44話前半 ダースは未来人が苦手!
「……あの」
「なんだヒゲ」
「……ヒゲ?」
「そうだ。オレに気安く話しかけるな!」
テレサちゃんは、机を隔てて僕の隣に座る男をジト目で睨みつける。ツンとした口調は、シリアスだったころの彼女のものだ。
「おいユート! これはどういうことだ! この子は改心したんじゃなかったのかよ!? なんで俺に対してだけ怖いんだよ!?」
「知らないよ。他の人からもこんな感じに当たられてるんだろ? 許容しろよ」
「ひどくない!? 最近当たり強くて傷ついてるんだけど!?」
バルクから逃走するときにダースを放置していったのが二日前。今朝になって僕をギルドで見つけたダースが、どういうことだと掴みかかってきたのだ。
このクズに触られると多重債務者が移るので、さっさと事情を説明して離れてもらった。で、遅れてギルドにやってきたアリシアさんとテレサちゃんの二人と鉢合わせたわけなんだけど。
さっきからテレサちゃんがダースを見るなりなんだかムスッとしているのだ。確かにこいつはバカみたいな顔をしているとは思うけど、一体どうしたんだろう。
「テレサ、なんでそんなに怒ってるの? 教えてほしいな」
「このおじさんはテレサのことを裏切ったのです。バカとか言うのです」
裏切ったね。清々しいまでに裏切ってたね。『バーカ! お前、俺がアリシアさんやユートたちのことを裏切るようなタマだと思ったのかよ!』って言ってた。
「あれは仕方ないだろうが! 剣がないとアリシアさんがヤバかったんだから!」
「あとカップ麺しか食べさせてくれなかったのです! いじわるは嫌いです!」
嫌われてるなー。テレサちゃんはよほどダースのことが許せないらしい。
「テレサ。ダース君は私のために一芝居打ってくれたんだよ。それに、ちゃんと食べ物を買ってきてくれたのは事実でしょ?」
「そうだそうだ! 不当な対応だぞ!」
アリシアさんが説得をすると、テレサちゃんは少し考えて。
「うう……わかったのです。おじさん、怒ってしまってごめんなさいなのです」
「まったく! あと俺はおじさんじゃねえ! ダース様だ! 様を付け――」
「お前は少し黙ってろ!」
僕は調子に乗るダースの後頭部をひっぱたいた。裏切るのが前提だったとは言え、虎の威を借る狐で周囲に威張り散らしていたのはこいつだ。お前がふんぞり返る権利はない。
一応、謝りはしたわけだけど。二人の間にはまだしこりがあるようにも見える。テレサちゃんは口調こそ戻ったものの、まだジト目でダースを見つめているし、ダースはダースで納得いっていないような表情をしている。
「二人とも、どうやらまだ話足りないみたいだね……」
ふっふっふ、と言いながらアリシアさんは自信満々に立ちあがった。
「はい、テレサ! これお小遣い!」
「あ、ありがとなのです……?」
不思議そうな表情のテレサちゃんに小銭を渡すと。
「二人とも仲良くしなさいっ! 勇者キック!」
二人の臀部に軽めの蹴りを入れた!
「「うわっ!?」」
ダースとテレサちゃんは二人して間抜けな声を上げる。衝撃で前方へ吹っ飛び、ギルドの外まで行ってしまった。
「な、なにをするのですありしー!?」
「二人とも、今日を機に仲直りすること! 仲直りしないと、テレサは晩ごはん抜きだよ!」
「そ、そんなあ! ひどいです! テレサは悪くないのです!」
地面にぺたりと座り込み、泣きそうになるテレサちゃん。アリシアさんはまるで親のように彼女に言い聞かせた。
ちょっとかわいそうな気もするけど……テレサちゃんはあと数日で未来の世界に帰ってしまう。現代のダースと仲直りができるチャンスはもうないかもしれないのだ。
アリシアさんなりに考えた結果なんだろう。だから今日一日、二人でお小遣いを使って街で遊んで来いと。そういうことだろう。
「ありしー! 考え直すのです! 晩ごはんが抜きになったらテレサはグレてしまうかもしれないのですよ!?」
「グレたら朝ごはんも抜きです! お昼ごはんしか食べさせません!」
論点がズレてきてるって!!
「とにかく、二人で仲直りしてきなさい! いってらっしゃい!」
アリシアさんは最後にそう言い捨て、ギルドの扉を閉じる。ギルド内に残った僕は、アリシアさんが満足げに手をパチパチとはたくのを見て。
「……なんか締め出したみたいにしてますけど、ここはアリシアさんの家じゃないですよね?」
この人は普段の行動は読みやすいのに、たまに突拍子もないことをしだすから大変だ。何を達成感に満ちた顔をしている?
「流れで追い出しちゃいましたけど、このままじゃテレサちゃんが本当にグレちゃいますよ? ダースの近くに置いとくのはマズいですって」
「大丈夫! そのあたりは私にも考えがあるから!」
……お? いつもなら何も考えないで一直線に行動してしまうアリシアさんの口から『考えがある』だと? これは正直驚いた。
「尾行するんだよ!」
「尾行?」
アリシアさんは自信満々に人差し指を立てて言う。尾行ってアレか? 探偵がやるような。
「二人がこれから何をするのか尾行して、ちゃんと仲直りするか確認するんだよ!」
なるほど、アリシアさんにしてはまともな意見だな。二人が困った場面があったら助けられるし、仲直りしたかもわかる。なにより二人がどこに遊びに行くのか気になるぞ。
「その意見には大賛成なんですけど、尾行ってどうすればいいんですかね?」
「簡単だよ! 距離を取って、二人がどこに行くのかを見守ればいいだけ! 私詳しいから、ユート君はついてくるだけでいいよ!」
「……へえ、詳しいんですね。なんだか一度誰かを尾行した経験があるような」
その瞬間、アリシアさんがビクゥッッ!!! と背筋を震わせる。顔からサッと血の気が引き、みるみるうちに青ざめていく。
「な、何の話?」
わっかりやす。何をしたのかは知らないけど、とりあえず僕に関することなのはわかったぞ。
「違うよ!? 何もあってないよ!?」
「まだ何も言ってないですよ。そのまま行くと進んで自白しそうな勢いなのでもう黙ってください」
こんなところで時間を割いている場合じゃない。僕たちは尾行をしなくてはならないのだ。




