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3話後半 アリシアさんはスライムが苦手?

「スライムを構成する要素って、ドロドロだけじゃないですよね?」


「どういうこと?」


 僕はバッグの中に入れていたノートを開き、ペンで書き出す。


「いいですか。スライムの特徴って『ドロドロのゲル状の体』、『つぶらな瞳』、『ハムスターみたいな鳴き声』の三つに分かれますよね」


 ふむふむ、とアリシアさんは頷く。


「ドロドロはスライムのものしか驚かなかったわけですけど、残り二つの『つぶらな瞳』と『ハムスターのような鳴き声』だったら……」


「そっか! もしかしたらスライムじゃなくても驚くかもしれない!」


 つまりこれは実験だ。もしスライム以外の『つぶらな瞳』と『ハムスターのような鳴き声』を持つ生き物を前にして、アリシアさんが腰を抜かしてしまったら、彼女はスライムそのものが苦手ということでは無くなる!


 だからなんだ? という感じだが、さっきアリシアさんがスライムを探知(たんち)する能力を見てしまったので、確かめたいという気持ちを抑えられない。


「アリシアさん、今すぐ行きましょう!」


「行くってどこへ?」


「動物園です!」



 シエラニア動物園。僕たちが暮らす街に唯一ある動物園で、大きなゲートにはでかでかと笑顔の動物たちが描かれている。子供から大人まで、幅広い世代に人気のスポットだ。


「ユート君、動物園なんて来ちゃって、これからどうするの?」


「この動物園にある『うさハムゾーン』っていう場所に行くんです」


「うさハムゾーン?」


「うさぎとハムスターと触れ合える場所です。ここなら『つぶらな瞳』と『ハムスターのような鳴き声』の二つを同時に検証……」


「うわ~っ! なにその天国! 暴力的! 私早く行ってみたい!」


 目をキラキラと輝かせ、ウットリとした表情を浮かべるアリシアさん。


 あれ……これ既に作戦失敗してるっぽくない?


 子供のようにワクワクしている彼女が、うさぎのつぶらな瞳を見て腰を抜かす未来が見えない。


 やっぱりアリシアさんはスライムにしか驚かないんじゃないのか?


「さあユート君! 早く中に入ろうよ!」


「ああ、ちょっと! 引っ張らないでください!」


 アリシアさんに手を引かれ、僕たちは券売所(けんばいじょ)に行き、二枚の入場券を購入した。


「見てユート君! 既に動物さんで溢れかえってるよ!」


 ゲートをくぐり、動物園内に入る。人はそれほど多くなく、動物のコーナーにまばらに人が集まっている。


「観光もいいですけど、目的を忘れないでくださいよ?」


「わかってるよー! うさぎとハムスターをモフりに行くんでしょ?」


「違います。スライムが嫌いなのかの検証に行くんです」


「わ、わかってるってー! やだなー!」


 あ、これわかってないな。普通に動物を愛でに来てるな。


「あ! うさハムゾーンはあっちみたいだよ! 行こうユート君!」


 アリシアさんは嬉々として道に立っている『うさハムゾーンは右』と書かれた看板を指さす。


 僕たちは看板の指示に従い、道なりに五分ほど歩く。



「キュ?」


「かーーーわーーーいーーー!!」


 ケージに顔を近づけるアリシアさん。格子(こうし)の中からくりくりとした目でハムスターたちが彼女を見つめる。


 うさハムゾーン。動物園内に建てられた屋内施設であるここには、ハムスターがケージに、ウサギが柵の中に入れられて飼われている。


「ユート君見てくださいこの子! 口の中が食べ物でいっぱいですよ!」


 餌を頬袋(ほおぶくろ)にため込んでまんまるになったハムスターを指さし、アリシアさんは嬉しそうにリポートをする。彼女のテンションメーターはここに来てマックスになっているようだ。


「ようこそうさハムゾーンへ! 触れ合ってみますか?」


「「はい!」」


 飼育員のお姉さんに言われ、僕たちはハムスターと触れ合うことに。


「キュ?」


 手のひらサイズの小さなハムスター。アプリコット色の体毛はつやつやとしていて、よく毛づくろいされている。


「ユート君、どうやって手に乗せればいいんだろう?」


「まずはハムスターに手のひらを近づけて、乗ってくれるのを待つんです」


 普通のハムスターだったらできないだろうけど、ここの子たちは人なれしているから。そう言っているうちに、僕の手のひらに一匹、ハムスターが乗ってくる。口をモゴモゴと動かしていて、熱を感じる。


「乗ってきたら、毛並みに沿って撫でてあげて……」


「わあ~!」


「キュ~」


 優しく撫でてあげると、ハムスターはうっとりとした表情になる。僕の手に完全に体をゆだねており、このまま寝てしまいそうだ。


「ユート君ってなんでもできちゃうよね」


「器用貧乏なだけですよ。ほら、アリシアさんもやってみてみましょう」


「うん! わかった!」


 僕が言ったようにアリシアさんも手のひらをハムスターに近づけていくと。


「キュ!」


「うわっ! ユート君、ハムが乗って来たよ!」


「お腹は触らないように、高いところに動かさないで、優しく撫でてあげてください」


「う、うん!」


 アリシアさんは恐る恐る、ハムスターの体を人差し指で撫でてあげる。


「キュ~」


 ハムスターはうっとりとして、嬉しそうな鳴き声を出す。


「やった! できたよ!」


「おめでとうございます!」


 手乗りハムスターに成功したアリシアさんはあまりの嬉しさに小躍りしている。初々しく喜んでいる彼女に、思わず頬が緩む。


「ユート君! 次はウサギも抱っこしてみようよ!」


「やってみましょう!」


 結局僕たちは、日が暮れるまで動物園を満喫(まんきつ)したのだった。



 動物園の入り口にて。赤髪の少女が一人立っていた。


 黒いとんがり帽子、真っ黒なマント。それらの服装はまるで魔女のようである。


「待ってなさいアリシア……いや、私の好敵手(ライバル)!」

おまけ

ユート「僕たち動物園に何しに来たんでしたっけ?」

アリシア「さあ?」

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