43話前半 テレサちゃんは洋服が好き!
バルクとの戦いから一夜明け。ギルドのいつもの席に座っていると、テレサちゃんがニコニコしながらやってきた。隣にはアリシアさんが立っている。
「ゆーくん、おはよーなのです」
バルクを倒し、僕たちはアリシアさんが死ぬ未来を回避することができた。それはテレサちゃんが話していたので、おそらく間違いないことだろう。
テレサちゃんは昨日からアリシアさんの家に居候として暮らしているのだ。食事は出てくるし、部屋も広いからわざわざダースが用意した賃貸に住み続ける意味はない。だから二人が一緒にやってきたというわけだ。
「おはようテレサちゃん。昨日はよく眠れた?」
「はいなのです。ベッドがふかふかで、ごはんもカップ麺じゃなかったのです!」
テレサちゃんは夢見心地と言った様子で、昨日の生活を振り返る。それにしてもダースの奴、料理が出来ないからテレサちゃんにインスタントばっかり与えていたな。そんなことしたら栄養が偏っちゃうだろ!
「さてと、テレサちゃんは今日からしばらく暇になるんだよね」
「そーなのです。未来に帰るまではありしーの家にお邪魔虫なのです」
本当に可愛いなあ。初登場時の怖いテレサちゃんはどこに行ったのやら。
「そういえば、テレサちゃんは一年後の魔王襲来からシリアスな世界線で生きてきたんだよね」
「シリアスな世界……よくわからないけど、多分そうなのです」
「だったら、今の時代って懐かしかったりするんじゃない?」
「そりゃ懐かしいのです! テレサがタイムスリップしてきた十年後の世界は、この街はおろか、他の街にも人が住んでなかったのです」
うげ、そんな気はしていたけど、この街も人が住まなくなるのか……。本格的にポストアポカリプスって感じだな。想像するだけでシリアスの臭いがプンプンする。
「じゃあさ、今日から一週間後の帰る日まで、テレサちゃんが行きたいところに行こうよ!」
「テレサが行きたいところ……なのです?」
「うん。しばらく遊びにも行けてなかったんじゃない? だから、僕たちが街を案内するよ。どこでも好きなところ!」
ここまでテレサちゃんは頑張ってくれたわけだし、おかげでアリシアさんも死なずにすむ。だったらせめて未来に帰るまでの間、遊びに行ったっていいよね!
「どこでもいいのです? そう言われると、うーん……悩むのです」
「例えばさ、そのファッションはどうなの?」
「え?」
テレサちゃんは、黒いスポーツブラの上に白いパーカー、下は黒いショートパンツとかなり露出が多い格好をしている。現在のテレサちゃん|(6)はかなりフリフリ系のドレスを着ていたような気がするけど。
「テレサが暮らしていた世界は森林が焼き尽くされて、夏はとっても暑いのです。だからなるべく涼しい格好にしているのですが……もしかしてこれって変なのです?」
「変ってわけじゃないけど、なんていうか……露出は多いよね」
「えっ、そうなのです!?」
僕の指摘を聞いて、テレサちゃんはようやくもじもじとし始めた。パーカーのファスナーを閉め、頬を真っ赤に染める。何故かフードを深く被って。
「どどどどど、どうしようありしー! テレサ、恥ずかしいのです!」
「私は、それはそれでありじゃないかと思うけど……」
「駄目なのです! 恥ずかしいものは恥ずかしいのです!」
あれ、余計な知識を付けてしまったかな。今まで堂々としてたんだから、急に焦る必要はないと思うけど……。それがテレサちゃんの望みならば。
「よし、じゃあ今日はテレサちゃんの洋服を買いに行こうか!」
「ふく!! テレサはショッピングに行きたいのです!」
テレサちゃんは目をキラキラと輝かせ、机をバンバンと叩いて歓喜した。……そして、うるさくしてしまったかと不安になり、キョロキョロと辺りを見回す。
やっぱり中身が幼女時代から変わってないんじゃないだろうか。過酷な戦いを乗り越えてきた反動で、精神年齢が大人にならなかったとか……あり得る話だ。
小動物的な可愛らしさをまとった少女は、タイムスリップして初のお買い物に行くことになったのだった。
「おっかいもの、おっかいもの」
よほどうれしかったのか、テレサちゃんはスキップをしながら街を歩く。かなりご機嫌なようで、鼻歌はとうとう口から洩れるようになってしまった。
「ゆーくん、ありしー! テレサたちはどこに向かっているのです?」
「特に決めてないけど、テレサちゃんは行きたいところはある?」
「うーん……あ、『いまむら』に行ってみたいのです!」
いまむらって……あのファストファッションでおなじみの?
「いまむらの服は子供向けってイメージがあるけど……本当にいいの?」
「小さい頃に、友達が着ていたのを見てうらやましかったのです……テレサの服はフリフリのやつしかなかったから、運動もしづらくて」
なるほど、そういう思い出があるのね。何故いまむらをチョイスしたのか納得した。
「そういうことなら全然いいんじゃないかな。何を着るかなんて個人の自由だと思うし」
そんなわけで、いまむらにレッツゴー!
「すごいのです! 思ったより大きいのです!」
ファッションストアいまむら。マツリさんの研究所を連想するような白い直方体の建物だ。全面はガラス張りで、店内に色とりどりの服が並べられているのが一目瞭然。
「うわ~~! 色々置いてあるのです!」
テレサちゃんは自慢のスピードで商品が陳列されている棚を縦横無尽に見て回る。危ないから店内で走るのは駄目なんだぞ。
店内にはお客さんがまばらにおり、子供連れの母親や女子学院生など、主に女性が多め。老若男女に愛されるブランドと言っても過言ではないだろう。
久しぶりに来るなあ、いまむら。小さい頃に母親が勝手に買って来た服がいまむらのものだったというくらいで、こんな年になってから来るとは思わなかった。
僕も棚に置かれている服を手に取って見てみる。うわ、懐かしいな。よくわからない文字が羅列されたTシャツ。なんなんだろうねこれ。チェーンが付いてるズボンとか。もうこの歳では着られないかな。
こういうTシャツはさすがに僕の歳で着ている奴はいないだろう。だから棚に戻して……。
「ユ、ユート!?」
僕に声をかけてきたのは、焦った表情のリサだった。
とある事情からマツリさんの名前が変更になりました。
タカハシマツリ→ワタナベマツリになります。
ご迷惑をおかけいたします。




