・一人目のホムンクルス
彼女の家は妙なものばかりだった。
俺が物珍しそうにすると、それは魔法の触媒だとか、骨董品だの化石だのと言われた。
ヤツは倉庫に行ってくると言ってしばらく姿をくらまし、そして――
「スート――いやジャック、珍しい宝石を買わないか?」
バカでかい琥珀を抱えて戻ってきた。
しかしただの琥珀じゃない。その琥珀の中には、女の手首が内封されていた。
「テメェ、殺人鬼か何かじゃねぇだろうな?」
「買ったものだ」
「ケッ、悪趣味にもほどがあるだろ……」
「まあ待て、この触媒もサービスで付けよう」
わけがらからない。
彼女は琥珀漬けの手首を中心にして、赤い触媒で五芒星を作った。
「自己完結してねーで説明しろ、クソ女」
「フフフ……この腕はね、滅びたエルフ種の腕だ。それもこの指輪からして、高貴な地位にあった者の、美しい右腕だ……」
「テメェ、変態だろ……」
「変態で結構。それよりもジャック、失敗したら料金はいらない。だがもしも成功したら、相応の代金を貰おう。どうかその力で、古のエルフを蘇らせてみせてくれ」
変態じゃないとしても変人だな……。
しかし失敗したらタダでもいいというのは、今の俺からすると悪い条件ではない。
「何か狙いがあるのか?」
「いや、本物のエルフを見てみたい。ただそれだけだ」
「嘘じゃないだろうな?」
「これはこれでドラマを想像させて面白い財宝だが、腕だけ眺めるのも飽きてきた。さあ、これで発動の条件は揃っているはずだ。ホムンクルス製造スキルを発動させてみろ」
「ケッ……手首だけ蘇っても知らねーぞ」
「それはそれで興味深い!」
「テメーは変態で悪趣味な変人だ!」
「うん、結構!」
俺は琥珀漬けの手首と触媒に片手をかざし、他のスキルを発動させるのと同じ感覚で、ホムンクルス製造スキルを発動させてみた。
触媒が白熱とともに燃え上がり、琥珀が形を持った光となって膨れ上がってゆく。
男か? と思えば光は大柄な男性の形を作る。
女か? と思えば、美しいくびれをもった女のシルエットが浮かぶ。
「素晴らしい、変幻自在というわけかっ!」
「黙ってろ、気が散る……」
これならばいけるかもしれない。
俺のホムンクルス第一号。もちろんそれは、元傭兵に相応しい屈強な男だ。
育ての親である前団長ファランをイメージして、背丈は190。体格は分厚い筋肉質。顔立ちは精悍な中年で、槍と巨大な大盾を持ち――よし、これならばいける!
「古の腕よ、テメェは俺の新しい腕となって蘇れ! さあ、蘇れ、ファランッッ!!」
「おおーっっ!!」
シルエットが強烈な光で部屋を塗りつぶし、やがてまぶしい発光を止めた。
顔を背けていた俺は、もう一度育ての親と会えると期待を込めて、シルエットのあった正面を向く。
だがそれは――俺のイメージしていたやつではなかった。
「おぉ、おぉぉぉ……なんと、美しい……。これが古に滅びた種族、エルフ……」
14歳ほどの可憐な少女がそこにいた。
腰には銀のレイピアを吊して、民族衣装を着込み、顔の左右には長い耳があった。
俺の造ろうとしたファランではなかったが、どこかで見た顔だった。
少女は無言で俺を見つめている。
向こうが何も言わないので、俺も凝視を凝視で返し、記憶の中の面影を探した。
そうしているとエルフの少女は、自分の姿を確認し始めた。
「私は誰……?」
「ハッ……今生まれたんだ、名前なんてあるわけねーだろ」
「ジャックッ、この小娘のレベルを見ろ!」
「おい、いくらホムンクルスでもそりゃプライバなんとだろ……っ!」
ギルマスは鑑定魔法を少女に使ったようだ。
何を驚いているのかと、俺も画面をのぞき込むと――まあ、確かに驚くだけのことはあった。
――――――――――――――――
名前 名無し
レベル 99
職業 エルヴンフェンサー
能力値 剣聖級 極めて素早い
スキル
・片手剣11/13
・弓9/13
・自己強化魔法5/13
――――――――――――――――
「いや嘘だろ……」
「99ある! まるで0になったお前のレベルを引き継いでいるかのようだ!」
俺が貧弱になった代わりに、俺のホムンクルスが最強レベルになった。
耳の長い少女は自分の姿が気に入ったのか、嬉しそうに口元を微笑ませる。
それからまた俺を見つめて、動かなくなった。
「聞いているのか、ジャック!」
「……待て」
記憶の中の面影はもっと幼く、髪は俺と違って黒かった。
だがこの顔は間違いない。エルフの耳と、青みがかった銀色の髪を持っているが、これは――
「リリウム」
死んだ妹の顔だ。
俺は死んだ妹の名前を一人目のホムンクルスに付けた。
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