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夜会当日、旦那様はしっかりエスコートしてくれた。
「もっと側に来て。」
そしてなぜか、私の背後から抱きしめるように密着して腰に腕を回してきたり、
「プリーメルは可愛いな。」
などと言って髪を一掬いするとそこにキスをしたり、額にキスをしたり、
まるで私のことが好きなんじゃないかと思うような熱の篭った目で見つめて来たり・・・
私はずっと困惑しっぱなしだった。
ダンスもちゃんと踊れた気がする。声を掛けてきた貴族の皆さんにもちゃんと挨拶出来たと思う。
でも、旦那様のいつもと違う態度に、ドキドキして、それ以外の記憶が曖昧だ。
本当は、旦那様は私のことちゃんと好きなの?
旦那様の甘い態度は、帰りの馬車に乗り込むまで続いた。
私は初めて旦那様の笑顔を見た気がする。
しかし、それが心からの笑みでないことは、馬車に乗り込んだ途端に分かってしまった。
馬車に乗り込むと、旦那様は私から身体を離し、ため息をついた。
仲睦まじい夫婦をアピールするためのパフォーマンスだったようだ。
少し期待をしただけに、胸にチクリと痛みが走った。
旦那様はきっと、私なんかと結婚したく無かったんだ。
婚約した時は、私は本当に子供で、旦那様は大人だった。こんな小娘を引き取ることになって旦那様は苦痛なんだろうな。
でも私にはどうすることも出来ない。せめて旦那様が苦痛でなくなるように、大人しく空気になろう。
それでも寂しくて辛い気持ちは湧いてくる。
私から、旦那様に話しかけてみようとしたことはある。
でも、旦那様は目も合わせてくれないし、偶然合っても凍りつくような冷たい目で、私は口を噤んでしまう。
遠征があるから家を1週間開けるとか、何日後に夜会があるとか、伝達事項だけの会話で、会話らしい会話はしたことがない。
それなのに、夜会では毎回、私のことを好きだというような態度でベッタリとくっついている。
演技だと知っているはずなのに、旦那様の柔らかい表情に、触れる指に、ドキドキしてしまう自分にも困惑した。
馬車に乗るまでの夢物語。
仲睦まじい夫婦を演出するためには、やはり世継ぎの誕生も必要だと思う。
私はどうしたらいたんだろう・・・
このままでは世継ぎが出来ないし。
世継ぎが産めない女など侯爵夫人に相応しくないと言われてしまう。
私が子供だから手を出さないのなら、恥ずかしいけど、セクシーなランジェリーでも着けて誘惑でもしてみようか。
なかなか勇気が出なくて、何日も迷ってしまったが、意を決してセクシーなランジェリーを着けて、ベッドの左端に腰掛け、旦那様が寝室に来るのを待った。
カチャリ
今日も旦那様は何も言わず静かに、自室から寝室へ続くドアから入ってきた。
「な!君は何をしているんだ!そんなものを着るな!」
旦那様は私の姿に気付くと、怒って部屋から自室の方へ出ていってしまった。
失敗してしまった・・・
今まで、態度は冷たいが怒鳴られたことはなかった。
私は自分の自室に戻り、普通の寝巻きに着替えた。
そして、寝室を通り抜け、旦那様の自室のドアをノックしてから開くと、旦那様はソファーに横になっていた。
「怒らせてしまってごめんなさい。着替えました。もう勝手なことはしません。」
そう告げてドアを閉めて、ベッドに入って寝た。
旦那様は、あのままソファーで寝たようで、朝までベッドに来ることはなかった。
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