・絶対に倒せないとされる怪物、ゾディアックを倒す 1/2
申し訳ありません。
投稿するエピソードを間違えていたので、正しいものに差し替えました。
先程のエピソードは2話先のお話となります。
ご報告して下さった皆様、ありがとうございました!
そもそも馬の面倒を誰が見るのか?
そんな根本的な問題が浮上するも、まるで悩む俺を愚弄するかのようにすぐに消えていった。
ギルド所有のその葦毛の馬は、リリウムを一目見るなり甘えるようにいなないて、あっという間に懐いてしまったのだ。
リリウムもリリウムで俺がちょっと乗り方を教えてやると、ものの十数分で乗りこなしてしまい――今ではパカパカと蹄を鳴らして、俺の隣を併走している。
……銀の毛並みが朝日に輝いていて綺麗だ。飼い葉もたっぷり貰えている上等な馬だった。
「兄さん、見て……。こうすると、この子、回ってくれる……」
「あ、ああ……。そりゃすげぇわ、普通にすげぇわ、お前」
馬というのはそう簡単に乗りこなせるものではないはずなのだが、リリウムは器用に馬を旋回させて『ほら見て見て!』と言わんばかりに、兄へと無垢に笑い返した。
「ううん……兄さんの方が、凄い……。兄さんは、私の自慢……」
「はっ、そうかよ」
目撃情報のあった場所は、奇しくもあの頃ストーンゴーレムと戦ったエリアの一つ向こう側、ミスリル鉱床のあったエリアだった。
レッドの町の者からすれば、あの辺りは言わば未踏の超危険地帯だ。
まるで巨大なウジ虫のような、おぞましい怪物を見たと、あのバインダーの中のレポートに記されていた。
ちなみに今は行軍速度を上げるために、スライムたちを引っ込めている。
それだけ馬の機動力を手に入れたリリウムは、カートを引く俺の護衛役として最適だった。
「あ……兄さん、あそこ……」
速度もあってか、敵と一度も遭遇することもなく、以前ストーンゴーレムがいた鉱床を通り抜けると、やがて進路に新たなエリアを発見した。
荒野の彼方に、断層のように黒土が一直線に盛り上がっている場所がある。
「あれが目的のエリアだ。ここから先は気を引き締めろ、もし死んだら、俺はお前をゼッテーに許さねぇからな……」
「死ぬ? 死ぬって、なに……?」
「俺たちがモンスターたちにくれてやってるアレと同じやつだ。人は死ぬと、二度と自分の意思じゃ動けなくなる。もう二度と、好きなやつと喋れなくなるんだ」
「それが、死……?」
その断層が崩れた場所を選んで、俺たちは次のエリアに登っていった。
ほどなくして狙い澄ましていたかのように、ゴブリン系を中心とするモンスターの群れが現れた。
「代わり映えしない連中だな……。リリウム、ほら槍だ、今回はこれを使え。その馬を使いこなして見せろ」
「え……。でも……危ない、よ……?」
カートに載せておいた片手槍を投げ渡すと、リリウムは自分ではなく、どうやら馬の心配を始めた。
「ならどうするってんだ、お前の側が世界で一番安全だろ」
「私が守れば、この子は安全……?」
「そういうこった。……さあ始めるぜ。いでよっ、最強のホムンクルス軍団!」
まだ迷っているリリウムの前で、召喚したスライムとゴーレムたちを最前列に配置して、ただちに主流として突撃させた。
それによりようやく覚悟を決めたのか、長い耳を持つ少女がモンスターの群れに向かって槍を身構える。
「兄さん……見てて」
「そう先走るな、いつもの手口で行くぞ。前列の激突に合わせて、お前は左翼、俺は右翼から突撃する。…………よし、突撃しろっ!!」
「ん……!」
こうして俺たちはなんの変哲もないゴブリン軍団を易々と平らげた。
ゴーレムという攻防一体の巨人の投入は、あまりに一方的な戦いをもたらし、そこに騎乗により機動力を増したリリウムが加われば、50体を超える軍勢だろうと俺たちの敵にすらならなかった。
強い。圧倒的だ。
ゴーレムが拳を繰り出すと、ドミノ倒しのように奥のゴブリンまで吹き飛び戦闘不能になる。
完璧な騎乗術から繰り出される槍は、カマイタチのように敵陣を駆け抜けて、次々と怪物たちに死をもたらしていった。
もしかしたらこの馬術は、材料に使ったエルフの腕、その持ち主の技なのかもしれない。
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その後もエリアのあちこちを巡回しながら、群がる雑魚軍団を蹴散らしていった。
4戦目には辛うじて2桁の残党くらいしか残っておらず、それを終えるとエリア全体のモンスターを全て駆除してしまったのか、いくら巡回しても新手が現れることがなくなった。
そうなってしまったら動き回ってもムダだ。
荒野の中に休憩によさそうな岩場があったので、俺たちは足を止めて、そこで疲れを癒すことになった。
「スラ公でベッドを作ったら、どこでも野営ができそうでいいな」
「兄さん……でも、重いって、言ってるよ……?」
「この弾力が悪い。お前もこっちにきて休め」
「うん……」
リリウムは俺の前で馬を下りて、感謝するようにその長い横顔を撫でた。
コイツはやさしいいい子だ。だからこそ兵士として使いにくい……。
これがむさ苦しい男だったら、互いに割り切った付き合いが出来たんだがな……。
俺とは正反対に、リリウムはエメラルド色のスライムを膝の上に乗せて、そのプニプニの弾力を指で楽しんでいた。
「参ったな。なかなか稼げたが、刈り尽くしちまった以上はしょうがねぇ。もう引き返すか……?」
スライムを枕にしていると、超危険地帯だろうと昼寝したくなってくるから困りものだ。
不死身の前衛で、休憩時には大きな枕にもなってくれるのだから、お高い宝石を材料に使ったかいもあった。
「私は兄さんと一緒なら、何でもいい……」
「そういうのは止めろ。お前を戦わせている自分が嫌になる」
リリウムが嫌なら戦いを止めてもいいぞ。そう言い掛けて俺は言葉を飲み込んだ。
ヴォルフを討つまでは、甘いことなんて言っちゃいられない。
「兄さん……少し、くっついても、いい……?」
「は? あー、まあ……好きにしろ」
俺はリリウムをどうしたいのだろう。
今はこの子の鋭く速い力が必要だ。しかしヤツとの決着を着けた後、俺はこの子をどうするつもりなのだろうか……。
少女は同じ岩に腰掛けると、ピッタリと身体を寄せて、またスライムをこね始めた。




