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第14話 決別したはずの過去

 魔法学園きっての才女、サリア=ルルミット。

 幼い頃から魔道具製作の才能を開花させていた彼女が、魔法学園に入るのは自然な流れであった。


 『発明の教室』

 そこでは発明の卵たちが日夜色んな研究に没頭している。

 そう聞いていたサリアは、学園に入るのを楽しみにしていた。

 いったいどんな発明を見ることが出来るのだろう。仲のいい発明仲間が出来るんじゃないだろうか。そんな希望を持って彼女は入学した。


 しかしその希望はすぐに打ち砕かれることになる。


 彼女が入学した頃には『発明の教室』は腐敗しきっていた。

 お金になる研究のみが重視され、それ以外の役に立つかわからない研究は不当に低い扱いを受けてしまっていたのだ。


 今まで他者とあまり交流を持たず、一人で研究に勤しんでいたサリア。

 そんな彼女の目に映ったその光景はあまりにも醜く、歪で、心に傷を負うには充分過ぎる出来事だった。


 ほどなくして彼女は『発明の教室』に足を運ばなくなった。

 除籍を願い出ることすら彼女には苦痛で、連絡もせず逃げるように時計塔に籠もり一人で研究を開始した。


 子どもになる薬を開発し自らそれを飲んだのには、大人になり彼らのような歪な存在になりたくない、そんな願いも込められていたのかもしれない。


 時計塔の引きこもり。そう呼ばれる頃には彼女の心は落ち着いたが、それでもあの教室に足を運ぶ気にはならなかった。


 これからもずっと一人でいい。

 そう思っていた。


「そう、思っていたんだけどね……」


 カルスとともに歩きながら、サリアは呟く。

 その顔はどこか楽しげだ。


「どうしたんですかサリアさん?」

「ふふ。いや誰かさんのせいで私も変わってしまったと思ってね」

「?」


 なんのことかわからず首を傾げるカルス。

 そんな彼の様子を見て、サリアは薄く笑う。


 ――――君と出逢わなければ、私は今も孤独ひとりであの塔にいただろう。


 その言葉は胸の中にそっと大事にしまい込んで。


「さて、着いたね」


 サリアは『発明の教室』、その入り口に立つ。

 ここにくると、心がざわつき足がすくむ。正直今すぐに回れ右して帰りたい気分であった。


 しかしサリアは後輩の顔を見て平静を取り戻す。

 普段はぐうたらな彼女だが、後輩の前では頼りになるかっこいい先輩でありたかった。


 聞こえないよう、静かにゆっくり深呼吸。


 覚悟を決めたサリアは扉を開き中に入る。


「やあ。失礼するよ」


 サリアが入った途端、中の生徒たちはみな作業の手を止め、彼女のことを凝視する。


 その視線にサリアは挫けそうになるが、足に力を入れてなんとか踏みとどまる。

 ここまで来たら引くという選択肢はもうない。


「あの、どちら様でしょうか? 見学ですか?」


 中にいた生徒の一人が尋ねてくる。

 サリアはたまに時計塔の外に出ることもあったが、その姿を見たことのある者は少ない。大人の姿となるとそれを見た人は更に減る。知らないのも当然であった。


「私はサリア=ルルミット。今日は少し見学に来た。たしかまだ私は『発明の教室(ここ)』所属だったはず。構わないだろう?」

「え、へ!? あの、少々お待ち下さい!」


 情報量過多キャパオーバーしたその女生徒は教室の奥に逃げるように駆けていく。

 そしてそんな彼女と入れ替わるように室長のリメイン・バスカディオがサリアとカルスのもとにやってきた。


「これはこれは。よくぞいらっしゃいましたサリア殿。まさか貴女がここに再び来てくださるとは思いもしませんでした。卒業した先輩方も喜びますよ」

「それはどうだろうねえ。私は彼らに相当恨まれているだろうから」


 期待の生徒、サリアが『発明の教室』を見限ったことは当時そこそこ大きな話題になった。

 そのことで当時の室長や副室長は非難の目を向けられ、苦い思いをすることになった。


 しかしそれだけのことがあってもこの教室が変わることはなかった。

 ゆえにサリアは二度とここを訪れることはない、そう思っていた。


 しかし後輩のため。そして自分が先に進むため、彼女は一度目を背けた過去に立ち向かう。


「君たちの研究を見せてもらえればと思い足を運んだ。いいかな?」

「ええ、もちろんです。サリア殿の意見を伺えると嬉しいです」


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― 新着の感想 ―
[一言] 「発明の教室」って「商品開発の教室」とか 「商品化の教室」に名前換えた方がいいんじゃないかな?
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