表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/133

42話後半 筋肉は未来も変えるッ!

 テレサちゃんが落ち着いて。


マツリさんは研究所の警備を厳重にしつつ、これからテレサちゃんが未来に帰るためのマシンを開発するという。


 テレサちゃんから聞けば、タイムマシンの開発には三年ほどの時間を要したらしく、今から開発するのは無理では? と思ったわけだったが。なんとテレサちゃんは未来のマツリさんからタイムマシンの設計図を預かってきたらしい。


 設計図を見て『これなら一週間くらいで作れる』と言うマツリさんは、相変わらず頼もしい。


 そして僕、アリシアさん、テレサちゃんの三人は。


「なんか走ったら疲れちゃったよ。ドーナツでも食べに行かない?」


「呑気なこと言わないでくださいよ。まだバルクが弱体化したと決まったわけじゃないんですから。……と言っても、ほぼほぼ大丈夫だと思いますけど」


 マツリさんがサプリを開発しないことで、魔王軍四天王のバルクは弱体化する。予測不能の事態でも起きない限り、もはや脅威ではないだろう。暑いからドーナツショップでジュースでも飲みに行こうかと話そうとすると。


「おいッ!!」


 ジムから出てしばらく街を歩いていると、僕たちを呼び止める声がする。


「なんですか、おじいさん? 僕なにかやっちゃいました?」


「君たちッ! 未来を変えたねッ!」


 僕たちに絡んできたのは、骨と皮だけしかないようなヒョロヒョロのおじいさんだ。髪は一本も生えておらず、肌もなんだかガイコツのように青白い。変なおじいさんが僕たちに怒りをぶつけてきている。


 ……いや、違う。よく見たら皮がない!! この人ただのガイコツだ! 言い換えると、スケルトン。骨だけの体で、口をパカパカ開けて怒鳴りつけている!


「君たちが未来を変えたから、僕の筋肉が失われてしまったじゃないかッ! どうしてくれるんだッ!?」


 その喋り方と、『筋肉』というワード。


 このスケルトン、まさかあのバルクか!?


「えっ、バルクってスケルトンだったの!?」


「テレサも初耳なのです。まさかサプリを飲んで筋肉を付けたってこと……?」


 おかしいおかしい。まずスケルトンがサプリを飲む意味がわからないし、筋肉が付く過程がイメージできない。テレサちゃんの話はこれまで全面的に信じてきたつもりだけど、こればっかりは無理。


「まさかこの時代を修正することで僕の弱体化を図るとは……なんたる不幸ッ!」


 バルクは存在しない眉をしかめて、口惜しそうにつぶやく。その口癖と喋り方は健在なんだね。


 それにしても……こんなにはっきりと変わるものなんだな。マツリさんの行動が変わっただけで、ちゃんと一人のモンスターがマッチョからスケルトンになるなんて。自分でもびっくりだ。


「君たちッ! 一体何をしたんだッ!?」


「この時代のマツリ博士が筋肉増強サプリを作るのをやめたのです。だからお前はただのスケルトンに逆戻りなのです!」


「な、なんだとッ!? そうか……『グッドラック』をこの世から消したんだなッ!? どうりで筋肉がなくなるわけだ……!」


 やはり僕たちの見立て通りで、バルクはマツリさんが開発したサプリの愛用者だったらしい。何回か使っただけでムキムキになることはまずないから、相当ヘビーユーザーだったんだろう。


「そんな……アレがないと僕の美しく引き締まった筋肉がッ!」


「あのさあ……骨に言うのもおかしな話なんだけど、自分で筋トレして筋肉を付ければよくない?」


「いや無理だねッ! 汗かくし辛いから、僕は筋トレなんて絶対にしないッ! 同様の理由で夏は外にも出たくない!」


 スケルトンって汗かくのか……?


「教えてやろう現地人ッ! 敵と戦うときや運動をするときは、自分が絶対に安全かどうかを基準にするんだッ! 己の限界を超えようなんて考えちゃいけないッ! 格下を相手にボコボコにするのが気持ちいいのさッ!」


バルクは骨だけになった胸を張り、自慢げに言い放つ。本当に最悪だなこいつ。四天王という肩書とは裏腹に、発言がいちいち小物臭い。


「しかし困った……ッ。これじゃワタナベ博士をこの時代から消すことができないどころか四天王のポストからも降ろされてしまう……ッ!」


「さあバルク! 観念するのです! 今のお前は完全にただのスケルトン! そしてこっちは三人がかり! お前に勝ち目はないのですッ!」


「不幸ッッ!! これからどうすればいいんだ……ッ!」


 バルクは骨だけの手で頭蓋骨を抱える。もう同情も逆転の余地もないから大人しくテレサちゃんに退治されてくれ。


「……わかったッ。僕の負けだッ。一思いに殺してくれッ」


 地面に手と膝をつき、諦めたように呟く。


「やっと諦めがついたのですね!」


「ああッ。僕はこれまでたくさんの人間を殺してきたッ。……いや。殺しすぎた、と言うべきだろうかッ。もとよりロクな死に方はしないとわかっていたさッ」


 『ッ』が気になるが、どうやらバルクなりに、いつ殺されてもしかたないという覚悟はしていたらしい。彼のガイコツの表情が、僕にはなんだか寂しそうに見えた。


「僕の罪は消えることはないッ! だから君の手で殺してくれ、テレサッ。どんなむごい殺し方でも構わないッ」


 言われたテレサちゃんは、短刀をスッと引き抜いて。


「……これで終わりなのです。バルク!」


 首の部分に短刀を突き立て、一瞬で首をはねた。


「……あなたは罪を重ねすぎた。地獄で罪を償うのです。ただ……死ぬときはせめて一瞬で、痛みを感じないよう」


「……ありがとうッ」


 地面に転がった頭蓋骨の口が少し動き、バルクは満足げな表情をした。途端、彼の体が骨ごとに分かれて、まるで砂場の城のように崩れた。地面には小さな骨の山が出来上がる。


「これで、バルクを倒したんだね」


「ええ。そうなのです。これでテレサの未来は変わった……おそらく、ありしーも死なないでしょう」


 そう結論付けた上で、テレサちゃんは元々バルクだった骨の山を抱え上げて。


「でも今は……敵同士だったとはいえ、静かに弔ってあげましょう」


 最後に潔く負けを認めたあたり、こいつも魔王軍っていうだけで根っから悪いやつではなかったのかもしれない。そう思うと、なんだか同情しそうになった。


 バルクの骨たちはその後、僕たちの手で森に埋葬された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です(^_^ゞ バルクの小物臭たっぷりでゲスな御言葉(笑) お陰で無抵抗な状態でも遠慮なく倒す事が出来ましたね( ̄∇ ̄) [気になる点] バルクの体は変化してましたね。 ……で…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ