怪しげな館
ある月夜の晩のこと。いつもの道を通って帰ろうとしていたものの家へたどり着けない。辺りは霧が立ちこめ視界が悪い。少女は気付くと真っ赤な薔薇の咲き乱れる館の前にいた。
――こんな所に館なんてあったかな?と不思議に思い、不気味さを感じながらも足を踏み入れた。重い扉を開けると明かりはあるものの薄暗く中は少し肌寒い。
人気を感じず、けれど、好奇心に負け部屋の奥の方へ進んで行くと棺が目に映る。棺に近寄ると眠っている人がいた。長身で痩せている体つきに青白い肌。髪は金色でまつ毛が長く鼻が高い。恐らく美しいだろう。
――瞳を開けたらきっと綺麗なんだろうな……。
そんなことを思いながら怪しげな美しさに見とれていると、少女の首にかけられたロザリオが光出す。その瞬間、彼は瞳を開け腕を伸ばしてロザリオを掴み、少女を引き寄せキスをした。
――え? 今何が起きたの? 一体どういうこと?!
「なっ、何するんですか?」
「君が……私の花嫁か……」
質問には答えずに、彼は美しい金色の瞳で少女を見つめ、微笑んだ。
「あなたは……誰ですか?」
少女は棺に眠っていた彼にたずねる。
「ああ……そうだな。自己紹介をしていかったな。私はこの館の主でヴァンパイア。ヴィルジール・ジョアン、2400歳だ」
見つめているとあまりの美しさにくらくらしてしまいそうになり、思わず目をそらす。
「ヴァンパイアなんて……そんな! 本当にいるなんて……大体、何で私が花嫁なんですか?」
「それは、その君が首にかけているロザリオに理由がある」
彼は少女のロザリオに視線を向ける。
「このロザリオが?」
「そうだ。そのロザリオは花嫁の証」
「でも、私は……」
少女は混乱した頭で考える。
「お館様。そろそろサプリメントのお時間です」
突然黒いスーツを来た執事のような年配の男性が現れる。
「ああ、そうか」
「あの、私! 好きな人がいるので、ごめんなさい! 失礼します!」
「あ。待ってくれ」
後ろから呼び止める声が聞こえるものの、状況に付いて行けず、少女は家まで走って行った。
帰りは何故かスムーズに家へたどり着き、走って3分位の距離だった。
夕食を終え2階にある自分の部屋でくつろいでいると、窓の外に影が見えた。
「何? 誰?」
少女は恐る恐る窓へ近付いていく。