・レベリングを始める前に手駒《ホムンクルス》を増やそう 2/2
「ポアラ冒険者ギルドにようこそ! あっ、アンタは昨日の口の悪い人っ!」
「ああ? 顔を合わせるなりご挨拶だな、テメェ」
「へーんっ、そんな凄んでも怖くないですよーっ! そういうの私慣れっこですから!」
「けっ……そうかよ」
「あ、リリウムちゃんいらっしゃい!」
「うん……」
そこは『うん』じゃなくて『おはよう』だろと、俺は不肖の偽妹の頭を軽く叩いた。
スラ公は物分かりのいいやつだが、リリウムは手が焼ける。
「おはようって、言えって、言われた……」
「女の子ぶつとか最低ですね、スートさん!」
「テメーこそ仕事しやがれ、クソアマ。ほら、さっさと仕事を斡旋しろよ」
「なんでそんなにガラが悪いんですかーっ!」
あちらのギルドでは猫をかぶっていたが、やはり無理があるような気がして、こちらでは素を出すことにしていた。
どうもそれがこの受付嬢には不評だ。
「仕事しろバカ」
「ムキィィーッッ!!」
テメーは猿か……。
クソアマはカウンターにバインダーを叩き付けて、自分で見ろとこちらに突き出した。
こちらはその大きなバインダーを持ち上げて、代わりにリリウムの腰を押して彼女に差し出した。
「リリウムちゃんっ、今日もかわいい耳してるね! はぁぁ……エルフ最高!! あれ、でもエルフって、ずっと昔に滅びたんじゃなかったっけ……」
「エルフじゃない……。私は、ホムンクルス……」
町の連中はリリウムの容姿に何も言ってこない。
俺たちが堂々としているからだろうか。
「へーー……ホムンクルスって、何?」
「さあ……?」
受付嬢とリリウムが疑問の顔をこちらに向けてきたが、答えてやる義理はないので背中を向けた。
「愛想悪いよね、アイツ……」
「兄さんのこと……? 兄さんは、やさしいよ……。今日は、朝ご飯、取られたけど……」
「やっぱアンタ最低っ!」
「うっせー、仕事しろバカ女」
バインダーをカウンターに叩き付けて、そのページをクソアマに見せた。
今必要なのはレベルと金だ。
ここポアラの町から、ザザの町への輸送クエストを受けると指を指した。
報酬は2000ルピ。かなり割がいい。
本来ならば大幅な迂回が必要だが、レベリングをかねて魔物がはびこる最短ルートを突破すれば、今日の夕方には向こうに到着するはずだ。
「はいはい、それ受けるの? てか荷物いっぱいあるけど2人で平気なの?」
「俺はマーチャントだ。あのカートに入る荷物なら、いくら重くても平気だ」
「わかった、手配させる。せいぜいLV99リリウムちゃんに守ってもらえばいいよ」
「元は俺のレベルだ……。ではなく、これは相談なんだが、3日かかるこの輸送を、半日で終わらせたらボーナスは出るか?」
「はぁ……?」
「最短ルートを進めば半日で終わるだろ。追加料金はあるかと聞いてんだよ」
「はぁぁぁぁ……っ? そんなの出るわけないでしょっ、積み荷の安全の方が遙かに大事よ! 強行突破だなんて、ゾディアックモンスターに遭遇したらどうするのよっ!」
「逃げればいいだろ、そんなもの」
こちらの世界には、ゾディアックと呼ばれる特殊なモンスターがいる。
別称はエリアボスとも呼ばれていて、クソ強いが、縄張りを離れればそれ以上は襲ってこないそうだ。
「レベル7しかないくせに偉そうなこと言ってんじゃないわよっ!! アンタはリリウムちゃんの荷物持ちみたいなものじゃないっ!!」
「クソアマが……」
「クソ男はそっちよっ!!」
不毛なので以降の話は割愛しよう。
ギルドの労働者がカートへの積み荷の積載を済ませると、俺たちは輸送任務を始めた。
もちろん迂回なんてしない。
むしろレベリングのために、モンスターの群れに出会いたかった。
・
カートを引いてポアラの町の郊外までやってくると、一度足を止めてカートからある荷物を取り出した。
「何するの……?」
「さっきの宝石をよこせ」
「……でも」
「いいからよこせ。金に余裕ができたら、ちゃんとした指輪をてめーに買ってやる」
そう伝えるとあっさりクズ宝石が手のひらに返ってきた。
……妹に顔が似ているからって、ホムンクルス相手に甘やかしすぎだろうか。
しかしこの顔を見ると、とても厳しく出来そうもない。
「約束だよ、兄さん……?」
「ああ、約束してやるよ。……ホムンクルスって物欲もあるんだな」
実はギルドマスターから触媒を買っておいた。
見よう見まねで五芒星を2つ作り、それぞれの中央に割れたルビーとクズエメラルドを置いた。
「出てこい、スラ公。てめーにも見せてやる」
ついでにスラ公を召喚してから、俺は2つの五芒星に向けて『ホムンクルス製造』スキルを発動させた。
赤と緑の光がそれぞれから放たれて、どちらにも俺の想定通りのシルエットが生まれた。これは余裕でいける。
「いでよっ、LV99スライムッ!!」
そのシルエットはルビー色とエメラルド色のスライムに姿を変えて、新たな戦力としてそこに誕生した。
念のため鑑定魔法の応用でステータスを調べてみれば、ホムンクルスにしては低予算ながら期待通りのスペックだった。
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【種族】ホムンクルス
【分類】エメラルドスライム
【LV】99
【特性】
・触れた者を僅かに癒す
・素早い
・炎に弱い
・不死身
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【種族】ホムンクルス
【分類】レッドゼリー
【LV】99
【特性】
・リンゴの香り
・甘い
・炎に弱い
・不死身
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……って、ちょっと待てや。
「この子、いい匂いがする……」
そのゼリーなんたらは、スライムとはどこか異なるフォルムをしていた。
表面には艶があり、スライムよりもぷるぷるとした弾力があり、おまけになんと顔が付いていた……。
「(・_・)」
「スライムじゃなくて、ゼリー……? なんでゼリーなんだ……?」
鑑定によると『甘い』とも記されている。
まさか本当にただのゼリーLV99なのか? 戦力になるのか、これは……?
「兄さん……。この子、美味しそう……」
「一応言っておくが、仲間を食うなよ……」
こうして2体だけだったホムンクルス軍団が、昨日までの倍の4体に増えていた。
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