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月夜に浮かぶ薔薇の館  作者: 宮守 美妃
5/14

本物

「何ですか?」


「分からないんだ」


 見ているこちらが胸を締め付けられてしまうほどの切ない瞳で、百合を見つめる。


「愛しいとは何だ? 私にはまだ分からない。けれど、君のことをもっと知りたい。私のことを大切にしてほしい……そんなことを望んでしまうのは何故だ?」


「私だって、偉そうなことなんて言えません。でも、言えるのは大切な相手がいることはとても幸せだということです」


「皆、私よりも先に死んでしまうではないか。大切に思っても人間は……」


「ヴィルさん……」


 その時なんの前触れもなく来客が訪れる。

 窓ガラスをコツコツ叩く音が聞こえた。


「ヴィルジール・ジョアン、ここにいたのか」


 窓枠に立ち、黒ずくめの服を来た男性がヴィルジールを睨みつける。


「ベルナール・マルブランク!」

 ヴィルジールはとっさに百合を後ろに庇かばった。


「……人間の娘か」


 ベルナール・マルブランクは百合をちらりと見る。

「ヴィルジールさん?」


「私の後ろに隠れていてくれ」


「え?」


「彼は血を吸うヴァンパイアの末裔だ」


「え……?」


 一瞬血の気が引き背筋が凍りついた。

「ヴィルジールの花嫁か?」


「そうだ!」


「安心しろ。お前の花嫁に手出しはしない……しかし、珍しいな。今まで花嫁など見向きもしなかったものを。どういう風の吹き回しだ?」


 大きな背中に守られながら百合はこっそり様子を伺う。かすかにヴィルジールの拳に力が加わった。

「お前には関係ない!」


「そう言われると興味がわいてくる」


 ベルナール・マルブランクは蛇のような獲物を見る目付きで百合をとらえる。視線がぶつかってしまい、百合は思わずヴィルジールの背中の服をギュッと掴み、少しでも見えないように隠れた。


「百合?」


「隠れなくても何もしない」


「信用出来ない。お前達一族は少ないとは言え血を吸うだろう?!」


「お前だって同じヴァンパイアではないか。今でこそ血は吸わないが」


「それは……」


「面白い……」


 次の瞬間ベルナール・マルブランクは高速で動き、百合の所へ移動した。

「もともといけ好かない奴だと思ってはいたが……望み通り花嫁の血を頂いてやる」

 ベルナール・マルブランクは牙を見せ口を開けた姿は、(まさ)しく蛇を思わせた。


「止めろ!」


「嫌!」


 百合は思わずギュッと目を閉じる。



 咄嗟(とっさ)にヴィルジールは百合の首を隠すように腕を回し、噛み付けないようにした。勢いよく腕を回したせいで、牙が当たりヴィルジールの腕に少し傷が出来てしまった。

「邪魔をするな!」


「駄目だ! 止めてくれ! 百合は……私の花嫁だ。血を吸うなら私の血を……」


 百合から顔は見えないものの、ヴィルジールの声と腕が震えているのが分かる。その腕や声から必死さを感じた。


――ヴィルさん? 助けてくれた。


「……馬鹿馬鹿しい」


 半ば呆れたような口調でベルナール・マルブランクは言い放つ。


「何?」


「人間の娘に入れ込み(かば)うなど……お前は本当にヴァンパイアか?」


「ああ……もちろん」


「理解出来ない。安心しろ。今度こそもう、その娘には手は出さない。私にも花嫁はどこかにいるからな」


 そう言い残すと方向転換し、窓からベルナール・マルブランクは去って行った。



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