夢
放課後の書道部。部長は昨日より元気そうだ。部長に呼ばれ人気のない非常階段へ来ている。
「昨日は心配してくれてありがとう」
部長は小声で話して来る。
「いいえ。あれから大丈夫でした?」
「うん。やっぱり昨日は付いてなかったんだね」
「ごめんなさい」
「え?」
「それ、私のせいなんです」
「え? なんで?」
「実は……」
百合は部長のことを好きなことは伏せて、これまでのいきさつを軽く説明した。
「待って……それってさ、進藤さんが悪いわけじゃないよ。っていうか、逆に進藤さん危なくない? 大丈夫?」
部長は怒るどころか心配してくれる。部長はそんな人だ。誰にでも優しい人。そんな所を百合も好きになったのだ。
――でも、なんでだろう? あまり嬉しくない。
「大丈夫です。ありがとうございます」
百合は心配かけまいと笑顔で答える。
「う〜ん……。今日さ、俺が送るよ」
「えぇ?!」
突然の発言に驚き百合は大きな声を出してしまう。
「……嫌かな?」
「いいえ!」
そんなこんなで百合は部長に送ってもらうことになってしまった。他の部員達には体調が悪いからと言うことにして。
その日の夜。百合は夢を見ていた。
夢には部長がいた。楽しく話をしているとヴィルジールも出て来た。
「進藤さん。僕と彼、どっちが好きなの?」
「私も知りたい。どちらを選ぶんだ?」
百合は2人に迫られていた。
「えっと……私は……」
突然夢から覚め、勢いよく飛び起きる。
「……夢」
なんという夢を見るのだろう。どちらを選ぶのかなんて、部長に決まっている。それなのに、今日部長に送ってもらったのに嬉しくなかった。何故なんだろうと思い巡らせていると、黒猫が現れた。
「百合様」
窓の外から声が聞こえる。百合は寝ぼけながら窓へ寄ると黒猫が悲痛な面持ちで訴えて来た。
「助けてください!」
百合は窓を開けると黒猫は飛び込んで来た。
「どうしたの?」
「お館様の体調が悪いんです!」
一瞬心臓がドクンと嫌な音を立てた。
――え?
「どういうこと?」
「お館様はまもなく2500歳になられます。それまでに花嫁を見つけ、花嫁の両親の許しを得ないと消滅するんです!」
「消滅……」
――そんな!
百合は何故か足元が崩れ落ちるような感覚になった。