・レベル0
いつものようにベッドから身を起こすと、今日は妙に体が重かった。
先日ストーンゴーレムを轢いた反動だろうか。
その時は深く受け止めずに、俺は朝の身支度を進めた。
シャツを脱いで、水瓶に布を浸して肌を拭い、町民らしい粗末で平凡な服を身につけた。
最後にダガーと投げナイフを吊したベルトを手に取ると、思わぬ重さに腕を取られていた。
「なんだ……?」
変だった。昨日までこのベルトを重いとすら感じていなかったのに、なぜか今日はこの程度の荷物が重い。
これは疲れという言葉では片付かない。これは、肉体の異変だった……。
「……っ!?」
ベルトを腰に巻き付けると部屋を出て、酒場宿の共用トイレに入った。
ところがふと鏡を見ると、黒く染めたはずの髪が元の赤毛に戻っていた。
「おいおい、俺は夢でも見てんのか……?」
だが短くした髪はそのままだ。
よし、こういうときは……アレだ。ギルドから支給されたアレを使ってみるか。
俺は自室に戻り、ギルドカードを取り出した。
このカードは人物鑑定の効果を持っている。簡単に言えば、持ち主の能力とレベルを表示する古代遺物だ。
俺はカードを朝日に透かせて、そこに浮かび上がった文字を読んだ。
「は……?」
――――――――――――――――
名前 ジャック
レベル 0
職業 ホムンクルスマスター
能力値 生まれたてのゴブリン並み
スキル
・カート運搬9/9
・カート攻撃9/9
・アイテム鑑定7/9
・投擲術5/9
・片手剣8/9
・所持品重量半減
補足 もっとがんばりましょう
――――――――――――――――
99あったはずの俺のレベルが、一晩眠っている間に0になってた……。
・
意味がわからないので冒険者ギルドに向かった。
「すみません、ホムンクルスマスターというジョブを知っていますか?」
「あ、スートさんおはようございます。って、その頭どうしたんですかっ!?」
「これが俺の地毛です。それよりホムンクルスマスターについて教えて下さい」
「ホム……なんですか?」
こういうのは受付の女が詳しいだろう。と思っていたのだが、どうもかんばしくない。
「ホムンクルスマスターです」
「うーん……聞いたことありませんね。マスターということは、何かの特化職でしょうか?」
若い受付は親切にもバインダーを取り出し、恐らくは所属冒険者のリストをパラパラとめくって同じ言葉を探してくれた。
「ホムンクルスという言葉に聞き覚えは?」
「さあ?」
これはまずいな……。
俺が感情任せにヴォルフの刺したのは、自分で自分を守れる自信があったからだ。
それが一晩寝たら、レベル0の貧弱なボディに変わり果てていた。
誰も知らないジョブに変わってしまっていた。
今日から俺はどうやって働けばいい……。
せめてこのジョブがなんなのか、使い道を突き止めないことには詰みだった……。
俺が深刻な表情を浮かべるので、受付も他のバインダーをめくって調べてくれた。
だが結果はよろしくない。
「あっ、マスター! ホムンクルスマスターって知ってますかーっ?」
少しするとそこにギルドマスターの女がやってきた。
この冒険者ギルドに加入するために、レベル99のことは彼女にだけ伝えてある。髪を黒く染めたのもその後だ。
「ホムンクルスか? ホムンクルスとは別名で人造妖精、人に造られし生命のことだ」
「妖精……。妖精か、いかにも弱そうだ……」
「どうした、スート?」
「どうもこうもない……。俺を鑑定してみろ」
言われたとおりに彼女は鑑定魔法を俺に使った。
この女はマジシャンの上位職ソーサラーのそのまた上のウィザード職だ。俺もこいつの実力に一目を置いている。
鑑定魔法が空中に光のパネルを生み出し、赤裸々に俺の能力をさらけ出した。
「プッ……」
「人の不幸を笑うな、テメェッ!!」
「レベル0……? うっそ、こんなの見たことも聞いたこともありませんよ……?」
「貧弱になったものだなぁ、坊や?」
「いい歳して人を煽るんじゃねぇよ……こっちは深刻なんだよっ!」
家族が死んでオヤジに拾われて以来、少しずつ鍛え上げてきたこの体が、なんでレベル0になるんだよ……。
「だからホムンクルスマスターの話をしていたのか。む……妙なスキルがあるな」
――――――――――――――――
名前 ジャック
レベル 0
職業 ホムンクルスマスター
能力値 生まれたてのゴブリン並み
スキル
・カート運搬9/9
・カート攻撃9/9
・アイテム鑑定7/9
・投擲術5/9
・片手剣8/9
・所持品重量半減
未覚醒スキル
・ホムンクルス製造1/9
――――――――――――――――
言われて光のパネルをのぞき込むと、そこには確かに[ホムンクルス製造]とあった。
ホムンクルスとやらを扱う職業なのだから、作り出すこともできるのか。ほんの少しだけ希望が見えた。
「聞いたことは?」
「あるわけがない。だが面白い、特別にうちに招待してやろう」
レベル0の状態で人の家を訪ねるのは抵抗があったが、このままではどうにもならないので、ついて行くしかなかった。
もし少しでも気に入ってくださったら、画面下部より【ブックマーク】と【評価☆☆☆☆☆】いただけると嬉しいです。