第120話「狼の魔王アカミ」
狼の魔王、見参じゃ! 幼女なのじゃ!
狼の魔王は街を襲っておるのじゃ。ライズ街を守るために冒険者が戦っておるが、慣れておるのか狼の魔王の方が優勢じゃ。
狼たちは家を背に走り回って油断したところを襲ってきておる。巧みな戦術じゃ。
流石に家に向かって魔法を撃つわけにもいかず、皆混乱しておるわい。
被害はまだ少ないものの、噛みつかれ怪我をしている人も沢山おるのじゃ。
早めに止めんといかん、このままでは死者も出るかもしれんのじゃ。
幼い女の子の狼の魔王は狼に乗って後方に控えておる。ワシはジーザスとグーシャに狼たちを押しのけ、道を開けてもらいルナの援護で突撃したのじゃ。
「わぁ、神様ね? 歓迎だよ〜! 死の入口にね!」
幼い分だけ純粋な悪に染ってるかもしれんのじゃ。ワシはジーナと共に無理矢理突っ込んだのじゃ。
白主をスライムに変化させ、囲むのじゃ。じゃが狼が食い散らかしてきて、白主が苦しむのじゃ。
(痛い!)
すまん、白コン。スライムではダメかのう? じゃがジーナはスライムになら容易に変化できるのじゃ。拘束するのにも便利なスライムじゃから、それはジーナに任せるのじゃ。
ワシは白コンを蛇に変えて噛みつきながら魔王に近づくのじゃ。
ワシは白コンを掴んで投げたのじゃ。そして狼の魔王を拘束したのじゃ。
「え〜? 何かな〜? 無駄なのになぁ?」
この間も狼は湧き続けておるのじゃ。そこまで強くはないがペースは早いのじゃ。
ジーナが黒ジーナをスライムで女の子の体を包むのじゃ。顔だけ出しとる状態まで持っていくのじゃ。
「溶かしでもする気かなぁ?」
女の子は笑っておる、きっともう壊れておるんじゃ。救えるかはわからんのじゃ。
ワシとジーナは女の子の頭を掴み柔らかくしながら聞くのじゃ。
「お主、名は何じゃ?」
「アカミだよ〜」
アカミちゃんの頭はもう既に……柔らかいのじゃ。純粋な悪、こんな可愛らしい女の子すら殺さねばならんのかのう?
いや女の子だからとか関係ないのじゃ、エンジは殺した、この子は殺さん理由はないのじゃ。
「一つだけ聞くのじゃ、お主恋をしたことはあるかのう」
アカミは首を傾げるのじゃ。
「魚の鯉?」
「ちがうぞい、恋愛の恋じゃ」
「れんあい〜?」
ワシは顔を近づけキスするのじゃ。
「これが恋のおまじないじゃ」
「……」
効かんかったかのう? ならば仕方ない、もう殺すしか……。
「……ウチにどうしてほしいの?」
む? 効いたのかのう? ならば畳みかけじゃ。
「ワシと共に優しい世界を作らないかのう?」
すると、ムッとしたアカミじゃ。そりゃあそうじゃよのう、これできっと頭が固くなったぞい。
「ウチの村の皆を返してくれたらいいよ」
「お主の村はどうしたのじゃ?」
「人攫い集団って人達に売られて皆どこかにいったよ……」
「悪い奴らもいたもんじゃ。じゃが良い人達にお主が繰り返しとるそれは同じことではないかのう?」
「そうかもしれないけど、じゃあどうしたらいいの? 皆ウチを殺しにくるよ? ご飯だって盗まないと食べられないよ?」
「ワシが何とかする、代わりにお主はその力を制御する為に努力して欲しいのじゃ」
「どうやったらいいかわからないよ……」
この間ワシとジーナはずっと頭を撫でてあげておるのじゃ。
「誓っておくれ。もう狼で良い人達を襲わないと」
「悪い人はいい?」
「殺さなければのう」
「わかった。代わりにもう一回キスして」
ワシは抱きしめてキスしたのじゃ。顔を赤らめるアカミは狼を出すのを辞めて、人を襲うのを辞めたのじゃ!
説得成功じゃ! ワシは確認するのじゃ。
「もう人を恨まんでやってくれんかのう? 悪い人も確かにおる。じゃがワシも全力でお主の村の人々を探すからのう。いい子になっておくれ」
「うん! 狐の神様!」
「ワシの名は狐依コンじゃ。コンでよいぞ」
「わかった、コン様!」
そうしてアカミの狼の魔王の力は手袋になったのじゃ。それを着けたアカミはワシに抱きついたのじゃ。
ワシはアカミに白主と黒主を入れて下位の神にしたのじゃ。
アカミは喜んではしゃぐのじゃ。子供らしい元気な子じゃのう。
「あの、狼の魔王は……?」
街の人たちが聞きに来るのじゃ。ルナの出番じゃ、ワシとジーナを見えるようにしたのじゃ。
「ワシが説得し、魔王の力を抑え込んだのじゃ! もう無害じゃ、安心しておくれ」
街の人たちが歓声をあげたのじゃ。
「痛っ!」
遠くから石を投げられたアカミじゃ。その男の子は言うのじゃ。
「お前のせいでお母さんは怪我した! 治療費を払え!」
困るアカミに頭を下げさせて、その少年にお金を支払うルナじゃ。
「足りない! もっと払え!」
ワシはまだ見えとるので近づくのじゃ。逃げようとするのを蛇に変化させた黒主で縛り頭を柔らかくするのじゃ。
「言っておくが欲張りを言っておったら神罰がくだるぞい」
男の子は涙を流すのじゃ。
「お母さんは一人で働いて稼いでるんだ。怪我をして暫く働けないのに、僕らはどうしたらいいのさ?」
「確かにそれは大変かもしれぬ。じゃからこそお主が動かねばならんじゃろ? 勿論街の人に頼るのもありじゃろう。
ワシは神じゃが万能ではないのじゃ。ワシらにはワシらの旅がある。アカミを仲間に入れた分、治療費は払うが、お主らの生活までは見きれんわい。
それともそこまで重大な怪我なのかのう?」
ワシも責任は負わねばならんが、払える資金にも限度があるのじゃ。そこまで大きな怪我ではないといいがのう?
ワシらは一旦見えなくして、ルナと共に少年に連れられ彼の家に向かったのじゃった。
慰謝料ってやつじゃな。貯め込んだワシらの資金で払えればよいがのう。




