第237話「勘当」
ドラゴンたちに言い渡されたアーシェの処遇じゃ。
アーシェとジーナ達の元に行くと俯いておったのじゃ。
「何があったのじゃ?」
ワシがそれを聞くとアーシェはワシの胸に飛び込んできて頭を埋めるのじゃ。
「勘当されました……」
なるほどのう。ワシはアーシェの頭を撫でながら言うのじゃ。
「そんな親など、こちらから願い下げればよいわい」
じゃがアーシェは首を横に振り言うのじゃ。
「説得してはみました。ですが、やはり無理でした。両親は人間の世を滅ぼすことに執着しているんです」
それは宗教のようなものだと言うのじゃ。人の世の上に立ち、支配するのが魔王の役目だという魔王教のようなものじゃ。
邪神も魔王も歪んだ心を持ってしまっておるようじゃ。
「迫害された魔王を保護する側の魔王は、別に迫害されてきたわけではないのじゃろう?」
「そうですね、ですが魔王内の教科書には歴史が載っています」
なるほどのう。それを読んだ魔王たちが恨みを勝手に募らせるわけじゃな。
「アーシェはそれを読んでどう思ったのじゃ?」
「私は悲しく思いました。話し合って解決できないものなのかとも思いました。
幼いながら、私たちには力があることを知っていたので、力で優位に立てるなら話し合いも優位に立てるのではと思いました。
ですが両親達は違ったのです」
他の魔王は、数で押されるから個の力など無意味だと言ったそうなのじゃ。それに対して、アーシェはならば皆で行ったらどうだと言ったそうじゃ。
じゃが過去に大勢で押しかけた時、戦争になりかけて逃げたことがあったそうじゃ。
そりゃあそうじゃよのう? 魔王が押しかけて来たら殲滅に移るし、代表と護衛だけが来たら捕まえるかもしれんわい。
それは迫害じゃ。当然の歴史なのじゃ。分かり合うのが難しい問題なのじゃ。
闇は深いし、簡単には解決せん事じゃからこそ、神が動くべきなのじゃが……ほとんどの神は魔王討伐のために動いておるのじゃ。
もう少し融通がきけばいいのじゃが、お互いに恐れていて中々和解が難しいのじゃな。
ワシは思うのじゃ。いつかワシが架け橋になれたらいいのにのうと。それもまた命を懸けるに値する目標じゃわい。
こうしてアーシェは勘当されることによって完全に自由になったわけじゃが、彼女は悩むのじゃ。もうデス大陸に行く資格がなくなったとのう。
じゃがワシはそれは違うと思うのじゃ。こちら側からの意見として言うてくれるなら、魔王側にも声が通りやすいはずじゃからのう。
「これからもよろしく頼むぞい」
ワシはアーシェの頭を撫でて言うのじゃ。照れながら頷くアーシェは、きっと心は前に向いておるはずじゃ。
「一旦宿に戻りましょう」
ワシらはストームアナグマの駆除を終えて、ギルドに報酬をもらいに行き、宿でご飯を食べて休んだのじゃった。
「それにしてもドラゴンの魔王はドラゴンを通して会話ができるのじゃな?」
「あのブラックドラゴンは祖父のもので、ホワイトドラゴンは曾祖母のものですね。
常に出していると、自分の意思を伝えられるようになるみたいです。ドラゴンは知能が高いですし」
それだけアーシェが重要な人物だったんじゃろうな。改めて、すごい子を仲間に引き入れてしまった事を実感したわい。じゃがこの先追っ手が来るのかと思うとちょっと困るのじゃ。じゃが、その心配はないと言うのじゃ。
「今後は私の事は死んだもの、もしくは敵として見るそうです。ですので連れ帰る魔王としては、追うこともしないと言ってくれました。
祖父と曾祖母は小さい頃から味方であってくれたので、温情措置をしてくれたのだと思います。力のある二人の言葉なので信じられます」
それならば警戒すべきはデス大陸にいずれ行く時にじゃな。それ以外では追われることもなさそうで安心したのじゃ。
さて、アーシェは髪を解いて風呂に入るのかと思ったらそのまま風呂に行こうとしたのでワシはびっくりしたのじゃ。別に止めはせんのじゃがそれで洗えるのかのう?
「髪ですか? 編み直すのが面倒なので……」
「私がやってあげますよ。一度解きましょう」
ルナがアーシェの髪を解いてあげるのじゃ。ミドルロングの髪がサラリとあらわれた時、より美人に見えたわい。
皆がお風呂に交代で入る中、ジーナはワシの隣に来て話すのじゃ。
「もしかすると魔王の里にはアーシェのような子が沢山いるのかもしれないね」
その通りじゃな。ワシは頷いて思うのじゃ。魔王の里の新しく生まれてきた魔王や連れてこられた魔王の中にも、反発する気持ちの者は沢山おるのかもしれんのう。
ジーナの頭を撫でながら、ワシはこの先……いつかデス大陸に行くことができるのじゃろうかと思うのじゃ。
聞いておったらどんどん進化する世界じゃ。新しい情報をこちらの大陸の人間も手にすると、意識を更新せねばならんからのう。
更に強い力を手に入れていかないといけないのじゃ。焦りはあるぞい。じゃが一歩ずつ進むしかないじゃろうしのう。
風呂から上がってそのまま寝る皆を見てワシにできる事を考える時間が始まったのじゃった。
いつだって皆のために悩むワシじゃ。敵は強くなる一方じゃ。何とかせねばならんのう?
ここまで読んでくださりありがとうなのじゃ!続きを読んでくださるとありがたいのじゃ!
 




