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第10話 迸る光

 止める間も無く、シシィは呪いの混ざった水を飲み干す。

 するとその瞬間、彼女の体はビクッ! と痙攣を起こし、持っていた瓶を地面に落っことす。


 そして「あ……っ」とか細い声と共に地面に倒れてしまう。


「シシィ!!」


 ベッドから飛び降りて、倒れる彼女のもとに駆け寄る。

 痛そうに呻くシシィの体は細かく震えている。呪いの初期症状だ、マズいぞ……!


「シシィ! なんでこんな無茶なことを……!」


 急いで彼女をベッドに寝かせる。

 息は荒く、脈も乱れている。僕より小柄なシシィじゃ毒で弱るスピードも速いんだ。


「カルス……さま」


 シシィは虚ろな目で僕を見ながらゆっくりと話す。


「大丈夫です……カルスさまならきっと出来ます。あんなに……頑張ったんですもの」


 そう言って彼女は意識を失ってしまった。

 今この家に師匠はいない。つまり呪いをどうにか出来るのは僕しかいない。


 やるしかないんだ、この僕が。


「はーっ、はーっ……」


 緊張で手が震える。思考が散らばり視界が霞んでくる。

 やっぱり僕には――――


「カルス、しゃんとしなさい」


 気づけば僕の目の前にはセレナがいた。

 いつになく真剣な顔で僕を見ている。


「私は知ってるわ。キミがどれだけ頑張ったのかを。たとえキミがそれを否定しても、私がそれを肯定し続ける。だから信じて、自分の力を信じられなくても、キミの力になってくれた人を信じることは出来るはずよ」


 セレナの言葉は、僕の心にすとんと入ってきた。

 そうだ。そうじゃないか。


 僕の中にある力は僕だけが作り上げた物じゃない。

 師匠にシシィ、シズクに兄さんたち家族、クリスとジークさんに使用人さんたち。そして何より相棒セレナ。みんなの力があって今の僕がある。


 どくん、と鼓動が強く脈打つ。


 やれる。やってみせる。

 心が熱く燃えるのを僕は感じた。


「ありがとうセレナ。目が覚めた」

「ふふん、お安い御用よ」


 頼りになる相棒にお礼を言い、シシィに向き合う。

 必ず救ってみせる!


「行くよセレナ、光の探知(ラ・ダジール)!」


 光の波動をシシィの体に流し込み、体内を探る。

 よし……見つけた。飲み込んだ呪いはまだ胃にある。まだ体内には吸収されてない。


「セレナ、位置を覚えてもらっていい?」

「ええ任せて。しっかり狙っといてあげる」


 頼りになる相棒にそれを任せ、僕は『光の治癒(ラ・ヒール)』の発動準備に入る。


 大丈夫……出来るはずだ。

 僕の今までの努力は裏切らないはずだ。


光の()――――」


 信じろ。

 してきた努力を、力をくれた人たちを。


 そして強く願え。

 僕のために傷ついてくれたこの女の子を。


治癒ヒール――――」


 瞬間、部屋を埋め尽くすほどの光の粒子が僕から放たれる。

 これが……僕の魔法? こんな現象見たことない。


「カルス、集中!」

「う、うん!」


 セレナに言われ、気を取り直す。

 まだ、まだ安心するには早い。セレナが狙いをつけてくれていた『呪い(それ)』めがけて、光の奔流を思い切り、ぶつける――――!


「これで、どうだあああッ!」


 シシィの胃めがけて振り注ぐ光の雨。

 体から魔力がどんどん抜け落ちていくが、気にしない。全て使い切るつもりで放つ!


「うおおおおおおっ!!」


 部屋を埋め尽くしていた光の魔力は一瞬にしてシシィの中に入っていく。

 そして遂に……彼女の中に入り込んでいた『呪い』を全て消し去る。


「でき……た……」


 シシィの体内から呪いの気配は完全に消え去った。

 僕にも出来たんだ……!


「お疲れ様。想いがこもったいい魔法だったわ」


 一緒に頑張ったセレナがそう労ってくれる。

 確かにあれは自分でも褒めることが出来る、いい魔法だった。


「あの魔法は完全に『光の治癒(ラ・ヒール)』を超えていたわ。名付けるならば『光の浄化(ラ・ルシス)』。誇りなさい、キミは新しい魔法を生み出したのよ」

「へへ、それは嬉しい、や……」


 シシィを救うことができ、気の抜けた僕はその場に倒れ込んでしまう。

 そして久しぶりに晴れやかな気持ちで意識を失うのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 胃だけの初期呪いにも全力が必要か、、 自分自身の根治は先が長そう!
[良い点] く~ 泣ける!
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