・レベリング二日目 - レッドの町へ -
なぜこんな厄介な土地でこいつらは暮らしているのかと、時々疑問に思うことがある。
ここの連中は狭い土地の中で、限られた資源と食料を分け合いながら、凶悪なモンスターに囲まれているというのに決して逃げ出さずにたくましく生きている。
西に行けばもっと安全な国や豊かな都市があるだろうに、彼らはこの地での生活を手放さない。
以前どうしてもそこが気になって、酒場のオヤジに聞いてみたらこう答えられた。
『けど西は戦争だらけなんだろ? 人間同士で殺し合うより、モンスターの頭かち割ってた方が、俺ぁこっちのが断然いいわ』
『へっ……そこは反論できねーな、確かにその通りだわ。あっちの世界はアンタの想像よりずっと、胸糞悪いことばかりだぜ。敵に町や畑が焼かれるなんて日常茶飯事だ』
『畑を焼くとか、まじかよ……。はぁっ……どっかに広くて、モンスターに怯えずに暮らせる平和な国とか、ないのかねぇ……』
『そんな土地があったら、傭兵も冒険者もおまんまの食い上げだな』
平和な国に行きたい。そんな発想は生まれてこの方まるでなかった。
竜の牙の団長ファランに拾われたその日から、戦争が俺の日常だったからだ。
伸び伸びと暮らせる広い土地は、東側の世界では何よりもの贅沢だった。
・
そんなことを思い返しながらカートを引いていると、荷台に乗っていたリリウムが俺の横顔へと身を乗り出してきた。
「兄さん……敵がいる……」
「やっと獲物がかかったか。相手の兵科と数は?」
「剣と、弓持った、ゴブリンが50くらい……?」
「昨日の今日で代わり映えしない相手だな。弓の数は?」
「……30くらい?」
妹が――ではなく、リリウムの肌が矢で傷つくのはあまり嬉しくないな。となると――
「前回と戦術を変える。スラ公どもは前進、真正面から敵を受け止めろ。リリウム、てめーはそのままカートの中に入ってろ」
「ぇ……やだ」
「ちゃんと出番をやる。俺が敵後陣に突っ込むから、そこまで行ったら飛び降りてアーチャーどもを片付けろ」
「うん、わかった……! そういう命令なら、嬉しい……」
そういうことになって、俺たちは不死身のスライム部隊の前進をしばらく見送って、頃合いを合わせて突撃した。
荒れ地の上をカートが暴れ回り、荷物ごとリリウムがバウンドする。
「不死身の前衛か。スライム軍団をもっと充実させたいな」
「兄さん、私は……? 私も増やす……?」
「混乱するからてめーは1人で十分だ!」
「そんな……残念……。あ……私、行く」
「おう、片付けてこい!」
「うんっ!」
カートを引いて爆走すると、弓の嵐が俺たちの後ろを通り過ぎていった。
限度のない加速に照準がまるで合わないようだ。
やがて目標のポイントに到達すると、細身のエルフが銀のレイピアを閃かせてカートを飛び降りた。
最強のフェンサーの投下ついでに俺も敵を薙ぎ払い、カートを囮にしながらリリウムを狙うやつに投擲ナイフを5本ほど投げつけると、もう戦闘が終わっていた。
先端が開かれてよりまだ2分も経っていなかった。
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名前 ジャック
レベル 34 → 38
職業 ホムンクルスマスター
能力値 オークファイター級 → オークロード級
スキル
・カート運搬9/9
・カート攻撃10/10
・アイテム鑑定7/9
・投擲術5/9
・片手剣8/9
・所持品重量半減
・ホムンクルス製造1/9 → 2/9(触媒の消費50%)
魔法
・グラビティ2/9(自身、あるいは対象の重量を最大3.3倍に増やす)
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レベル38か。ヴォルフや幹部クラスと一騎打ちするには物足りないが、こちら側の冒険者くらいなら一通りあしらえるだろう。
ホムンクルス製造スキルの成長で、ここにきて触媒の消費が半分になったのも大きい。
儲かった分を全て戦力増強に使ってしまおうかと、計画性のない思い付きに駆られた。
「よくやった。アーチャーはほとんどテメーがやっつけたな」
「兄さん、私、偉い……?」
「……ああ」
「へへ……嬉しい……」
偉いと素直に返そうとして、言葉を止めた。
妹と同じ姿をしている少女を戦わせていることに、罪悪感を覚えたが、それは容姿に騙されているだけだ。
コイツはホムンクルスだ。死んだ妹ではない。頭ではわかっているのに情が邪魔をしていた。
「それよりやつらの剣や弓をカートに積み込め。ゴブリン系素材は――今日はスラ公どもに食わせてやるか」
「賛成……。偉い偉い……」
ほんのわずかに重くなったカートを引いて、俺たちは旅を再開させた。
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