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第21話 父からの餞別

 カルスがひとり立ちする一年前――――


 レヴィティア王国の王都にそびえる王城を訪れる一人の人物がいた。


「やれやれ、陛下はいったい何の用なんだろうか」


 その人物、エミリア・リヒトーはやれやれといった感じでボヤく。

 彼は突然王城に呼び出されたのだ。


 大抵の呼び出しは断ってしまうエミリアだが、今回のそれは『国王直々』のもの、いくら彼でもそう簡単には断ることはできなかった。


「さて、少しはお行儀良くしますか……」


 背筋を正し、他所行きの顔を作った彼は国王の待つ『王の間』に足を踏み入れる。

 中には玉座に座る王と数人の騎士がいた。

 騎士たちはみな歴戦の戦士と見える風貌をしており、エミリアから見ても強者と分かる手練れであった。


 エミリアはそんな彼らを一瞥した後、国王であるガリウス・バルドラッド・レディツヴァイセンに目を向ける。


「ご機嫌麗しゅう陛下。ご壮健で何よりでございます」

「……お主も相変わらず元気そうだな」


 ゆっくりと、威風堂々たる様子で国王ガリウスは喋る。

 レディヴィア王国と魔術協会は友好関係にある。しかし二人の間にはバチバチと火花が散っていた。


「それで何の御用でしょうか陛下? 私を指名するとは只事ではないご様子ですが」

「ああ、なあに大した用事ではない。お主個人に伝えたいことがあるから協会を通さなかっただけのことよ」

「……なるほど?」


 今いち状況が飲み込めない。

 大した用事じゃないなら呼び出す理由などない。国王もわざわざ自分になど会いたくないだろう――――とエミリアは心の中で考える。

 しかし次に飛び出したガリウスの言葉により、エミリアは全てを理解することになる。


「実はお主に魔法学園の運営から、手を引いて欲しいのだ」

「……ん?」


 そう来たか、とエミリアは思った。

 ガリウスに隠し子がいることはエミリアも把握済みだ。そしてその人物がゴーリィの弟子となり、来年には魔法学園に入る情報も入手していた。

 協会に入るのは断られてしまったが、ならば学園で遊ぼうと考えていた。



 しかし……しかし国王がそれに対してこう動いてくるとは全く思っていなかった。

 所詮隠し子、愛情など持ち合わせてないだろう、そう考えていたから。


「陛下、それはどういうことでしょうか? あれは協会と王国の共同運営、私にも関わる権利があるのでは?」

「ふむ、確かにその通りだ。しかしな……最近多いのだよ、お主に対する抗議クレームの声が。このままでは入学者数の低下に関わる。なので……そうだな、五年でいい、一旦学園から離れてくれんか? それくらいであればいいだろう」

「……なるほど、ねえ」


 魔法学園は三年制。

 五年後にはカルスは卒業しているだろう。その期間エミリアが離れていればいい。

 なのでガリウスはゴーリィと協力し計画を立て、手を打った。愛する息子を守るために。


 一方エミリアは心の中で激しく怒り狂っていた。楽しみにしてたのに、こんな所でそれを奪われるなんて――――と。

 しかし彼はそれを表面には一切出さず、冷静に話す。


「……分かりましたよ、陛下。飲みましょうその提案」

「そうか、すまないな」

「流石にこの提案を蹴れば取り返しのつかないことになるのは私にも分かりますよ」


 ガリウスの要望は傍から見れば普通のものだ。もとよりエミリアはそれほど学園の運営に関わっていない、五年離れるくらい彼にとって大したことではないはずだ。


 エミリアがこの程度の要望を蹴れば、王国と協会の関係悪化に繋がる。そうすればエミリアの遊び場も減ってしまう。それは彼にとっても痛手であった。


「いやあこうなると知っていれば手も打てたけど……そうかあ、そうなるか」


 思わぬ手を打たれたエミリアは顔をしかめる。楽しみにしてた玩具を目の前で取り上げられた気分だった。

 計算高い彼だが、唯一『情』だけは計算に入れられなかった。それは今の彼にはないものだから。


 しかしガリウスは動いた。不自然な点も残る要望、息子の存在がバレる危険を冒してもなお、息子を守る道を彼は選んだのだ。


「忙しいところ呼び立てて悪かったな。用はこれだけだ気をつけて帰ってくれ」

「……それでは失礼いたします陛下。また会いましょう」


 おとなしくエミリアは引き下がる。この場でこれ以上何かをしても状況が悪くなるだけだと理解していた。


 そんな彼が去り……見えなくなってからガリウスは「ふう」と一息つく。

 いくら優秀な王たる彼でも化物の相手は中々心労がたまるものだった。


「私に出来るのはこれくらいだ。後はお前次第だ、頑張れカルスよ」


 それは親としての責務を果たせてなかった息子への、せめてもの贈り物であった。

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