・レベル99 → レベル??
朝、いつもの酒場宿で目を覚ますと、あの日感じたものと全く同一の違和感があった。
身を起こそうとするとやけに身体が重く、疲労感らしい疲労感はないというのに手先がブリキの人形のようにきしんだ。
「いや、まさかな……」
俺は恐る恐る、動揺に震える手で背中側のヘッドボードにかけておいたベルトを手に取った。
これはいたずら好きの妖精が、鉄を鉛に変えていったのではないか……。
そんな荒唐無稽な妄想にすがりつきたくなるほどに、ベルトに吊されたダガーと投げナイフは、ズシリ……と容赦なく俺の腕にもたれかかった。
昨日までは重さすら感じなくなっていた己の得物が、鉛に変わっていた瞬間だった。
「いや、待て、落ち着け……。リリウムは……リリウムはそうか、メリーのところか……」
ここはレッドの町だ。リリウムとラッキーは昨夕この町に到着した時点で、約束通りに受付嬢メリーの家で外泊することになった。
実際に預ける際にはあの女ロリコンに任せることにやや不安を感じたが、今となっては取り乱した姿を見せずに済んだことになる。
「こういう時はアレだ、鑑定だ……。よ、よし……」
迷いに迷いに俺は自分自身へと、万能鑑定スキル『オールアナライズ』を使った。
「なっ……ンナンジャコリャァァァーッッ?!!」
すると青白く光る画面が現れて、とても信じられないというか――あまりに絶望的で、あんまりもあんまりな現実がそこに記されていた……。
――――――――――――――――
名前 ジャック
レベル 99 → 0
職業 ホムンクルスマスター → ハイ・ホムンクルスマスター
能力値 ダークロード級 → ゴブリン以下
スキル
・カート運搬9/9
・カート攻撃10/10
・オール・アナライズ8/9
(ありとあらゆる【物品】【人物】【仕様】を解析可能)
・投擲術6/9(破壊力2倍ボーナス
・片手剣8/9
・所持品重量半減
・衝突耐性5/10(衝突時のダメージを50%カット
・ホムンクルス製造3/9(触媒の消費25%)
・ホムンクルス・フード製造スキル1/9
魔法
・グラビティ3/9
(自身、あるいは対象の重量を最大3.9倍に増やす)
・ホムンクルスブースト1/9 new!!
(一定時間、ホムンクルスを大幅強化する)
仕様
・円環
このジョブはジョブは限界レベルに到達後に一定経験値を得ると、レベル0に戻る
――――――――――――――――
脳が現実の理解を激しく拒んでいた……。
俺はたっぷりと数分間を茫然自失の硬直状態で過ごし、鑑定魔法の画面が消滅するまで延々とある一文だけを凝視した。
『このジョブはジョブは限界レベルに到達後に一定経験値を得ると、レベル0に戻る』
乾いた笑いがこみ上げてきて、枯れて、またこみ上げてきて、俺は叫んだ。
「先に説明しろよっっ、そういうのっっ!! こんな大事なときに、なんでそうなるっ、ふざけんなよクソ仕様ッッ!!」
要するに最悪の状況で振り出しに戻された……。
ヴォルフ率いる竜の牙がこちらに向かってきているであろうこのタイミングで、俺はゴブリン以下の雑魚へと成り下がっていた……。
「クソッ、重ぇぞっクソがっ! 武器も身体も世界も全てが重ぇっ、だぁぁぁーっ、このクソがァァーッッ!!」
時間がない。竜の牙が現れる前に最低レベル50以上にならなくては、取り返しの付かないことになる。
俺はクソ重たい世界に息を乱しながら、酒場宿を飛び出すと慌ただしい朝の往来をかき分けて冒険者ギルドの扉を蹴り開いた。
「あ、ジャックさん、おはようございます。昨日は私を信じてリリウムちゃんを預けて――って、あれっ?」
「兄さん……?」
リリウムと受付のメリーがいたが、後回しにしてクソ女の仕事場に飛び込む。
クソ女は俺の横暴に眉すら歪ませず、いつもの涼しい顔でこちらを見ていた。
「ジャック、血相変えてどうした? 寝ている間に男の玉でも妖精に盗まれたか?」
「悪いがゴーレムを返してもらう!! あの兎人も全員連れて行くぞ!!」
「君にしてはえらい剣幕だな……。順を追って説明しろ、相談に乗ってやらなくもない」
「うるせぇっ! だったら俺を鑑定してみろっ、それで全てがわかるっ!」
ウィザードであるツァイに鑑定魔法など造作もない。
彼女は一瞬で俺を鑑定して、その異常としか言いようのないデータに目を広げて、そして――
「ワハハハハハッッ!! また君はレベル99から0に戻ってしまったのかねっ!? ふっふひひっ、ハハハッッ、ひぃっ、ひぃこれはおかしいっ!! 君、前世でよっぽど悪いことをしたんじゃないかね、ハハハハハハッッ!!」
人の不幸を狂気じみた声で大爆笑しやがった……。
「ぶっ殺すぞテメェッ!! とにかくそういうことだからっ、全軍連れて行くからなっっ!!」
「行くと行っても、どこにだね?」
「どこだっていい!! テメェは俺にモンスターだらけのエリアを紹介しやがれっ!!」
「ふむ……。いやぁ、大変だねぇ……ハハハハッ」
話を聞きつけてきたのか、書斎にリリウムとメリーがやってきた。
するとリリウムに醜態を見せたことが恥ずかしくなって、俺は表情をやわらげるとクソ女に凝視を戻した。
「俺を狙って竜の牙がやってくる……。頼む、友人だと思っているなら……俺を助けてくれ、ツァイ……」
「もちろん、最初から助けるつもりだったさ。君がもし死んだら、あの土地の所有権が誰に移るのか不安が残るところでもある。喜んで協力しよう」
何も解決していないが、助力が得られると聞いてホッとため息が出た。
「せっかく鉱山町ドラゴントゥースの体裁が整ってきたところだしね。……メリー、地図!」
「はいはいっ、ちょっとお待ちを!」
自分で棚から取り出せばいいのに、ツァイは受付嬢を使って書斎へと地図をしかせた。
それはここ一帯を書き出した手作りの地図だった。




