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40話後半 アリシアさんはテレサちゃんを止める!

「バカな……オレが不意を突かれただと……」


 アリシアさんは起き上がり、目を見開いて困惑しているテレサちゃんを見つめる。


「だ、だったらもう一度限界を突破すれば……!!」


 テレサちゃんはさっきと同じように集中力を高めるが、彼女の体に黒い文様は現れない。


「体力切れだよ。それに、もう武器もない。あなたの負けだよ、テレサ」


 アリシアさんの宣言を受け、テレサちゃんは数秒沈黙した後、ばたりと地面に大の字になって倒れた。


「なんかアリシアさんが勝ったみてえだな!?」


 おっと。ダースの声で思い出したけど、ゴーグルをつけっぱなしだった。かなり濃密な戦いだったな。少し感慨深さを懐きつつ、僕がゴーグルを外す。


「……オレの負けだ。殺せ」


「待ってよテレサちゃん! アリシアさんは君の命を奪うために戦ったわけじゃないよ。現にさっきの戦いでも、攻撃らしい攻撃はしなかった!」


 アリシアさんは対話を望んでいる。だから彼女の体力が尽きるまで戦ったのだ。


 アリシアさんはテレサちゃんの方へ歩み寄り、しゃがむと。


「テレサ、私の話を聞いてくれる?」


「嫌だ! 何度も言っているだろう、オレはお前の言うことは聞かない!」


 テレサちゃんはあくまでも反発したいらしく、倒れたまま声を上げる。意地っ張りだなあ。


「なぜ貴様はオレの計画の邪魔ばかりする!? 未来を破滅させたいのか!?」


「……それはね、テレサが優しい子だからだよ」


 その言葉に、テレサちゃんはハッと意表を突かれる。


「な、なにを言ってるんだ! ふざけるのも大概にしろ!」


「ふざけてなんかないよ。テレサは昔から優しい子だったもん。それに、未来を変えるため――みんなを守るために、この時代までやってきたんでしょ?」


 今のテレサちゃんを見ていると忘れそうになるが、彼女も元々は銀髪幼女だ。アリシアさんの指摘はもっともで、根は優しいはず。


「違う! オレはそんな褒められたような人間ではない! お前が勘違いしているだけだ!」


「さっき戦っていてわかったよ。テレサは私のことを傷つけず、実力差をわからせようとしていた。テレサが本気だったら、勝負の結果はわからなかったよ」


「それはお前の勘違いだ! オレは本気を出してお前と戦った!」


「だったら――なんでテレサは泣いてるの?」


 テレサちゃんはそこで気付く。自分がボロボロと涙を流していることに。


「あ……え? オレが涙……どうして?」


 涙を拭うが、それでもどんどん溢れてくる。あの怖かったテレサちゃんが、泣いているのだ。


「テレサは、本当は優しいんでしょ。無理して口調を変えてるみたいだけど、それはわかったよ」


「オ、オレは優しくなんか……」


「私が死なないために、これまで我慢してきたんだよね。でも、もうテレサだけが辛い思いしなくていいんだよ」


 アリシアさんがテレサちゃんの頭を撫でる。目の鋭さが少しずつほどけていき、表情も柔らかくなっていく。


「あ、あ……」


 テレサちゃんは顔を紅潮させて。


「ありし~~~~~!!!」


 もう取り繕わなくてもいいとわかったのか、テレサちゃんは大声で泣いた。アリシアさんにぎゅっと抱き着き、子供のようにわんわんと声を上げる。


「ありしーがいなくなって、テレサは辛かったのです! みんなどんどんいなくなって、テレサが頑張るしかなかったのです!」


「よしよし、頑張ったんだね。もう大丈夫だよ」


 一人称が『オレ』のテレサちゃんの人格は、未来を絶対に変える――アリシアさんを絶対に助けるという覚悟から作り上げた、彼女なりのものだったんだろう。それが一気に崩れて、テレサちゃんは今と変わらない可愛いテレサちゃんに戻った。


「これにて一件落着、って感じだな?」


「なんでダースが話を仕切ってるんだよ」


「俺頑張ったよね!? 俺がいなかったらこの結末にはならなかったじゃん! ちょっとくらい俺が喋ってもいいだろ!!」


 こいつ本当にうるさいな……顔を近づけて喋ると唾が飛ぶから近づくな。


 ダースの存在は間違っているとして、言っていることは正しい。テレサちゃんから剣を取り返し、彼女を改心させることができたのだ。この状況を一件落着と言わずしてなんと言おうか。


「でもありしー、未来はどうやって変えるのです? テレサはもうみんなが傷つくのは見たくないのです……」


「私もそれは同じだよ。だから、一人で抱え込むんじゃなくてみんなで解決する方法を考えよう」


「みんなで?」


「そう。テレサは一人で抱え込みすぎたんだよ。みんなでどうすればいいかを考えれば、きっといい案が思いつくはずだよ!」


 その通り。みんなで解決策を考えればいいんだ。こっちにはマツリさんもいるし、一年以内ならいい作戦が思いつくはず。


 そうだ、そういえばマツリさんを置き去りにしてしまったな。せっかくいいゴーグルを開発してくれたんだからお礼を言わないと。


「マツリさん、ゴーグルを作ってくださってありがとうございました。おかげでしっかり戦いを見ることができました――」


「いやー、ツイてるツイてるッ!」


 マツリさんに謝辞を述べているその時だった。


 僕たち以外の誰かの声が河原に響いた。声の方を見てみると。


「テレサ・カリーノが動けない上にタカハシ・マツリ博士までこの場にいるなんて。なんたる僥倖(ぎょうこう)ッ! これは筋肉に感謝しないといけないな~ッ!」


 こちらに歩いてきているのは、ワックの、ノーソンの、しえ寿司の、マッチョな店員さんだった。上半身裸で、隆起した筋肉を見せつけながら喋っている。


「あ、あいつは!?」


「テレサちゃん、何か知ってるの!?」


 テレサちゃんが慌てて声を上げる。その目には恐怖が宿っていた。どうやらただ事ではなさそうだ。


「あいつが、未来の世界を滅ぼした魔王軍四天王の一人! バルクなのです!!」

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