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第17話 

食事を終えると、部屋には戻らずカラと一緒にレイーニア家を後にした。

 エントランスホールに見送りに出て来た数人の使用人たちは、私とカラが連れ立って出て行く姿に「いってらっしゃいませ」の言葉と同時ににこやかな笑顔を向けて来た。

 カラは、笑顔で送り出してくれる使用人たちを見ずに無言でスタスタと玄関へと進んで行く。


 そんなカラを目の端に入れながら、私は出て来てくれた使用人たちに笑顔で「行ってきます」と言って会釈をしながら進んで行った。


 昨日通ったレイーニア家専用の出入口を使って王宮の敷地内に入った。

 昨晩は明るいとはいえ、篝火かがりびの明かりしか無かったので、遠くまで見えなかったが、今ははっきりと見える。柵の向こうの王宮の庭園も城門の所までしっかりくっきりと見渡せる。


 周りに注意を払えるだけの余裕が一晩で出来るとは、日ごろ培われた順応性のおかげかもしれない。

 ビクビク、オドオドしていてもどうしようもない。やるべきことはわかっているのだから、そのためにも前を向いて進んで行くのみだ。


 前を行くカラは辺りを見ることはせず、サクサクと一直線に進み、王宮に入る木製の扉を開けると真っ白な廊下を進んで行く。


 廊下を抜けると、左手にエントランスが見え、カラはそのままエントランスから外へと出て行った。

「え、カラどこ行くの?」


 まさか王宮の外に出て行くとは思ってもおらず、驚いて声をかけた。

 前を行くカラが立ち止まり、ゆっくりと肩越しに振り返る。


「騎士団の騎士がいる騎士棟はこっちだ」

「騎士たちって王宮内にいるんじゃないの?」

「違う。王宮内に詰めてる騎士は何名かいるが、それらは王族護衛騎士で騎士団には属していない。選りすぐりの精鋭騎士だ。もちろん、市中の見回りなんかしないから穢れ人や魔物と戦うことはない。あんたが力を使う相手じゃない」

「え、じゃあ、なんでカラはその騎士になら……うわっ」

 突然、庭園の木立が激しく揺れ、ガサガサと葉をこすり合わせて音を鳴らしたかと思うと、私の短い髪が舞うように乱れた。


 地面からは砂埃が巻き上げられ、私は言いかけていた言葉を切った。巻き上がった砂埃から逃げるように咄嗟に目を細めて顔を右側に背け、一歩後ろへと後ずさる。

 まるで風が私の言葉を遮ったかのようだ。


 風が止んだのを感じて、うっすらと開けた目でカラの姿を探すと、まだうっすらと舞い上がる砂埃の向こうにカラが片手で軽く目元を覆い、ひざまであるマントを風に揺らして立っている。


 まるで風がカラにしがみつき「風のないところへ連れて行くな」と言っている気がした。

 カラ自身も、外に居ることが当然であるかのような立ち姿。私の言葉を拒絶するような雰囲気と、カラ自身が持つブレのない精神的な強さが微かに放たれている。


 風の無いところは自分のいる場所ではないと少し伏し目がちになっているカラの切れ長の目が静かに語っているようだ。

 それでも気にはなった。


(そんな精鋭部隊にどうしてカラは入っていないんだろう。昨日の初級騎士の子はカラの能力は騎士団の中でダントツの一番だって言ってたのに。彼が言った一番は護衛騎士を除いてってことだったのかな)


 ぼんやりとカラと護衛騎士について考えていたら、

「おい。置いてくぞ」

 不意に言葉を投げかけられた。


 考え事に没頭していた頭を慌てて切り替え、カラの居た場所に目を遣ると、カラがいない。

 それどころか、レイーニア家とは反対方向の城壁へ向かって歩いているじゃないか。


(少しでもあいつの事を気にした私がバカだった。もう、知らん!)


 私は腹立ちを拳に込めて、右足の太ももを強く叩いた。そして、すぐにカラの隣まで走った。


 私とカラは並んで、城壁の一部が大きなアーチ状になっている部分を通り抜けた。

 どうやら、普段は門扉が閉じられているようだが、今は開いているだけらしい。


 アーチの王宮側と反対側には一名ずつ衛兵が立っていて、どちらもカラを見るなり恭しく頭を下げた。


「ここから先は騎士棟や魔術研究棟、あとは騎士や魔術士、使用人たちの宿舎なんかがある」

 アーチの先にはレンガ造りの博物館のような建物が何棟か建っており、土がむき出しの道が巡らされている。

 さすがにここも王宮敷地内なので、きちんと整えられているようだ。


 立ち並ぶ建物が何の建物なのかは気になったが、カラが説明してくれないのでわからない。聞くにも、さっさと進んで行くので聞くタイミングがない。


 ふと、風に乗って馬のいななきが聞こえた。

「馬、いるの?」

「ああ。厩舎と練習場がある。馬術も騎士に必要な技術だ」

「私も練習したいなぁ」

「あんたはやめた方がいい」

「なんでよ」

「昨日の姿を見たからな。あんたが乗れるようになる前に馬の寿命が尽きる」

「なんだとー!」

「ま、俺が乗せてやるから安心しろ」

「人を荷物扱いするくせに!」

「荷物のような奴は乗せたりしない」

「どういうこと?」

「あんたは面白いってことだ」


 ぶつぶつと文句を言いながら歩いていると十字路でカラは右に曲がった。 

「この先に騎士棟がある。今日、出勤しているのは第一騎士団から第五騎士団だ。第七騎士団、第十騎士団は遠征中。残りは休みだが、鍛錬や市中警戒の報告書作成のために来ている可能性はある」

「確実に全員がいる騎士団から行きたい」

「なら第一騎士団からだな。いずれの騎士団も悪い奴はいない。レニ国の騎士団の忠誠心と団結力は全世界随一だ」

(パワハラとかモラハラとかないのかなぁ。カラが知らないだけで、何もないなんて無いのが普通なんだけどな)


「ここが騎士棟だ」

 他の建物と同じ石造りの四角い建物の前でカラの足が止まった。

(でっか! でも、なんだろう、どことなく見たことがある気がするんだけど……)


 騎士棟を見上げると、窓の並びは縦に3つある。どうやら三階建てのようだ。


(あぁ、これ、神戸にある旧外国領事館の建物っぽい。外壁に豪華な飾りは無いけど、レンガ造りでお洒落。コンクリートの箱ものとは雰囲気が違うわ)


 素敵な建物だなぁと思い、にんまりと口元をほころばせながら、騎士棟を仰ぎ眺めていると

「早く来い」

と無味乾燥なカラの声がしたので慌てて彼の姿を探し視線を彷徨わせると、もう騎士棟の扉前のひさしのあるところまで行っているではないか。


「ちょっ!」

 私はまたしても慌てて彼の元に駆けて行った。


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