4話後半 アリシアさんにはライバルがいる?
「さあ、次の勝負はアンタが指定しなさい! アリシア!」
ギルド内にて。アリシアさんの斬撃を喰らって一時間ほど伸びていたリサは、まだ懲りていないのか三本勝負の二回戦を挑む。もう終わりでいいんじゃないかな。
「次の対決は私が決めていいんだ! じゃあ……あれ!」
アリシアさんはギルドのバーカウンターのところに貼られたポスターを指さす。
ポスターには、カップに入ったかき氷のイラストが大きく書かれている。雪のようにふわふわで真っ白な氷に、イチゴ味のシロップがかかっていて、すごく美味しそうだ。右下には『7つのフレーバーからシロップを選べるよ!』の文字が。
「かき氷?」
「うん! 二回戦は『かき氷早食い勝負』にしよう!」
「またそんなエンタメ色が強いものを選んで……普通にもう一回組手すれば二勝ですよ?」
「ユート君わかってないな~! 私かき氷の早食いは得意な気がするんだよ! やったことないけど!」
「その自信はどこから来るんですか?」
一方、勝負の内容を聞かされたリサは、拳をわなわなと強く握っていた。
「ふ、ふざけてんのかあああ!! 誰がやるか早食い対決なんてええええ!!」
「ユート君は何味のシロップが好き?」
「僕はメロンですね。なんか高級感があるので」
「私は断然レモン派かな。リサちゃんは?」
「王道のイチゴ……って聞けやコラアアア!!」
こうして三本勝負の二回戦、『かき氷早食い対決が始まったのだった』!!
「ま、負けたあ~~」
5分後。僕の目の前には、かき氷のカップを片手に机に顔を突っ伏すアリシアさんがいた。
かき氷勝負は、結論から言うとアリシアさんの負け。何の面白みもない、ストレートに食べるのが遅いという負け方だった。
「だから普通に組手で戦った方がいいって言ったのに……」
「だって自信があったんだもん! 私早食いの才能があると思ってたんだもん!」
「次からは根拠のない自信はやめましょうね」
涙目のアリシアさん。二本目を取ったリサはというと、同じように机に顔を突っ伏していた。
「ア、アタマが……キーントスル……」
リサは何も考えずにかき氷を一気食いしたから、今になって副作用に苦しめられている。二回戦の結果は両者に大ダメージという感じだ。
「リサ、カップでおでこを冷やしてみなよ。少しはよくなるから」
「うっさい! アンタに命令されたくな……痛゛い゛っ゛!?」
とんがり帽子に黒いマントと、魔女っ娘みたいな格好してるくせになんでこんなにアホなんだ。いくらなんでもポンコツすぎる。
リサは頭を抑えながら立ちあがると。
「二回戦は私の勝ち! 次の勝負で勝った方が三本勝負を制するものよ!」
一時間後。三人でお茶を飲み、少し落ち着いた後でいつもの森の前へ。
「最後の対決は、『モンスター退治対決』よ!」
リサが提示した対決内容は、どちらがたくさん、かつ強いモンスターを倒せるかというもの。
冒険者としてはまさに王道という感じの勝負だけど、リサが戦闘能力でアリシアさんに勝つ未来が見えない。それなのになぜ彼女は自分に不利な勝負を持ち掛けるのだろう。
しかし、こちら側にも問題がないわけではない。
「この勝負大丈夫なんですか? スライムなんか出てきたら……」
アリシアさんにこっそり耳打ちする。もしモンスター退治の途中でスライムが出てきたらその時点で彼女は腰を抜かしてしまう。
「うーん、たぶん大丈夫じゃないかな?」
「さっき『根拠のない自信はやめよう』って話したばっかりですよね?」
僕の不安をよそに、アリシアさんはお気楽だ。
「それじゃよーい、ス……」
「うわあああああああ!!」
リサが対決の開始を宣言しようとしたその時。森の中から男の叫び声が響いた。
「な、なに!?」
「誰かの叫び声です! 行きましょうアリシアさん!」
「うん!」
僕たちは急いで走り出し、森の中に入っていった。
「た、助けてくれええ!!」
悲鳴を上げていたのは、冒険者パーティーだった。4人組で、彼らはそれぞれ自分の武器を構えて、一か所を見つめていた。
視線の先にいたのは、巨大な虎。サベージタイガーだった。
全長3メートルはありそうな巨体。成体は体重が300キロにもなるという。猛禽のような鋭い眼光と、名前が付くきっかけになった、人間を容赦なく屠る尖った牙。実物を見るのは初めてだったが、僕は圧倒され、息を飲んだ。
「皆さん! 下がってください!」
アリシアさんが最前線に立ち、両手剣を手に持った。この場でサベージタイガーとまともに戦えるのは彼女だけだろう。
「待ちなさいアリシア。抜け駆けは許さないわ!」
「リ、リサちゃん!?」
アリシアさんがサベージタイガーを倒そうとしたその時、間に入って来たのは自信ありげな表情のリサだった。
「これは運命よ! アリシア! そしてサベージタイガー! あの時アンタに邪魔された屈辱を今晴らしてやるんだから!」
そういえばリサはサベージタイガー討伐を邪魔されてからアリシアさんのことをライバル視し始めたと言っていた。つまりこれはリベンジであり、リサは一人で戦うつもりなのだ。
「私の魔法を食らうがいいわ!」
さっき組手の時に見たように、リサは黒い本を開き、魔法陣を展開する。
「<アルティメット・ファイア・メテオ>!!」
アリシアさんに放った炎魔法をサベージタイガーに撃つ。炎の弾丸が一直線に突き進む。
「ガアッ!!」
しかし。サベージタイガーが咆哮した途端、炎魔法は空中分解し、そのまま消えてしまった。
「う、ウソ!?」
リサは愕然とし、大きく目を見開いて声を上げた。リサの魔法が弱かったわけではない。サベージタイガーが強すぎるのだ。
「グオオオオ!」
サベージタイガーは吠えると、前足で思いきり地面を蹴り、リサの方へと走り出した。
サベージタイガーは人間とは比べ物にならないほど速い。当然、今からリサが逃げようとして逃げられる距離でもない。
「い、いや……」
リサは顔を真っ青にして、その場に座り込んでしまった。このままでは一番にやられるのは彼女だ!
サベージタイガーは彼女のすぐ目の前まで迫ってきている。その爪が振り下ろされようとした瞬間。
「危ないっ!」
リサの前に立ち、サベージタイガーの爪を両手剣で止めたのは、アリシアさんだった。
「えいっ!」
適当な掛け声で両手剣を持つ力を強めると、サベージタイガーの巨体は吹っ飛ばされ、ゴロゴロと転がっていった。
「せいやっ!」
バカみたいな声を上げてサベージタイガーの方へ駆け寄り、少し溜めを作ってから剣を横一閃すると、どういう原理なのかはわからないが剣が光を帯び、空間をも切り裂いてしまいそうな素早い一撃になる。
会心の一撃を食らったサベージタイガーは斬撃を食らい、象に跳ね飛ばされたようにゴロゴロと転がっていき、パタリと絶命した。
つ、つえー。
今日の二連覇ぶりを見て、僕の中でアリシアさんの評価が爆上がりだ。今までスライムに泣かされている姿しか見たことがなかったので、正直そんなに強いと思っていなかった。
「リサちゃん、大丈夫?」
アリシアさんは振り返り、腰を抜かしているリサに手を伸ばす。
「ばっ」
「ば?」
「バカじゃないの! また私の邪魔してくれたわね!!」
「「……」」
リサは涙目になりながらアリシアさんを指さした。
「リサ、アリシアさんが来なかったら死んでたでしょ?」
「そんなことない! アリシアが割り込んでこなかったら勝てたもん!」
めちゃくちゃな理論だ。リサがサベージタイガーに勝てた確率はあの状況では0に近いだろう。
「とにかく! この三本勝負は引き分けだから! アンタは私のライバルよアリシア!」
「往生際が悪いなあ」
「まあまあユート君、いいじゃないですか。友達が増えるのはいいことだよ」
「友達って言うなあああああ!!」
こうして赤髪魔女っ娘のリサが友達に……ライバルになった。
おまけ
ユート「かき氷のシロップって風味を変えただけで基本同じ味なんですよ」
アリシア「え゛っ゛」