第189話「魔鮫の魔王と魔蛇の魔王」
魔鮫の魔王と魔蛇の魔王じゃ。
「聞いておくれ! ワシは狐依コン! お主らを説得しに来ただけなんじゃ!」
「ふん! 下位の神にしてくれるって言うなら願ったり叶ったりだけどね? 全然してくれないじゃないか」
恐らく他の神も試しに来たようじゃな。じゃが魔王として死ななければ下位の神にはなれないのじゃ。
もしくは人としても殺すかじゃのう。じゃがそれをすれば失敗した時取り返しがつかんのじゃ。
魂から魔王としての道を外れないといかんのじゃ。そのための説得じゃった。
「お主らの話を聞かせておくれよのう」
「へぇ? 話? いいよ、聞かせてやろうじゃん。あたしはアオ、この子はアナ。あたしとこの子の話聞いてどう思うか聞かせてみなよ」
ワシは二人の話に耳を傾けたのじゃった。それはとても悪いことじゃった。
貧しい生まれの二人はいつも虐げられていたのじゃ。それをただ受けていたアナに救世主が現れるのじゃ。それがアオじゃった。
アオは虐めに果敢に抗っていたのじゃ。殴られたら唾を吹きかける、強姦されても決して屈しなかったそうじゃ。そんな最悪の国シャークで育った彼女はアナを連れてトビウオ国へ逃げる際、逃亡罪で殺されかけて、魔王として覚醒したのじゃ。
それに呼応するようにアナも魔蛇の魔王として覚醒したのじゃった。
二人はこのトビウオ国に来るまでに沢山人を殺したそうじゃ。
その罪と危険性から、鬼ヶ島へと幽閉されたそうじゃ。
今鬼ヶ島には人がおらんそうじゃ。全てアオとアナに襲ってきて殺したそうじゃ。
欲望にまみれた魔王を殺し回った二人の危険度は更に増したらしいのじゃ。
このマルヒノ諸島では、海の魔王になる者が多いそうじゃ。
マーマンや人魚の魔王などもおったそうじゃが、全て殺されたそうじゃ。それだけ二人は強力ということじゃろう。
ワシは二人に尋ねるのじゃ。
「お主らを改心させるのは大変そうじゃ」
愛すらも通じんじゃろう。沢山の憎愛を受けてきた歪んだ彼女たちになんて言葉をかけてよいかわからぬのじゃ。
ワシはアオの頬に軽く触れてみるのじゃ。
「何だよ?」
アオは少し困惑した様子でワシを見つめるのじゃ。
アオさえ改心させられればアナも改心させられると感じておったワシは白主を応用したのじゃ。
白コンをワシを通してからアオに当てたワシの行動はアオの心を動かしたのじゃ。アオには、ワシの冒険を見せたのじゃ。
溢れるほどの涙を流し始めたアオはワシに抱きついてこう言ったのじゃ。
「あたしもこんな冒険をしたかった!」
ワシの思い出が駆け巡ったようじゃ。ワシは言葉を紡ぐのじゃ。
「これからいくらでもできるんじゃよ。お主次第でのう」
その時アナが前に出てきたのじゃ。
「アオさんを追い詰めないで!」
追い詰めとるわけではないのじゃが、そう見えるのかもしれんわい。ワシは白主をアナにもワシを通して当てるのじゃ。
「ううっ、私にもできるの? こんな旅が?」
アナも涙するのじゃ。
「お主らを下位の神に変えてワシの冒険を共にしたいのじゃ。お主らが危険じゃと思われとっても、ワシにとってはそれは心強い力なのじゃ。
そしてワシがこの世界を変えていくために必要な力なのじゃ」
「でもあたしは沢山、人も魔王殺したわ。それでも赦すというの?」
「私たちは赦されないことをしてきたよ?」
確かにその通りじゃ。力の限り暴れ回った彼女たちは罪深き女じゃ。
魔王になった者の運命じゃ。殺し殺されの中でしか生きられんのじゃ……ワシはそれを悩んだのじゃ。
「お主らはもう殺す以外の事は考えられんのかのう?」
「敵は殺すよ? あたしはそうやって生きてきた」
「生かし逃すことも可能なはずじゃ」
「それをしていつか自分が傷つけられるなら私は迷わない」
アオとアナの意見は極論なのじゃ。ワシは諭すのじゃ。
「ワシが守るから……無闇に人を殺したりするのをやめておくれよのう」
「あなたがあたし達を守る? あたし達は守られる存在じゃないよ」
「そうだよ、私たちは……」
「じゃが守り合っておるではないかのう? それをワシにもやらせておくれよのう」
二人は顔を見合わせるのじゃ。その様子をてワシは頭を撫でるのじゃ。
「良い子になっておくれよのう? 頼むぞい」
魂は最初の白主で解されておるが、心までは解されておらんのじゃ。後ろからジーナも二人を抱きしめ頭を撫でるのじゃ。
「なんか温かいや、あたし」
「私もです、アオさん」
ワシとジーナに挟まれて固まった心が柔らかくなるのじゃ。
「一緒に行きたい……」
アオが言うのじゃ。驚いたのはアナじゃった。
「アオさん、私を置いていくんですか?」
「じゃあ一緒に来てよ」
「私たちが行ったら……」
アナは苦しむのじゃ。いくら心を許したとしても自分たちが一緒に行けばワシらに迷惑をかけると考えたらしいのじゃ。
大切になったからこそ一緒に旅はできんと言うアナじゃ。
「確かにね……」
アオも同調するのじゃが、ワシはだからこそと言うのじゃ。
「ワシが旅先で倒れたらもう二度と会えんのじゃぞ?」
ワシはこう言うのじゃ。
「ワシがお主らを守るように、お主らもワシを守っておくれよのう!」
ワシは狡いのじゃ。彼女らに芽生えつつある良心に訴えかけるのじゃ。
抱きしめる力を増すのじゃ。二人は揺らぐ中、ある決意をするのじゃ。
「コン様、あたしたちはこのトビウオ国から出られない。それを何とかしてくれたら一緒に行くよ」
まずは下位の神になれるか試したのじゃ。無事二人は下位の神になったのじゃが、返ってきた思いはとてつもないものじゃった。
何とか説得にせいこうしたのじゃが、まだ解決せねばならん事はあるのじゃ。
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