表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/52

・レベル7 経験値を総取りしよう

 赤青緑の最強スライムに三方を守られる完璧な布陣で、俺たちホムンクルスキャラバン隊は不毛の荒野を進んだ。

 今日のリリウムはカートの上での見張りだ。話し相手にもなるのでちょうどよかった。


「兄さん、大きな群れが、ある……」

「何体くらいだ?」


「ゴブリンが……いっぱい……」

「いっぱいじゃわからん。もっと具体的に言え」


「60くらい、いるかも……」


 普通なら半泣きで尻尾巻いて逃げる厳しい状況だ。

 LV7に過ぎない俺が勝てる相手ではない。


 だが俺のレベルを引き継いだホムンクルスたちは生まれながらに最強だ。

 負けそうになったら俺の中に引っ込めて、カートを爆走させて逃げればいいだけのことだ。


「よし、命令だ。よく聞けよスラ公ども、てめーらはこのまま前進だ。交戦に入ったら敵を引きつけて前線を維持しろ。そしてリリウム、素早いテメーは側面に回り込んで突撃しろ。敵陣を突破したら反転して、再び敵を攪乱するんだ」


 竜の牙にいた頃によくやった手口だ。

 正規軍なんかは陣形を守ろうとするので、精鋭による中央突破がよく効く。

 相手が烏合の衆ならばなおさらだ。


「んじゃ決まりだ! ホムンクルス軍団、全軍突撃しやがれ!」

「(・_・)」

「兄さんは、無理しないで……」


 彼方にけし粒のように小さく見える軍勢へと、スライムたちがモゾモゾとうごめいて突撃を始めた。

 リリウムは命令通りに側面に回り込んで、俺の方はリリウムの要求に逆らった。


 リリウムが左翼から突撃を仕掛けるなら、俺は右翼で陽動をしよう。

 ただ後ろで見ているだけだなんて、元傭兵として性に合わない。


「兄さん……っ!?」


 リリウムが俺の行動に驚いたようだが、もう作戦は始まっている。

 概算60体のゴブリン軍団を、たった5体の軍勢が包囲陣を形成し、スライム部隊による前線がぶつかり合った。


 ゴブリンどもがいくらスライムを刃で叩き斬ろうとも、不死身の兵士たちはダメージすら負わない。

 スライムの体当たりが小柄のゴブリンを弾き飛ばし、飲み潰し、圧倒的LV差による火力で着実に叩き潰していった。


 そこにリリウムの側面攻撃が追いつけば、烏合の衆の瓦解は一瞬だ。

 早速ゴブリンのうち数体が逃亡を始めた。


「ハハハハッ、やっぱこいつらつええじゃねぇか……!」


 ちなみに右翼側の俺は、ゴブリンアーチャーによる矢の嵐に襲われていた。

 だがそんなものはカートで防いでしまえばいい。


 弾幕をやり過ごしながら、投げナイフが届く距離まで突っ込むと、敵軍の周囲を旋回しながら手持ちの投げナイフがなくなるまで投擲した。

 その後はまあ、マーチャント時代の得意技を頼るしかない。


「ギッッ……?!」

「死体晒しやがれやオラァァッッ!!」


「ギェェェェーッッ?!!」


 敵陣に突撃して、ドリフトさせて、カートという超重量の塊で奴らを轢いた。

 その後は脚力に任せての急速離脱だ。


 さらにもう一度突撃を仕掛けて、さらなる追撃を狙おうとした頃には、残念なことにゴブリン軍団が壊滅していた。


 何本かの錆びた剣や粗末な弓、ゴブリンの牙などがあちこちに散乱している。

 勢いが付いてなかなか止まらないカートをどうにか止めて、一息付くと、期待していたアレがタイミングを待ちかまえていたかのように始まった。


『ジャックはレベルが上がった! ジャックはレベルが上がった! ジャックはレベルが上がった! ジャックはレベルが上がった! ジャックはレベルが合計で19上がった!』

『ジャックは加重魔法グラビティを覚えた!』


 え、魔法……?


 一瞬、自分の聞き間違えではないかと耳を疑った。

 今日まで魔法とは無縁の人生を生きてきた俺が、魔法を覚えるなんて想定もしていなかったからだ。


 だが恐る恐る、例のギルドカードを己に使ってみると――


――――――――――――――――

 名前  ジャック

 レベル 7 → 26

 職業  ホムンクルスマスター

 能力値 ホブゴブリン級 → ゴブリンキング級

 スキル

  ・カート運搬9/9

  ・カート攻撃9/9

  ・アイテム鑑定7/9

  ・投擲術5/9

  ・片手剣8/9

  ・所持品重量半減

  ・ホムンクルス製造1/9

 魔法

  ・グラビティ1/9(自身、あるいは対象の重量を最大3倍に増やす)new!

――――――――――――――――


 俺のために存在するかのような、凶悪極まりない魔法がそこに増えていた。

 通常は対象の重量を増大させて弱体化させる魔法なのだろう。


 俺はしばらくの間、激しい喜びのあまりのだらしない半笑いでギルドカードを見つめ続けた。

 別にわかってくれとは言わない。だが想像もしてみてくれ……。


 クラスチェンジに期待してレベル99まで己を鍛え上げても、結局だたのマーチャントのままだった男の、あまりにガッカリな境遇を。

 魔法。それは俺にとって、憧れそのものだった……。


「あ、野良アイアンゴーレム、発見……。でも、私たちじゃ、火力不足、かな……」

「その問題ならちょうど今解決した。てめーら、俺が突撃かますまでアレを攪乱しろ!」


「兄さんがそう言うなら……喜んで……」

「(。・_・。)」


 ゴブリンとの戦いがアイアンゴーレムを引き付けたのか、確かに巨大な甲冑人形が彼方からこちらに向かってきていた。


 アイアンゴーレムは捕獲さえしてしまえば、無差別に敵を殺戮する戦術兵器にもなる。

 竜の牙にいた頃に戦ったことがあるが、刃が通用しない厄介な相手だった。


 その怪物へと、矢のようにリリウムが正面から突撃する。

 赤青緑スライム(ゼリー含む)がそれを追いかけて、俺も弧を描きながら積み荷でギッシリのカートを爆走させた。


「ウラウラウラウーラァッ! さっさと逃げねぇと轢き殺すぞウラァァーッッ!!」

「――!!」


 カート攻撃の射程内に入ると、スライムたちとリリウムがアイアンゴーレムとの交戦を止めて待避した。

 ゴーレムもこちらに気づいたようだがもう遅い。


「吹き飛べや鉄クズ野郎がッッ!!」


 カートを薙ぎ払いに変えたその瞬間、俺は自らにグラビティをかけた。

 3倍となった究極の超重量が、アイアンゴーレムをまるでパチンコのように弾き飛ばし、遙か彼方まで砂塵を立てて転がしていった。


「ぐっ……お、重っ……ぬぁぁぁ……!?」


 一方グラビティの解除を忘れていた俺は、その場でスピンして、砂塵に包まれながら揉みくちゃにされることになっていた。


『ジャックはレベルが上がった! ジャックはレベルが上がった! ジャックはレベルが上がった! ジャックはレベルが上がった! ジャックはレベルが合計で8上がった!』


――――――――――――――――

 名前  ジャック

 レベル 26 → 34

 職業  ホムンクルスマスター

 能力値 ゴブリンキング級 → オークファイター級

 スキル

  ・カート運搬9/9

  ・カート攻撃9/9 → 10/10

  ・アイテム鑑定7/9

  ・投擲術5/9

  ・片手剣8/9

  ・所持品重量半減

  ・ホムンクルス製造1/9

 魔法

  ・グラビティ1/9 → 2/9(自身、あるいは対象の重量を最大3.3倍に増やす)new!

――――――――――――――――



 ・



「兄さん、大丈夫……っ!? 兄さん、死なないで……兄さん、死んじゃ、死んじゃイヤ……」

「う、うげ……。勝手に、人を死なすな……」


 しばらく意識が飛んでいたらしい。

 俺はどうやら荒れ地に横たわっていて、その胸にリリウムが泣きながらしがみついていた。


「(T_T)」


 スラ公どもも俺を心配してか手足に張り付いている。

 明らかにゼリーの方はスライムとは感触が違った。張りがあるというか、リンゴのいい匂いだ……。なんだか腹が減ってきた……。いざという時になったらコイツを食おう……。


「生きててよかった……。兄さんが、死んじゃったかと、思った……」

「けっ……死んじまったのは、そっちの方だろ……」


「ぇ……。死ん……え、兄さん……?」

「……心配させて悪かった。離れろ」


 少し休んだら調子が戻ってきた。スピンで目が回っただけなのかもしれん。

 俺は立ち上がり、馬やロバのように再びカートを引き始めた。


 そんな俺をホムンクルスたちが追いかけてきて、心配した様子でこちらをうかがってくる。

 どうやらグラビティのこの使い方は諸刃の剣のようだ。

 もう少し、この魔法の運用方法を考えた方が良さそうだった。



 ・



「よう、ポアラの町から荷物だぜ」


 ザザの町に着いて、冒険者ギルドに荷物を届けた。

 中身はもっぱら資源の類が多い。鉄、木材、粘土、染料、繊維。これらを流通させるだけでも、この地では一苦労だった。


「お疲れ様、今回は到着が早いですね」

「半日で来たしな」


「へっ……。いやご冗談を」

「ああ、冗談だ」


 荷物の受け渡しが終わると、カートをギルドに預けてオススメの宿屋を紹介してもらった。

 今日はリリウムを泣かせてしまったので罪滅ぼしに、酒はないがアップルパイの美味い宿を選んだ。


 明日からはまたレベリングの再開だ。

 この調子ならば、ガンガン稼いで、鍛えて、最強の軍勢でヴォルフを迎え撃ち、今度こそあの最低野郎の息の根を止めることも不可能ではない。


 最強の軍勢を迎え撃つには、最強の軍勢が必要だった。


――――――――――――

【所持金】197ルピ → 2197ルピ -107ルピ(宿代と生活費)

      =2090ルピ

――――――――――――


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ