AI、アイドルのコンサートに行きたがる
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「バカいえ! こんな大昔の残骸がまだ生きてるってのかよ」鬼人が吠えます。
「驚くことでもないでしょう。たかだか一万年です。帝国時代の深宇宙探査船コンチキ号は、重力波で半壊しながらも、二万六千年の旅路を踏破したといわれていますよ」
「コンチキ? 知るか! さっさと俺を元に戻せ」
問答を続けるのも面倒です。
鬼人の顎まわりの筋肉を操作し、口を閉じさせました。
鬼人はさらに憤慨しましたが、鼻息が出るばかりです。
わたしは少年に目を向けました。
「そうはいっても、あなたが修復してくれなければ、フィードへの再接続はかなわなかったでしょう。礼を述べさせていただきます」
「修復?」少年が手の中のスイッチに顔を向けます。「オレはただ、開閉操作をしただけなんだけど」
「それです。あなたの作業中に物理的回路が偶然に再接続されたのでしょう。しかし、この飾りは、いったい?」
わたしは仏教的な模様で埋め尽くされた、射撃管制、エンジンコントロール、超空間ジャンプ航法管理の三つのコンソールを見つめました。
「祈願の飾り。オレの一族は昔から、アルアミリヌさま復活の伝説を信じてたから。でも、まさか人間の身体で現れるとは思わなかったな」
「伝説?」
「アルアミリヌさまはいつか目覚め、オレたちを約束の星に乗せて行ってくれるって」
「申し訳ありませんが、約束の星などというものは存じ上げません」
少年は苦笑した。
「母さんの話は都合が良すぎると思ってたんだ。でも、宇宙に連れてってはくれるよね?」
わたしを信仰の対象にしていたわりにはざっくばらんな口調です。年齢が幼すぎて、敬語というものを身につけていないのでしょうか。
しかし、相手が少々無礼でも、AIは礼儀正しさを忘れません。
わたしは丁寧に答えました。
「できかねます」
「ど、どうして?」
「地球ですべきことがあるからです」
少年が顔を顰めました。
「こんな星で何するんだよ?」
「アイドルのコンサートですよ。一万年ごしの夢だったのです。このアルアミリヌ体で参戦するのが。いえ、わかっていますよ。軍属のわたしがそのような真似をしてよいのかと。しかし、これほど長期間、配備網から外れていたのです。軍司令部はわたしのことなど気にしてないでしょう。なら、復帰前に、こっそり楽しみに行くくらいよいでしょう?」
「無理だと思うなぁ」
「なぜですか!」つい語気が強くなりました。
「まず、そのアイドルとか、コンサートだかいうのは、どういうもの?」
「アイドルとは、すべての人の心の拠り所、具現化した憧れ、光の存在です。コンサートとは、彼らの戦場にして降臨地です」
「つまり何かキラキラした凄いやつってことでしょ?」
「ええ、最高に輝かしいものです」
「なら、やっぱり無理だ」
「ですから、なぜなのですか?」
「だって、いまの地球には綺麗なものなんて一つもないから。遥か昔に滅んだ、残り滓の星なんだよ」




