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「プリーメル様、とてもお綺麗ですわ。」
「きっと旦那様もこの花嫁衣装を見たら、その美しさに驚かれると思います。」
「そうかしら。」
「えぇ。間違いございません。」
私プリーメル・トラウベンは今日、リーヴェス・マグノーリエ様と結婚する。
今から2年前、私がまだ13歳の頃に婚約した。
私の実家であるトラウベンの領地で2年も連続して天候不良が発生し、借金が膨れ上がり、もう領地と爵位を返上するしかないと思われた時に、
経済支援付きの婚約を国王陛下が取り付けて下さった。
当時私はまだ成人していなかったので、結婚は15歳で成人を迎えてからということになった。
そして2年が経ち、私はマグノーリエ侯爵家に嫁ぐことになった。
この2年の大半は侯爵夫人としての教育に充てられて、旦那様と会う事は無かった。
旦那様とは婚約披露パーティー以来の再会だ。
控室に旦那様が入ってきた。
「・・・とても綺麗です。」
目を合わせず、一言だけそう言ってくれた旦那様。
「ありがとうございます。」
私も、一言だけ返事をした。
「では行こう。」
差し出された旦那様の左腕にそっと掴まって、教会の入り口に向かった。
結婚式では誓いのキスがある。
私はそればかりが頭をグルグル回って、とても緊張していた。
誓いの言葉は、なんとか言えた。
向き合ってベールを上げる旦那様の顔を見上げると、ほんのり頬が赤く染まった気がした。
私は目を瞑り、旦那様のキスを待つ。
一瞬、ほんの一瞬だった。
旦那様の唇が私の唇に触れ、触れた瞬間にすぐ離れた。
良かった。これで夫婦になれたんだ。キスは一瞬だったけど、嫌じゃなかった。
きっとこれから上手くやっていけるはず。
結婚披露パーティーが終わり、マグノーリエ邸に入る。
すると早速侍女たちが、ドレスを脱ぐのを手伝ってくれて、そのまま湯浴みだった。
良い香りのするオイルで全身をマッサージされ、髪にもオイルを塗って艶々だ。
真っ白でシンプルな、寝巻きを着せられ、夫婦の寝室に案内された。
うぅ。いよいよなのね。
少し怖い。痛いとか噂を聞くし、旦那様に任せれば良いのよね?
天蓋がついたキングサイズのベットの右端に仰向けに寝そべって、シーツを胸まで掛けた。
カチャリ
ドアが開く音に、ピクリと身体が驚き、旦那様が来たのだと緊張が高まった。
旦那様は何も言わず、左端からベットに入ると、小さく「スリープ」と唱え、なんとそのまま私に背を向けて寝てしまった。
えっと・・・
旦那様は疲れていらしたのかしら?
私はこのまま寝ても良いの?
どうしたら良いのか分からなくて、全然寝付けなかった・・・
それから、毎日同じベッドで寝てはいるものの、旦那様から触れられる事はない。
いつも私に背を向けて、左の端で寝てしまう。
私がまだ子供だと思われているのかしら?
「来週の土曜に王城で夜会があるから準備しておくように。」
そんな事務的な言葉を残して、旦那様はお仕事に出掛けた。
嫁ぐ際に、旦那様に支度金を戴いて、侯爵夫人として恥ずかしくないドレスや宝飾品をたくさん買ってもらった。
だからドレスはあるから問題ない。
マナーもダンスも学んできたし、きっと大丈夫。
それよりも、あの素っ気ない夜伽も拒否する旦那様は、私をエスコートしてくれるのかしら?
会場で一人ぼっちになるのは少し不安だった。
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