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月夜に浮かぶ薔薇の館  作者: 宮守 美妃
2/14

黒猫

 少女は思い切ってカーテンを開けると、暗闇に黒猫がいた。“中へ入れて”というような仕草をしている。

――可愛い!

 可愛さに負け思わず中へ入れると、黒猫は言葉を話した。

「どうか、お願いします」


「え?!」


「お館様の花嫁になってください!」


「ちょっと待って……! 何で、猫が喋るの〜!」


「私は、お館様にお仕えする使い魔です」


「そう……。って、そうじゃなくて!」


「駄目でしょうか?」


 うるうるとした瞳で見つめて来る黒猫に、少女はいたたまれなくなる。


「ごめんなさい! 好きな人がいるから」


「そうですか……」


 明らかにしょんぼりしている。けれど、黒猫は動こうとしない。


「ねぇ?」


「はい!」


「……帰らないの?」


「……帰れません。あなた様が花嫁になると仰ってくださるまでは!」


 少女は密かにため息をつきながら黒猫の為にミルクを用意した。


「はい。良かったら飲んで?」


「え?」

 黒猫は予想外だったのか、大きな丸い瞳を見開いている。


「お腹空いているかと思って。それから、そこにクッション置いたから眠るならそこで寝てね」


「花嫁様……」


「違うから! 今晩だけだからね!」



翌日の放課後。

 書道部へ行くと憧れの先輩がいた。先輩は部長でとても凛々しい字を書いている。席へ着き、しばらく自分の筆に意識を集中させる。


「進藤さん」


 不意に部長に名前を呼ばれた。


「はい!」


「進藤さんはとても伸び伸びとした字を書くね」

 

「あ、ありがとうございます!」


 部長はいつの間にか進藤 百合(しんどう ゆり)の机まで来ていた。

 少女は進藤百合。16歳の高校生。背中まである長い黒髪を2つに縛っている。美人ではないが可愛らしい雰囲気を持っている。


 部長は百合の憧れで実力もあり後輩達に人気がある。そんな部長に突然声をかけられ驚いた百合の頬は赤く染まった。部長は百合の様子を見て優しく微笑んだ。


 百合は部活を終え外へ出ると空を見上げた。今日は月がない。校門を出るとどこからか黒猫が姿を現した。百合は関わりたくないため、早足で通り過ぎ家へと向かうがまたもや家へ帰れない。同じ所をぐるぐる周っているような感じがする。


「ちょっと!」


 百合は我慢が出来ず後ろを付いてくる黒猫に声をかけた。

「はい、何でしょう?」


「これってあなたの仕業?」


「何のことでしょう?」


 黒猫はとぼけでいるのかこちらに質問を返して来る。

「家へ帰れないんだけど!」


「それはもちろんですよ。あなた様は花嫁として選ばれたのですから」

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