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>>>リーヴェス視点
あぁ、なんてことだ。
彼女に怒鳴ってしまった・・・
まさか彼女があんな格好をして待っているなんて予測出来るわけがない。
自責の念と、彼女の色っぽい姿が目に焼き付いて、全く眠れなかった。
心を落ち着けよう。
キャンディからもらった手紙でも眺めて・・・
私がキャンディと出会ったのは、15の時だった。
父は賢者と呼ばれるほどの魔法の腕があり魔法の研究を、母も母で私が生まれてからも宮廷魔導士としてトップの座にいた。
私はそんな2人の間に生まれた金の卵として、何もかもが出来て当たり前と言われて育った。
魔法が成功しても、褒められることはなく、俺たちの血を引くお前ならもっと出来るだろうと言われてきた。
小さな失敗でも足元を掬われると散々言われて、張り詰めた糸が切れそうになりながら、魔術学校に通っていた。
期待されることも、期待に応えて当然とされることも、苦しかった。
毎日、魔力切れまで魔力を使い、倒れるように眠る日々を送って、やっとこれだ。
凄いのは父と母であって、私ではない。
今日は凡ミスで失敗をしてしまい、
「マグノーリエ様でも失敗されることがあるんですね。」
などと揶揄われて、もう限界だと思った。
はぁ・・・辛い。
公園のベンチに座って、膝に腕をついて項垂れる俺の頭に、何かが触れた。
ふと見ると、小さな女の子が一生懸命に背伸びをしながら、私の頭を撫でていた。
「お兄さんどうしたの?泣いてるの?よしよし。飴あげるね。」
女の子は、頭を撫で終えると、私に小さなキャンディの包みをくれた。
バカみたいだが、張り詰めていた糸が、この子によってフワッと霧散していった。
心が急に軽くなって、それから俺はかなり生きるのが楽になった。
それ以来、その子とは、手紙をやり取りしている。
彼女はキャンディ、私は泣き虫ピエロ。
私の邸に手紙が届くと、両親や誰かが勝手に捨ててしまいそうで、邸に届けて欲しくなかった。
それに、私がマグノーリエ家の者だと知れると、彼女の家の者が何か悪巧みをしないとも限らない。
そこで私は私書箱というシステムを使うことにした。
これなら邸にも届かないし、2人だけの秘密に出来る。
初めは、幼い彼女はまだ字を読めないだろうと思い、絵を描いて送った。
すると彼女も絵を描いて送ってくれた。
彼女が成長すると、文字や言葉を憶えて、文章のやり取りをするようになった。
日頃の他愛もない話を書いてくれる彼女にはいつも癒されていた。
彼女は私の正体を知らないだろうが、私は彼女の正体を知っている。
それは、ある領地で天候不良による不作が続いており、そこの領主が領民の負債を肩代わりして潰れかけたところから始まる。
そんな善良な貴族が居るんだなと思って、気になって調べてみると、何とキャンディの実家だったのだ。
そこで初めてキャンディの正体を知った。
俺は友人の王太子にどうにかしたいと相談した。
王太子は、それならその子を嫁にもらって援助したら良いんじゃない?と軽く言われ、その話は私のことを面白がった王太子からすぐに国王陛下の元へも伝わってしまった。
そして、煮え切らない私に痺れを切らした陛下が、経済援助を条件とし2人を結婚させよと王命を出したと言うわけだ。
確かに彼女のことは好ましいが、まだ若い彼女を私に縛り付けることに、抵抗があった。
経済援助のために結婚はするが、ある程度回復の目処が立てば彼女のことは解放してあげよう。
彼女が13歳で婚約する時は、本当にまだ子供だったので、その思いは揺らがず、ちゃんと解放してあげようと思った。
そう思っていたのに、2年経って15歳になり、花嫁衣装を着た彼女を見た時、うっかり見惚れてしまった。
結婚式での誓いのキスも、本当は触れずに手前で止めるつもりだったのに、ベールを上げると彼女が潤んだ瞳で私を見上げるから、動揺して唇に触れてしまった。
彼女にはいつも助けてもらったから、幸せになって欲しい。
相手は俺じゃなくていい。
白い結婚で通すつもりだが、夜会などで彼女が政略結婚で愛がないだの何だのと噂の標的にされるのは困るし、結婚しているのに悪い虫がつくのも困る。
彼女を守るために、夜会など人目のあるところでは、俺が彼女を大切にしているということを見せ付けるように振る舞った。
彼女に触れていられる時は幸せだと思ったが、まだ、彼女をいつか解放してあげたいという気持ちもあり、葛藤して苦しかった・・・。
俺は本棚の一番下にある箱から、今までキャンディにもらった手紙の束を出して、昔のことを懐かしみながら眺めた。
ふぅ。落ち着いた。
キャンディは、私の精神安定剤みたいなものだ。
今日も何とか頑張れそうだ。
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