ちになってください」
ルナは座るのじゃが、ワシとジーナは立っているのじゃ。もう見えなくしてあるからのう。
やがてヘーゼルさんが戻ってくると一つの冊子を抱えておったのじゃ。それを開いて見せると説明をするのじゃ。
「ここに載っているのが魔物の解剖表です」
ジーナは口元を抑えるのじゃ。ルナは一ページずつ捲り、全て見終わると尋ねるのじゃ。
「成分表もあるということは、どういう物質でできているかも調べているということですね?」
「そうですね、遺伝子情報なども調べています」
その時ヘーゼルさんがちらりとこちらを見たような気がしたのじゃ。
「是非神様にもご確認していただきたいのですが、どうでしょうか?」
「勿論そのつもりですが、その前に……ヘーゼルさんの目的を聞かせてもらえませんか?」
するとヘーゼルさんは口元を抑えて笑い始めたのじゃ。ジーナは身構えるが、ワシも予想はしておったからのう。
「バレていましたか。神様となった転生者を捕えられるなんて僥倖だと思っていたんですけどね」
ジーナは白主を走らせるのじゃが、当たっても何ともならんのじゃ。
「な、なんで?」
「純粋な正義感からきとるのう。ワシらからすれば歪んだ正義なのじゃがな」
ニヤニヤ笑っているヘーゼルさんは指を鳴らして人を集めるのじゃ。
「実験体になってもらいますよ?」
「学園長は知っとるのかのう?」
「いいえ。反対はされるでしょうけどね。捕らえてからなら納得もされると思いますよ」
学園長が少ししか動揺せんかったのにも訳がありそうじゃ。
ワシらは囲まれとるのじゃが、ジーナは余裕なのじゃ。
「中位の神様である私たちをどう捕まえるんだろう?」
「気づかんかのう? ジーナよ。ワシらはルナが見えるようにしてないのに、奴らに見られておるのじゃ」
それを聞いて驚くジーナじゃ。ヘーゼルさんはワシと会話もできとるのじゃから、そこにたどり着くはずじゃ。
「コン様は聡明なお方だ。ならば大人しく捕まってくれますね?」
「嫌じゃと言ったらどうするのかのう?」
「無理矢理にでも」
銃のような物を構えるヘーゼルさんたちじゃ。恐らく撃たれても死にはせんじゃろうが何か策があるのじゃろう。
「そんな物効かないはずだよ!」
「ジーナ! 避けるんじゃぞ!」
ワシは横に走るのじゃ。ジーナは慌てるのじゃ。驕りはいかんぞい。ルナは座っとるのじゃ。
銃が発砲され、網が飛び出し、ジーナとワシを捕らえるのじゃ。
「な、なんで抜けられないの!?」
網に絡まりジーナは混乱するのじゃ。ワシは大地の加護で壁を作り避けることに成功するのじゃ。
「これは闇の力で作った網です。神様を捕える第一号となっていただきありがとうございます」
「この部屋自体が闇の力で満ちておるのう?」
「ご明察。さてコン様も捕らわれて貰いましょうか? ルナさんに死んでもらいたくないでしょう?」
ワシは庇うようにルナの前に立つのじゃ。
網が発射され、ワシは捕らわれるのじゃ。
「ふふふ、これで神様も実験体に……」
「どうかのう?」
ワシは網をすり抜けるのじゃ。
「ば、馬鹿な! これは闇の力で……」
「ワシもまた闇の神力の持ち主なのじゃよ。じゃから弱体はせんし触れられんのじゃ」
ワシはジーナの網を取り除き、ルナを守るように言うのじゃ。ジーナはヘーゼルさんを睨みつけながらルナの前に立つのじゃ。
「まさか……邪神だったのか?」
「どうじゃろうな? 少なくとも純粋な光の神ではないのう。とはいえどちらかと言うなら、悪を討つ闇かのう?」
ワシはヘーゼルさんの腕にフォックスバイトを放つのじゃ。べキリと音を立ててヘーゼルさんの腕が折れたのじゃ。
「ぐうあああ! くっ! こんなことしていいとでも……」
「お主、因果応報という言葉を知っておるかのう? 神様に悪さしたんじゃ、祟られて当然じゃよのう?」
ワシはヘーゼルさんの足にもフォックスバイトを当てるのじゃ。足が折れて転げ回るヘーゼルさんは、もう一生立てないじゃろう。
「さて、この研究所は閉鎖じゃ。資料は好きにするがよい。じゃが神様を研究対象にしようとした時点で、その罪は償わないといけないじゃろうよ」
ワシらは他の研究員に近づくのじゃ。
「ひっ! お、お助けください!」
「なら案内するのじゃ。実験にしとる人達がおるじゃろ?」
「は、はい……」
じゃがほとんどの研究対象は死んで解剖されている物じゃった。
「生きた人はいないのかのう……」
「あ、あの……今は一人だけいます」
ワシらがその人の牢に案内してもらい近づくと、体育座りした男の子が顔を上げて虚ろな目でこちらを見ておったのじゃ。
そしてまた俯いたのじゃ。ワシは牢を開けてもらい中に入ってその子の頭を撫でるのじゃ。
「……?」
戸惑うその子の頭をこねると涙を流したのじゃった。
「助けてくれるの?」
「うむ。助けに来たぞい」
その子はワシに抱きついて泣きじゃくるのじゃった。
学園の地下室の闇を払ったのじゃった。
ここまで読んでくださりありがとうなのじゃ!続きを読んでくださるとありがたいのじゃ!




