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第14話 悪意ある勧誘

「僕が魔術協会に……?」


 魔術協会はエミリアを会長とする一大魔法組織。

 国を除く組織としては大陸最大規模を持ち、優秀な魔法使いの大半がここに所属している。

 ゴーリィもかつてはここに所属していたが、目の前の人物のせいで除名されてしまった。


 なので協会のことはよく知っている。しかしそこに入会する意味が分からなかった。


「カルス君。私はね退屈が大っ嫌いなんだ。楽しければなんでもいいとすら思ってる」


 無機質にそう言い放つエミリア。

 事実彼は自分が邪魔と思った組織、都市、そして国を潰すことに躊躇はない。そのような蛮行が許されるのは、彼がひたすらに優秀な魔法使いだからだ。

 もちろん刺客は年中エミリアを付け狙っているが、それすら彼は楽しんでいた。


「協会の活動は上手くいっている。優秀な人材がたくさんいるからどんどん勢力を拡大している――――それは間違いない」


 だけど、と彼は付け加える。


「それじゃつまらないよねえ? もっと時代を引っ掻き回すような問題児が! 私と対等に渡り合えるような異分子イレギュラーが私は欲しいんだよ!」


 濁った目でそう言うエミリアの姿にカルスは後退りする。

 かわいい顔をしているが、その中身は悍ましい何かであるのだと、カルスはこの時強烈に理解した。


「だから君……魔術協会に入りたまえ。特異点である君が入れば協会は変わる。君という異分子に引っ掻き回され良くも悪くも協会は混沌カオスになるだろう。もし君が私の右腕になってくれるというなら――――ゴーリィの除名を撤回しようじゃないか」


 エミリアに圧倒されていたカルスだったが、最後の言葉は聞き漏らさなかった。

 彼は口にこそ出さなかったがその事を後悔していた。自分のせいで大切な人の大事なものを失わせていたことを悔やんでいた。


 だが、当の本人はそれを気にしては欲しくなかった。


「やめろカルス! そいつの言うことなど聞かなくてもよい!」

 そう叫ぶが、その声はカルスには届いていなかった。顔を向けることもしない。


「くく、君の声は届かないよ……♡」

「ぐっ……妙な魔術を使いおって……!」


 エミリアの魔術によってゴーリィの声は消されてしまっていた。

カルスが決断するしかない。自分自身の意思で。


「一つ言っておくと、君の体の中にあるソレ(・・)は簡単には消えない。少なくともこんな屋敷に引きこもっているようでは無理だろうね」

「どういうことですか……?」

「言葉の通りさ。ソレは人の手でどうこう出来るものではない。いかにゴーリィが優秀であろうと、根治するのは無理だろうね」

「……だから魔術協会に来いってことですか」


 カルスがそう言うと、エミリアはくすりと笑い「まあ、早い話がそういうことだね」と言う。


「魔術協会の大陸中の魔法技術が集まる。君のソレをどうこうする方法も見つかるだろうさ。私も手伝ってあげるしね」


 カルスは悩む。

 確かにこのまま屋敷にこもっていても呪いが完治する可能性は低いと思っていた。外の世界に出る必要が必ずある、と。しかし目の前の人物について行っていいのか。

 ちらとゴーリィを見る。何か言っているようだが声は聞こえない。


 どうしよう。どうすれば――――


 そう悩み、苦しむ彼に語りかけたのは相棒だった。


「カルス、君の人生は君のものよ。君がどうしたいのかで決めなさい」

「僕が――――どうしたいか?」

「ええ。ゴーリィでも私でも、ましてやあんな奴では絶対なく、君がどうしたいかで考えるの。君はどう生きたい? あいつの下で働いて幸せ? 呪いが解ければそれでいい?」


 セレナの言葉はずっとカルスの中に入って来た。

 そうか、それでいいんだ。

 ただ自分の幸せになれる道を選べばいい。だってそれはつまり大切な人たちが笑顔でいられる道でもあるはずだから。


 選ぶ道を決めた彼はゆっくりと前を向き、エミリアを見据える。

 その目にもう迷いはなかった。


「……決めました」

「おおそうかい! では早速手続きといこうか! これから楽しくな……」


「僕はあなたとは行きません。僕は僕の道を行きます」


 カルスの返答に「……へ?」とエミリアは声を出す。

 なぜ? ありえない。そんな感情が表情に出ている。


「な、なぜだ!? こんなにも君のためを思っているというのに!!」

「ごめんなさい。いくら言われても僕は意見を変えるつもりはありません」


 カルスの顔を見たエミリアは言葉でいくら言っても彼が動かないことを悟る。

 ギリ、と歯軋りし彼は強硬策に出る。


「穏便に済まそうとしていたんだけどねえ……逆らうなら少し手荒に行かせてもらうぞ?」


 彼の右手に黒い魔力が集まる。それは鎖の形となりカルスに襲い掛かる。


「魔術、鎖輪呪縛さりんじゅばく!」


 それはエミリアの持つ中でもかなりの高位捕縛魔術。鎖で縛った者の意識を一瞬で奪い無力化する恐ろしい魔術。

 しかし彼は選択を誤った。いくら強力でも彼に呪い(それ)は通じない。


光の浄化(ラ・ルクス)――――ッ!」


 光の奔流が一瞬にして呪いの鎖を浄化し、消し去る。

 カルスがこれほどの魔法を使えると思っていなかったエミリアは驚愕する。それは彼すら知らない未知の魔法であった。


「もうこれほどまでに成長を。ますます欲しい……!」


 しかし次の攻撃に入る前に、彼の前にゴーリィが立ちはだかる。

 注意がそれた隙を突き、エミリアの作った障壁から脱したのだ。


「それ以上やるなら容赦はせぬ。儂もかつては“金翼”の二つ名で恐れられた身。簡単に倒せるとは思わぬことだ……!」


 ゴーリィの体からかなりの魔力が噴き出す。こうなってはエミリアといえど楽観は出来ない。

 師と弟子、両名から睨まれエミリアは……構えを解き、手を下ろした。


「……分かった。帰ろうじゃないか」


 そう興味なさげに呟くと、踵を返しスタスタと馬車の方に戻ってしまう。

 そのあっけない幕切れに、エミリア以外の三人はポカンとしてしまう。


 そんな中ゴーリィはエミリアに問いかける。


「どういうつもりじゃ。こんなに早く手を引くなどお前らしくない」

「……気が変わったのさ。私が直接育てるよりも好きに育って貰った方が面白くなりそうだ」


 だから、と前置きエミリアはカルスを見ながら言う。


「ひとまずは諦めよう。しかし私たちの道はいずれ再び交わるだろう。その時にこそ聞こうじゃないか。私につくかどうかをね」

「答えは変わらないと思いますよ」


 カルスは一歩も引かずそう言い放つ。その顔にもう迷いはない。

 その顔を見て大丈夫そうだと安心したゴーリィは、最後にエミリアに問いかける。


「聞かせてくれ。お前ほどの魔法使いであれば精霊が本当に実在することを知らないはずがない。それなのになぜそれを皆に教えない? 知っていた方が魔法はより発展するじゃろう」


 ゴーリィの問いを聞いたエミリアはつまらなそうに返事をする。


「私が目指すのは『完全な個』。精霊の力を借りなければいけない『魔法』など不完全もいいところだ。ゆえに私はそれを周知させない。魔法の先、『魔術』を見つけられる者にしか興味はない」

「……つまり貴様の野望のために情報を制限している。そういうことじゃな?」

「まあそう捉えて貰っても構わない。お前も早くそんなカビ臭いものを捨ててこちらに来るといい、素質はあるのだから」


 そう言い捨て、エミリアは屋敷を去っていく。

 その姿が見えなくなるまで、二人は屋敷の前で立ち尽くすのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] カルス君、力をつけてきたからか、師匠を軽視してるように感じてしまった。師弟関係ってそんなもの? 傲慢とまでは言わないけど…続きの話をこれから読むので、何かしらフォローはあると思うけれ…
[良い点] 他の方の作品も読んでますが、学園ものって似たように話しになっていくことが多いのでちょっと気になりました。 別に否定している訳ではありませんので、引き続き楽しみにしております。 更新頑張って…
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