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32話後半 テレサちゃんは未来から来た!

 テレサちゃんとの戦いが終わり、僕たちは河原からギルドのいつものギルドの席に移動した。


 僕、アリシアさん、ギルバートさん、リサの四人で席に座っているわけだが、とにかく空気が重苦しい。特にアリシアさんが俯いて黙っているので、声をかけづらい。あの明るいギルバートさんすら、どうしていいのか考えあぐねているくらいだ。


 テレサちゃんがいなくなった後、ゴミ拾いは話が別だよね、ということでみんなでゴミ拾いを再開したが、アリシアさんは浮かない顔。仕方ないから彼女がやりたがっていたゴミ拾い競争をしたのだが、僕が優勝してしまった。なんだこれ。


「えーと、状況を一度整理してもいいですか」


「お、おう! そうだな! 俺も何が起こってたのか全然わからなくてな」


 さすがに話を切り出さなくてはと思い、僕が口火を切る。


 河原で起きたことをざっくりと整理すると。


 ゴミ拾いをしていたアリシアさんと僕の前に、『十年後の未来から来た』というテレサちゃんが現れた。


 テレサちゃんの目的は、アリシアさんの死を回避すること。勇者が魔王に倒されたことで、人類は希望を失った。つまりアリシアさんさえ死ななければ、世界はテレサちゃんがいたようなポストアポカリプスな世界にはならない、ということらしい。


 だからテレサちゃんは、アリシアさんから剣を奪い取れば、彼女が魔王と戦う未来を避けられると考えた。戦闘の末、アリシアさんの両手剣を手に入れた。ついでにダースが裏切ったと。


「なるほど、つまりそのテレサとヒゲを倒せば完璧ってわけね!」


「話聞いてたか? あの戦闘ぶりを見てたらお前じゃ太刀打ちできないのわかるだろ。あんなの俺だって足手まといにしかならないぞ」


 意外だったのは、ギルバートさんですら、あの戦いでは戦力不足だということだ。僕が見えなかったのも仕方ない。かなりハイレベルな戦闘だったのだ。


「でもさあ、結局剣を奪われただけなんでしょ? だったらいいじゃん。アリシアの家は金持ちなんだし、もう一本くらい買ってもらえば?」


 リサは率直に提案するが、アリシアさんの表情は変わらず悲しそうだ。


「実は、そうはいかないんだ。あの剣は特別なの」


「「「特別?」」」


「うん。あの剣、聖剣エクヌカリバーだけは……」


 エクヌカリバー? また新しい設定が出てきたぞ。


「エクヌカリバー……聞いたことあるぞ!」


 ギルバートさんが驚いたような表情で言う。


「エクヌカリバーはかつて、大きな岩に刺さっていた剣だ。それを引き抜いたものが勇者の証とされていて、その特徴がタカハシ・マツリ博士が所有するノートに書かれた『エクヌカリバー』に近いことからその名前が付けられたという……」


 設定ノートって、前に戦艦ヤマトダイナが書かれていたって言うあの? エクヌカリバーってすごくゴロが悪い気がするんだけど、書かれていたのなら間違いないだろう。本当になんでも書いてあるノートなんだな。


「あの剣は勇者の証……だから、あの剣がないと私は勇者の力を失ってしまう……」


 なるほどなあ、そりゃ大変だ……。


 え、勇者の力を失う?


「ちょっと待ってください。勇者の力を失うって……」


「そのままの意味だよ。私は少しずつ、勇者としての力を失っていくの。一年もすれば勇者としての力は完全になくなるんだ……」


 耳を疑った。アリシアさんが力を失う? 信じられない。あの最強のアリシアさんが……?


「ちょっと失礼します。くらえっ! 一般人しっぺ!!」


「うぎゃあああああ!! いきなりなにすんのさ!」


 試しにアリシアさんにしっぺをしてみる。すると彼女は痛そうな声を上げ、涙目になってしまった。


「やっぱり……アリシアさんが弱くなってる!」


「まだなってないよ!? 前にしっぺした時も同じ反応だったよね!? じわじわ一年かけて弱くなっていくものだから!!」


 あれ、そうだったっけ。てへっ。


「で、どうすんのよ? 剣がないとマズいのはわかったわ。あのテレサとか言う子の家を見つけて剣を盗む?」


「さすが前科者は発想が違うね……」


「ユート貴様! お前まで私のことを前科者呼ばわりするんだな!? そもそも私は前科者じゃねえ!」


 ブチギレるリサ。しかし、彼女が言うことも一理ある。剣を奪い返さないとアリシアさんが弱体化してしまうなら、何としてでも取り返さなければいけない。それこそ不法侵入をしてでも。


 そこで何気に厄介なのはダースだ。あいつはゴキブリ並みに生命力が高く、幾度となく修羅場を潜り抜けている。危険を察知する能力が高いので、家を探そうとすれば勘づかれる可能性もあるのだ。


「……やっぱり私、自分でテレサに話を付けてくるよ」


 アリシアさんは覚悟をしたように立ちあがる。


「どうしても剣を取り返したいんですか? テレサちゃんの言う通りにするって手もありますよ?」


「それでも……私は勇者だから、みんなを守りたいの」


 しかし、彼女が一人で話したところでテレサちゃんの考えが変わるとも思えないし……でもどうしても勇者として剣を取り返したいというなら、僕も協力したい。


 テレサちゃんから剣を取り返したいけど、話し合いはできない。だとしたらどうすれば……


「……そうだ!」


 いい案が思いついて、僕は声を上げる。


「アリシアさんを強化しよう!」


 作戦はいたってシンプル。テレサちゃんから力づくで剣を取り返そう。どうせコソコソ剣を盗んだところで、後で見つかったらまた戦闘になるに決まっている。


 剣がある状態でもテレサちゃんとアリシアさんの間には戦力差があった。どのみちテレサちゃんに勝つことが出来なければ剣を取り返すのは難しいだろう。だったらアリシアさんが強くなるしかない!


「私を強化するって……でもどうやって?」


「スライム克服の時間を使って、トレーニングをしましょう! テレサちゃんに勝てば剣も取り返せるし、気持ちも伝わるかもしれませんよ!」


 剣を持っている状態でも、アリシアさんはテレサちゃんに負けてしまった。だから武器がない今はなおさらだろう。しかし、ここから鍛えればきっと勝つことはできる。そうすればアリシアさんが勇者としてみんなを守りたい気持ちだって伝わるんじゃないだろうか。


「私、やってみるよ!」


 さっきまで半べそをかいていた様子から一変、アリシアさんはぐっと拳を握り締め、やる気になったようだ。


「ユート君! さっそく明日からトレーニングしよう!」


「そこは今日からじゃないんですか!?」


「ええー、今日はお休みにしてさ、明日からにしようよ」


 なんでそこだけ急にやる気ないんだ?


 しかし、僕にも準備がある。ちょっとしゃくだけど、彼女のいう通りに明日からにしよう。


 なし崩し的にテレサちゃんと戦って、アリシアさんは敗北した。でも、もう少し冷静に話し合えば他の解決策だって見つけられるんじゃないだろうか。それに、あんなに可愛いテレサちゃんがオレっ子になってしまったのも気になる。


 今の僕に出来ることは、アリシアさんのサポート。すなわち、全力で彼女を鍛えることだ!


 こうして僕たちの『スライム克服作戦』改め、『テレサちゃん打倒作戦』が始まったのだった!!

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