・レベリングを始める前に手駒《ホムンクルス》を増やそう 1/2
「何、やってるの……?」
「ちょっとな。小づかいやるから下で何か頼んでこい」
カバンの中身をひっくり返して、これから先のことを考えていると邪魔が入った。
そこで俺はリリウムの小さな手を引き、遠い昔にそうしたように10ルピ銅貨を握らせた。
「それは、命令ですか、兄さん……?」
「そうだ命令だ。これで好きなモーニングを食ってこい」
「私は、兄さんと一緒がいい……」
「だだをこねるな、さっさと行け!」
己をサポートするホムンクルスを作ったはずが、なぜ逆にこちらが面倒を見ることになっているのだろう。
コイツも連れてけとスラ公をリリウムに抱かせて、細い肩を押して宿の部屋から追い出すと、再び全財産および所持品との睨めっこを始めた。
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【所持金】1647ルピ
【装備】
・ギルド支給のダガー
・形見のアーミーナイフ
・使い古しの投擲ナイフ
・傷薬
・干し肉
・堅パン
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先日の輸送依頼で1200ルピも儲かった。
人が平凡に1日暮らすのに100ルピもあれば十分なので、1日で12日分を稼いだことになる。
俺のマーチャントスキルと、新たに得たホムンクルスマスターの力は、どうやらこの継ぎ接ぎだらけの土地と極めて相性が良かった。
通常ならば踏破出来ない危険なルートを、カンストレベルのカートスキルを持つ俺が物資を牽引して移動し、LV99の護衛たちがそれを守る。
これはもはや損のしようがない、濡れ手に粟の商売だ。
「問題は竜の牙――ヴォルフだな。あのクソ野郎に居場所を知られる前に、対抗出来るだけの力を手に入れなくては、詰みか……」
相手は最強の傭兵団だ。真っ向からぶつかれば殺される。少しでもやつらの気配を察したら逃げよう。
……少し前まではそう考えていた。
「よし。少し心許ないが、ここは投資といくか」
だが状況が変わった。リリウムとスラ公はLV99だけあって恐ろしく強い。
そして生み出したホムンクルスが全てLV99で産まれてくるとするならば、質よりも数こそが正義だ。
俺はひっくり返した荷物をカバンに戻し、ダガーと投擲ナイフを吊したベルトを腰に巻いた。
酒場に下りるとリリウムのモーニングを横取りして、さあ市場に行くぞと妹に似たホムンクルスの手を引っ張って、世話になった酒場宿を出た。
・
楽しみにしていたベリーを俺に食われて、リリウムはホムンクルスの癖に唇を突き出してブーたれていた。
なので市場に到着するとご機嫌取りにプラムを一つ買ってやると、小さな口で幸せそうにそれをついばんだ。
ちなみにスラ公の方は引っ込めた。
どこに消えて、どこから現れるのかよくわからんが、ホムンクルスというのは出し入れ自在らしい。
「兄さん、あれ、美味しそう……」
「てめーはよく食うな」
「だって、初めて見る食べ物だから……」
大食いなところは本物の妹に似ていない。
朝っぱらからフライドチキンを提供する屋台があったので、俺とリリウムは脂っこくて香辛料の利いたそれを2本ずつ平らげた。
そうして食べ歩いていると、ようやく有象無象の市場の中から目当ての店を見つけ出した。
「おや彼氏さん。彼女さんにプレゼントかい?」
「そう見えんならその目玉腐ってんぜ」
リリウムは『彼女って何?』とでも言いたそうにこちらを見ていた。
そんなリリウムと店主を無視して、俺は目当ての品を二つほど見繕った。
「こっちのルビー、ヒビが入ってんぞ」
「ああ本当だ、お客さんよく気づいたねぇ~」
「ざーっとらしいマネはよせよ。それとこっちのエメラルドも、石の破片が混じってるな。内封物次第で価値が出ることもあるが、これは磨き方を間違えただけだな」
「お客さん、だから値段を負けろとでも?」
リリウムは不思議そうに俺の手の中の石たちをのぞき込んで、何を考えているのやら無言の凝視を続けた。
商人の方は確信犯だな。コイツ、わざとクズ石を定価で売ろうとしていた。
傭兵をやっていた頃は貴族どもが支払いをごまかそうと、クズ宝石や偽の黄金を出してくることもそう珍しくなかった。
「負けてくれたら黙っててやるよ。バザーの元締めにたれ込まれたくなかったら、定価の半値で売れや」
「半値も出してくれるんでっ!? あ……ではなく、そこまで言うなら仕方ありません。半値でお売りしましょう」
実際の価値は元値の2割もないと思うが、幸運にも俺と利害が一致していた。
俺は半値で訳ありのルビーとエメラルドを買い取り、店主に1450ルピを支払った。
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【所持金】197ルピ
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二つも仕入れるのは先行投資が過ぎるかとも思ったが、まあいいだろう。
リリウムが物欲しそうに俺の懐を見つめるので、彼女に持たせることにした。
「そんなに気になるならテメーが持ってろ。高い買い物だったんだからなくすなよ」
「うん……。凄く、綺麗……こういうの、ずっと憧れだった……」
この前産まれたばかりなのに何を言ってんだ。
その次は市場を離れて、この町の冒険者ギルドに向かった。愛用のカートはそこに預けている。
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