ゆがみ
「どうして、花嫁が必要なんですか?」
「ヴァンパイアだけで結婚していくと、近親婚になっていく。やがて遺伝子に異常が起きて弱体化していくんだ。だから、定期的に人間の娘を迎え入れ子孫を残していくんだ」
ヴィルジールは百合の反応を探るように見つめた。
「そうですか……」
「花嫁になってくれるか?」
話を聞いた所で簡単にうなずける訳がない。
「……ごめんなさい」
「何故だ?」
ヴィルジールは本心から分からないというような顔をしている。
「何故って……結婚は好きな人としたいんです!」
「好きな人? なんだそれは?」
「……好きな人と言うのは、その人がいるだけで嬉しくて幸せで、自分よりも大事にしたいと思う人です」
「……分からないな」
「2400年も生きてきて……」
「駄目なのか?」
「いいえ。駄目ではありません……ただ、驚いただけです」
「そうか。ところで、好きな人というのが君にはいるのだろう?」
「はい」
「そのせいで結婚出来ないのだろう?」
「理由はそれだけじゃないですけど……」
「分かった」
「え?」
「帰って良い。黒猫。送ってやれ」
「かしこまりました」
黒猫がどこからか現れる。
「お邪魔しました。ごちそうさまでした」
「気をつけてな」
ヴィルジールはこちらに顔を向け切なげな瞳を見せた。
ヴィルジールは百合が帰る姿を窓から眺めている。
「ヴィルジール様。よろしいのですか?」
執事がヴィルジールに話しかけた。
「ああ」
「何かお考えが?」
「……そうだな。なあ、“好きな人”というのはそんなに特別なのか?」
穏やかに微笑む執事はうなずいた。
「ええ。そうですね。心の底から愛おしいと感じられる、自分の命さえその相手の為なら差し出してもかまわない……そんなふうに思えるものですよ」
「そうなのか。私にも分かる日が来るのだろうか?」
「ええ。きっと来ます」
「何故か分からないが……あの娘、百合。今まで出会った娘とは何か違う気がする」
「気になるのですか?」
「そうだな……しかし、百合には好きな人がいる」
「ええ」
「好きな人がいなければ、私と結婚してくれるのだろうか?」
「それはどうでしょうか」
執事は困ったようにハの字に眉を寄せる。
「どういうことだ?」
「好きな人がいなくても、ヴィルジール様を好きになるかは別の話かと……」
「そういうものなのか?」
「ええ」
「だが、私はもっと百合を知りたい。百合の好きな人……邪魔だな」
「ヴィルジール様……」
「百合の好きな人を消すことは出来るか?」
「ええ……ですが。よろしいのですか?」
「ああ。それで百合が私のものになるのなら」
翌日学校へ行き部活へ行くと部長はげっそりとしていた。
「どうしたんですか?」
「それが……今朝から何かおかしいんだ」
「体調でも悪いんですか?」
「いや……突然上から物が落ちて来たり、車にひかれそうになったり、今日はついてないのかな?」
「まさか……!」
「え?」
「あ、こっちの話です。あの、今日は帰らせてもらって良いですか? 行かなきゃいけない所があるんです」
百合は急いで館へ行くと勢いよく扉を開けた。
「ヴィルさん!」
「ん? 今日は早いな」
「部長に何かしましたか?」
「部長?」
「好きな人のことです!」
「ああ……気付いたのか」
「突然おかしなことが起き始めたって聞きました! 思い当たるのはこれくらいしかないじゃないですか!?」
「もう、こんなこと止めてください! じゃないと、嫌いになりますよ!」
ヴィルジールはその言葉に頭を殴られたような衝撃を受けた。
「嫌いに……なる……だと?」
「はい!」
「分かった。危害は加えない。約束する」
「本当ですね?」
「ああ……だが……」