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月夜に浮かぶ薔薇の館  作者: 宮守 美妃
3/14

意外なこと

 黒猫は百合を見上げ答えた。

「どういうこと?」


「あなた様が花嫁として受け入れて下されば帰れます」

 黒猫はペコリと頭を下げた。


 帰れないのなら仕方ない、はっきり断ろうと黒猫に付いていき、百合は館へ来た。同じような所をぐるぐる周っていたせいで、すっかり日も暮れてしまった。北風が身に染みる。

「さ。中へどうぞ」

 黒猫にうながされ百合は中へ入る。途端に温かい空気が体を包む。すると、昨日はいなかった小柄な若いメイドがいて、通された部屋でヴィルジール・ジョアンが食事をしていた。ふわりとコンソメスープのような香りが鼻をかすめる。

――わっ。良い匂い。


 白いテーブルクロスの上に美味しそうな料理が並んでいる。


「どうぞ。お座りください」

 執事が現れ椅子をひいてくれる。百合は仕方なく座ることにした。

「はい」

「冷めないうちにどうぞ」

 百合はヴィルジールを盗み見ると黙々と食事を口に運んでいる。百合が視線を外し食べ始めると、ヴィルジールの声が聞こえた。

「来てくれてありがとう」


「……帰れないからです」


 百合は視線を落としながら答える。


「名前を聞いても?」


「進藤 百合です」


「百合か……」


「はい」


「私はヴィルジール・ジョアンだ」


「はい」


「歳は?」


「16です」


「ヴィルジールさん」


「ヴィルで良い」


 じっと真顔で百合を見つめる。


「話は後にしよう。まずは食事だ」



 百合は空腹を感じ、鼻をくすぐるスープやハンバーグの香りに耐えきれず、料理を口へ運んだ。ハンバーグは柔らかく肉汁が溢れ、デミグラスソースがほどよくからまっている。

「美味しい……」


「お口に合ったようで何よりです」

 近くに控えている執事が反応する。


 食事を終えるとヴィルジールは話し始めた。


「昨日は驚かせてすまなかった……ヴァンパイアは怖いか?」

 思いのほか優しい口調に柔らかい眼差しを、百合に向ける。

「はい。血を吸いますよね?」


「いや。現代のヴァンパイアは血を吸わないんだ」


「え……?」


「古代のヴァンパイアはもちろん吸っていた。それはそれは恐れられていた。退魔師もいたしな……。ところが、ヴァンパイアの中に血を飲むと短命になる者が増え始めた。そしてジョアン家にもそういう者が増え、今や血を吸うヴァンパイアはほぼ絶滅したと言えよう」


「それじゃあ、あなた達は人間みたいな者なんですか?」


「いや。正確には体はヴァンパイアとして産まれているから、ヴァンパイアだな。ヴァンパイアに合う特別なサプリメントを飲むことで、健康を保てるんだ」



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