37話前半 アリシアさんは『休暇』が命!
「さて今日もトレーニングを……アリシアさん?」
「うん……頑張っていこうか……」
ギルドのいつもの席。僕とアリシアさんは毎度のように向かい合って座っているわけだけど……今日はなんだか彼女の様子がおかしい。
アリシアさんは机に突っ伏して、すごく眠たげだ。残業が明けた後の冒険者のように、クタクタな様子。疲労がオーラのように見えてしまいそうだ。
「どうしたんですかアリシアさん? 夜勤でもしたんですか?」
「ううん。いつも通りだよ。さあ、トレーニングをしようか……」
立ち上がろうとした瞬間、アリシアさんは貧血のようにフラッと倒れそうなり、咄嗟に机に手をついた。
「本当にどうしちゃったんですか!? 絶対おかしいですよ!」
「大丈夫だよ。なんでもないから」
そんなわけないわ! 普段あんなにピンピンしている彼女がこんなに弱っているなんて何かがおかしい。
これは……まさか!
トレーニングのやりすぎ!?
「アリシアさん、正直に言ってください。疲れてますね?」
「……うん。本音を言うとね。でも大丈夫だよ、今は頑張らないといけない時期だから」
「馬鹿野郎っ!」
彼女の言う通り、今はテレサちゃんとの戦いのためにトレーニングを頑張る必要がある。それは紛れもない事実だ。だけど、そんなことでアリシアさんが体調を崩してしまったら意味がなくなってしまう。彼女が無理をして、もしも体を壊してしまったら最悪だ。
「黙っててごめんなさい……確かになんだか最近、体が重いなあとは思ってたんだ」
「いいえ、これは僕がマネジメントを怠ったのが原因です。ここ最近は毎日のようにトレーニングをしてましたからね。アリシアさんの体のことを考えていませんでした」
思えば、過酷なトレーニングを繰り返してきたように感じる。ワックで体験会をやって、500ギルくじを引いて、アスレチックで遊んで、ジムに行って……。
あれ、本当に過酷か? なんかそうでもない気がしてきたぞ。
まあいいや、過酷だったということにしておこう。とにかくアリシアさんの疲労が抜けていないことは問題だ。その状態でトレーニングを行うのはまずい。ということで。
「今日のトレーニングは無し! 休暇とします!」
「お休み……? それって大丈夫なの?」
「休むべき場面は休んだ方がいいです。これ以上続けても成果が出ないどころかむしろマイナスになりかねませんから」
アリシアさんは申し訳なさそうな顔をしているが、仕方のないことだ。誰だって頑張れば疲れるものだから。
「じゃあ今日はお休みを貰おうかな。せっかくのお休みだし、何をしよう……?」
「アリシアさんの好きに時間を使うのがいいですよ。睡眠をとるのもいいですし、どこか好きなところに遊びに行くのもいいんじゃないですか?」
アリシアさんは腕を組み、うーん、と考え始める。何秒か唸って考えると。
「みんなで集まって何かしたいな! やっぱり休日はワイワイしたいよ!」
アクティブだなあ。アリシアさんはお疲れ気味なのにまだエネルギーが有り余っているらしい。彼女が何をしようが自由なので、僕としては反対する理由がない。
みんなで集まってワイワイかあ。となるとアウトドア系かな。夏に皆でアウトドア……。
「そうだ、バーベキューなんてどうですか?」
「それいい! 私バーベキューなんてやったことないよ! みんなで河原でバーベキューをしよう!」
アリシアさんの一声で、今日はバーベキューをやることに決定。夏といえばやっぱりバーベキューだよね!
「でも、バーベキューって何から始めればいいんだろう?」
「まずはコンロなどの機材をレンタルしましょう。それから材料をスーパーで買って、それぞれ持ち寄ればバーベキューが出来ます!」
「なるほど! じゃあ準備に取り掛かろうか!」
「バーベキューをやろうだなんて、アリシアにしてはいい案をだしたじゃない。ちょうど暇な私にピッタリだわ」
僕、アリシアさん、リサの三人はスーパーに向かって歩く。買い物班は僕たち三人になったのだ。
ロゼさんとマツリさんはメカニックに詳しいので、コンロを用意する係。誘ってみたら乗り気で、河原までコンロを持ってきてくれるらしい。マツリさんは相変わらずバランスボールだったけど、大丈夫なんだろうか。
「それにしても懐かしいわね。少し前にスーパーに行った時は、アリシアがこーんな小さくなってて大変だったわ!」
「別にリサは大して面倒見てなかったでしょ。母親ヅラはしてたけど」
「見てたわ!! 悪さしないかしっかり見張ってたわ!! 馬鹿にするんじゃねえ!!」
どちらかと言うとリサの方が悪さはしそうだけどなあ。現に子供時代のアリシアさんは普通にいい子だったし。
「ユート君、バーベキューの具材って何を買えばいいのかな?」
「やっぱりお肉が中心じゃないですかね。あとは野菜とか」
バーベキューといえばまずは牛肉が必須だろう。それから玉ねぎ、ピーマンなどの野菜も。甘だれをかけて食べると最高だ。ホタテなどの海鮮の食材も美味しいし、マシュマロを焼く人もいる。締めには焼きそばも食べたいな。
「へー、そんなには幅広く扱えるんだね」
「ですね。だから自由な発想で商品を選ぶのがいいと思います」
「自由な発想か……じゃあこれはどう!?」
アリシアさんが掲げたのは、100ギルで買えるドーナツの袋。
「ドーナツか~。ドーナツ……うーん……」
バーベキューでドーナツを焼いている人を、僕は見たことがない。しかし、見たことないからと言ってそれを否定していいんだろうか……。
「焼きドーナツってなんか新しいんで、アリってことにしましょう」
「やったー!」
早速、買い物かごにドーナツを入れる。
「ユート、これはどうだ!? エナジードリン……」
「駄目に決まってるだろ」
「否定早っ!? お前もうちょっと葛藤しろよ!」
リサが持ってくるものは9割おかしいに決まってるからな。判断する必要がなくて助かる。
「お前言ってることおかしいぞ! 『自由な発想で』って言ってた! 私の意見が通らないのはおかしいわ!」
「うるさいなあ。わかったよ。エナジードリンクはありにしよう」
「よしゃああああ! エナジードリンクを焼いてやるぜ!! ぶわっははははは!!」
このままだと先に進まないから、仕方ない。僕はちょっと不服だ。そんな僕の気持ちも知らず、リサはエナジードリンクの缶を買い物かごに入れた。
もうめんどくさいし、二人が言ったもの全部買っていくかあ!




