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33話後半 アリシアさんは『スピード』が命!

「ど、どうして!? まだ注文してからそんなに経っていないはず!」


 商品を注文してから提供するまでの『スピード』に、アリシアさんは目を丸くして声を上げた。彼女はようやく理解したのだ。ワックのすごさに。


「あ、わかった! 作り置きをしてたんでしょ! お昼時だし、事前にたくさん準備しておけばすぐ出せるもんね!」


「違います。ワックは注文が入った瞬間に作り始めますから、作り置きはしてないんです」


「ええっ!? じゃあなんでこんなに早く商品が……」


 瞬間移動にも近い神業を成せるアリシアさんでも驚く速さ。これこそがファストフードだ。とにかく注文してから出来るまでが早い。そして、食べるときもサクッと空腹を満たすことができる。


「なるほど……スピードの修行っていうのはこういうことだったんだね!」


 ポン、と手を叩き合点するアリシアさん。しかしこれだけでは修行は終わらない。


「さあ、サクッと昼食を済ませましょう。これからアリシアさんにはやってもらうことがありますから」


「ええっ!? ワックの速さを体感して終わりじゃないの!?」


「いいえ。体感するだけじゃ足りません。体験(・・)するべきです。


 僕の発言に、緊張感が走った。アリシアさんの額に汗が流れる。


 ……しかし、食事は別の話だよね。ということで僕たちは席につき、美味しくファストフードたちを食べた。バーガーにかぶりつくと、口に広がるジャンクな味わい。塩加減が最高!



「さて、腹ごしらえも済みましたし、後半戦と行きましょう!」


「おー! で、なにするの?」


「これです! 『ワックダンジョン』!!」


 僕は店頭に置かれたチラシを一枚手に取り、アリシアさんに見せつけた。


 ワックのハンバーガー作りを体験してみよう! 『ワックダンジョン』!


 どんな方でもワックのおしごとが無料で体験できます。


 対象年齢:3歳~


「ちょっと待って最後の一行」


 ん? アリシアさんが何か言ってるぞ。まあ僕からしてみればアリシアさんの方がテレサちゃんより手がかかるし、そこは気にしなくていいと思う。


「大丈夫ですよ。昨日ちゃんと予約はとってますから。さて、そろそろ時間のはず……」


「こんにちはッ! 本日ワックダンジョンに予約してくれた二人かなッ!?」


 お、噂をすれば。僕たちに声をかけてきたのは、さっきカウンターで注文を受けてくれたマッチョの店員さん。さっき筋肉を膨張(パンプアップ)させて制服をビリビリにしていたが、今はまた制服を着ている。新しいのに着替えてきたらしい。


「では早速、ワックの制服をお貸ししますので、着替えちゃってくださいッ!」


「「はい!」」



 15分ほどして。僕とアリシアさんは紺色の制服に身を包み、厨房に立つことなった。黒い帽子に黒いズボンと、全体的に大人っぽい色合い。


 ワックの厨房を内側から見るのは人生で初めてだ。色とりどりの調味料が置かれていて、油っぽい匂いが漂ってくる。ここでハンバーガーが作られているのか……と思うと少し感動する。


「それでは早速、ハンバーガー作りを体験してみましょうかッ!」


 マッチョな店員さんはニッと笑い、綺麗な白い歯を光らせる。ツッコミどころがある人だけど、さすがに店員さんなんだからしっかり教えてくれるだろう。


「まずは包み紙を用意して、その上にバンズを置いて……」


 店員さんは材料が並べられた箱から順番にハンバーガーの具材を取り出し、ひとつひとつ順番に包み紙の上に置いていく。バンズ、ケチャップ、マスタード、ピクルス。色とりどりの具材が積まれ、最後にパティの上にバンズを置いて……。


「完成ッ! これがワックのハンバーガーッ!」


 出来上がり。実に30秒くらいだったが、ハンバーガーが出来る工程を見るのは初めてなので、なんだか感動だ。


 ここからは僕とアリシアさんが実際に作ってみるのだろう。サクッと食べられるハンバーガーなのに意外とやることが多かったのが印象的だ。ちゃんとできるだろうか……?


「今のでハンバーガーが出来るんですか? なんか思ったより簡単かも!」


「そんなわけないですよ。また根拠のない自信が発動しちゃってますよ。大人しく店員さんの説明を聞きながらやりましょう」


「いや、今回はなんか行ける気がする……! いくよ! 勇者ハンバーガー作りっ!」


 その時、アリシアさんの速度が高まり、目にも止まらぬ速さでの横軸移動が始まる。あまりの速さから残像が発生し、アリシアさんが8人に分身してしまった。厨房には不思議な風が吹き始める!


「ほう。影分身、ですか……」


 店員さんが腕を組み、感心するように独り言ちる。何か知っているんだろうか。


「東洋にかつて存在したと言われている伝説の存在『シノビ』……彼らが用いた特殊な技術の中に、自分の分身体を作り出すものがあるという。そんな技がまさかここで見られるとは……! この上ない僥倖(ぎょうこう)ッ!!」


 なんか解説し始めたぞ。影分身うんぬんじゃなくて、単にスピードが速すぎて残像が見えてるだけだと思うけど……。


「できたっ!」


 アリシアさんはそう言うと、ピタリと動きを止める。なんと彼女の前には山盛りのハンバーガーが置かれていた。既に一仕事したと思っているのか、ドヤ顔で胸を張っている。


「どれどれ……」


 店員さんはアリシアさんが作ったハンバーガーの包み紙を開き、精査を始める。


「うん! 作り方全然違うッ!」


 店員さんは|ダブル・バイセップス《筋肉をアピールするポーズ》をして、笑顔で言い放った。筋肉が風船のように膨張をはじめ、制服がビリビリに破裂する! 本日二回目!


「え、えええええ!? 違うの!? まさか、そんな……」


「だから言ったじゃないですか……っていうか誰もが予想できたオチだと思いますよ」


「そんなぁ……ご、ごめんなさいぃ……私はポンコツですぅ……」


 膝を抱えてべそをかくアリシアさん。ここ厨房だからね。


「全部ピクルスを入れ忘れてるね。ワックはマニュアルを用意して、その通りに作ることで効率を上げているんだ。この動きはマニュアル通りじゃない。だから普通に作るより遅くなってしまったんだ」


「マニュアル……ですか?」


「そう。大切なのは『流れ』を意識することだよ。どんなに早い動きも、正確さがなく、流れに逆らっていたら意味がないんだ」


「流れ……正確さ……そういうことか!」


 アリシアさんは理解して、ポンと手を打つ。


 そう。アリシアさんの速さは洗練されていない。確かにスピードはあるけど、それが無駄に発散されてしまっているのだ。僕はそれを理解してほしくてワックに彼女を連れてきたのだ。


 ……というのは嘘だ。アリシアさんが勝手に失敗して、店員さんが勝手に格言を言って、アリシアさんが勝手に納得しただけだ。完全に偶然の産物である。


「ユート君が言いたかったのはこういうことだったんだね! 私、心に刻みつけたよ!」


 それでもアリシアさんは感動してるみたいだし僕はワックの裏側が見れて満足だし、結果オーライってことで!

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